ひよきちわーるど

このところ　夫の仕事が忙しく
帰宅はほとんど午後10時過ぎである。

クラス担任も受け持ち、教務も兼ね、そのほか
本来なら他の職員がするべき仕事さえも被さってきている。

殊に 教務に就いたのは今年が初めてということもあり
何もかも手探りだそうで・・本当に疲れきっている。

私自身、何とかできないものか・・・と思うのだけれど
妻としてはただただ夫の話を聞くことしかできず、本当に歯痒い。

夫はもともと仕事の内容を話すタイプではなく
私もあえて問いただすということもしないけれど
でも、今だけは「話してくださいね」とお願いするようにしている。



・・・私自身、今から30年ほど前に大学を卒業し
幼稚園教諭として山間の小さな町に赴任した。

赴任していた間、本当に様々なことがあったけれど
このブログでは詳しいことは書かないことにしている。


教育機関だというのに信じ難いこと、憤るべきことがあまりに多く
私自身、どんなに悲しい思いをしたことだろう。


・・・そんな悪戦苦闘の真っ只中、ふと、自分の苦しい状況を
夫に打ち明けてみたことがある。

当時、大学を卒業して１年足らずだった。
夫も私も孤軍奮闘していた時期だったと記憶している。


実は、最初から彼に話を聞いてもらおうという気持ちではなく
何かの折にふと、本当に思いがけなく口をついて出た、という感じだった。


状況を打ち明けた後、しまった、と思った（笑）。

彼は 実は松岡修造氏のような熱いタイプで
とにかく「頑張ろう！」と熱弁をふるう人でもあった。

こんな、心身ともに疲弊しているときに「頑張ろう！」と激励されたとて
こちらは更に辛くなるだけだ・・とも思った。


そう思い ちょっと身構えている私に
彼は「そうか・・・」と一言だけ呟いた。

そして仕事のことについて
ひとつ、ひとつ、丁寧に質問してくれたのだった。

その質問に懸命に答える私に対し
彼は「 え！？  ほんまか！ そうなんか！ 」と一緒になって驚き、憤ってくれた。


・・・そう、教育機関だというのにその内情たるや酷いものがあり、
私はただ驚き、どうしていいか分からなかったのだ。

分からぬまま、ただ必死にその日その日を乗り切っていた。

職場に行けば「いじめ抜いてやる」と公言してはばからぬ上司。
根も葉もない噂もばらまかれた。

５月から７月末まで全く休み無し。
38度5分を超えても休むことさえ許されなかった。


・・・それだけに　一緒になって「 なんやねん、それ！」と驚き
怒ってくれた夫の温かさが身に沁みた。



また、彼に今の自分の状況を話しているとき
私自身、強い怒気を含んだ物言いだったことと思う。


そんな私の様子・・おそらくは彼も初めてだったのではないだろうか。

大学当時、私は比較的穏やかで
怒った様子を彼に見せたことなどなかった。

それだけに、おそらくは初めて見る私の強い怒りに対し
彼自身、驚いたのではないだろうか。


それでもそんなことなどおくびにも出さず
ただ、拙い私の話を聞いてくれた。

「 頑張れ 」も「 やればできるよ 」も、何もなかった。

ただ、すべて包み込んでくれた。


・・・・どんなに嬉しかったことだろう。

電話口から聞こえていた彼の声を
今でも、はっきりと覚えている。




・・・あれから30年。
今度は、私が彼のために、彼と一緒になって怒り、焦り、悩もうと思う。

彼に対し、決して「頑張って」とは言わない。
さらに奮起するための手立ても、一切講じない。


私の想像もつかぬ状況の中　ずっと走り続け、
心も身体もくたくたになった人に
どうして「頑張れ」などと言えるだろう。



夫が家に帰ってきたときには　娘とともに玄関に行き
「おかえりなさい！」と彼に駆け寄ろう。



誰が何と言ってきたとて
生涯、彼を守り続けたい。