ヤメタ
ヤメタ。今日定時まで働いて、その後、組長、班長、に辞めるって言ったら、なぜか課長まで来て、引き止められた。こんなオレでも、一応それなりには、役に立ててたのかもナ。でももうムリなんで、今度はオレの決心は変わらなかった。なので話は、30分で済んだ。「一応今月一杯籍置いとくから、いけそうになったら帰って来い」と、心遣いが、痛み入るぜ。組長、アンタの期待に答えられる力が、オレには残されていないのが、残念だ。定時を回ってると言うのに、更衣室に向かうのはオレだけ。工場内の大通りを、更衣室に向かって歩く。左右に工場棟。油でツルツルになっているアスファルト。場内の照明が、ツルツルの地面に当たり、イヤな感じに跳ね返る。今日はさいわい降っていないが、雨の時とか、濡れるとかなり滑るんで、要注意だ。両側につづく、工場棟。改めて見ると、けっこう広いな。しばらく歩く。ロッカー棟に到着。中にはちょっとした売店があるが、今は閉まっていて、二階は食堂になっている。今、ここにいるのは、オレだけだ。定時を過ぎても、なんら変わることなく、動き続ける工場。ロッカー。オレと同期で、同じ派遣会社から入ったのが、オレを混ぜて、3人。三つ並んだ真ん中が、オレのロッカー。左側のヤツは、二週間も経たないうちに、名前が剥がされ、別の名前に変わっていた。ワルイナ、今度はオレの番らしい。ふと右側のを見ると、あるはずの名前がナイ。そうかオマエも、もう先に行っちまったんだな。オレのロッカーを開ける。クリーニングに出しても、染み付いた油の取れない、支給品の替えの作業着。替えのズボン。これは自前。ロッカーから、引きずり出す。着替える。いつもは脱いだのを、ハンガーに丁寧に掛けるが、もうその必要はない。地面へと放る。全部引きずり出す。安全靴も、帽子も。作業着、ゴミ箱へ。ズボンも、ゴミ箱。防護メガネ、安全靴。最後に、工場内で、着用が義務付けられている、帽子。全部捨てた。もうココに戻ることも、ないだろう。派遣会社へも、辞めることを、携帯で伝える。休むにしろ、何にしろ、工場と派遣会社、両方に連絡を入れなくちゃならない、メンドウなシステムだったが、今日でオサラバ。歯車工場よ、サヨナラだ。