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2021/04/29(木)00:00

『盗賊』側から見た『鬼平犯科帳』  「鬼平犯科帳〈7〉」

日本の作家が書いた歴史小説(158)

みなさん、こんばんは。聖火リレーが中止になった府県もありますね。みなさんのところはいかがですか? 今日も池波正太郎作品を紹介します。 鬼平犯科帳〈7〉 池波正太郎 文春文庫  泥棒の世界がどういう仕組みなのかは、謎である。 もしかしたら、『元泥棒の告白』という資料があるかもしれないが、 それさえ、盗まれた側の証言と、いちいち突き合わせて見ると、矛盾が出てくる可能性さえある。こういう曖昧部分は、『歴史の空白』として、作家の執筆意欲を大いにそそるらしい。  池波氏の『鬼平犯科帳』にも、多くの泥棒達が登場する。 彼等の一生は、概ね、こんな風だ。 幼い頃、親分に弟子入りする。いくつか、誰かの計画に加わる「すけばたらき」をこなした後に、独立。いわゆる「ひとりばたらき」ができるようになる。「ひとりばたらき」の初仕事は、元親分や、関わりのある人が助けてくれる事もある。独立すると、住居を決め、盗みとは関わりのない、もう一つの仕事をして、泥棒である事を隠す。 盗人として、やってならない事が3つある。 1.盗まれて難儀するものへは手を出さぬこと 2.つとめをするとき、人を殺傷せぬこと 3.女を手ごめにせぬこと  メインとする職業が「盗み」でなければ、この過程は、まるで職人や芸の道に生きる人達の徒弟制度だ。第一、「盗め」と書いて、「つとめ」と読ませているし、「本格派の 大盗」なんて形容もある。大がかりな盗みには、二つの盗賊が手を組む事もあるのも、大がかりな建築に複数の親方を配する大工と同じだ。 場所を決めない「流れ盗め」は、流れ板のようだ。 読めば読むほど、職人の世界との共通点が浮かび上がる。  本格派大盗と平蔵の攻防は、お互いを好敵手と認めあう者同志の一騎討ちの雰囲気すら漂う。かつて盗みの世界に身を置いた密偵達は、平蔵と盗賊の各々の立場・物の見方を共有するマージナルな存在。そのため、彼等は、どちらの義理人情にも縛られて、葛藤する複雑な キャラクターとして、しばしば物語の行方を左右する。また、正統派同志の対決ばかりでは物語が単調になるので、盗人三か条を無視するような、徒弟制度外の盗人を登場させる事で、盗人同志の対決というドラマが登場し得る。  世話になった親分のために、義理でやむなく仕事を請け負い、酷い目にあう事もあれば、その遺児の面倒を見る盗賊もいる。手を組むために結婚という手段が用いられる事もある。 こういった血縁に依存しない上下関係や、横の繋がりは、職人だけに限ったことではない。平蔵達武士の世界にも厳然と存在する。池波氏は、単に極悪非道なだけではなく、義理人情に縛られ、親子・男女の情愛を持ち得る人間として、多数の盗賊達を描いている。 同心が盗人を信じて代わりに獄に入る事を受け入れる『走れメロス』の発展版のような「あきれたやつ」という短篇も登場する。盗賊達を、同じ土俵に乗せる事で、池波氏は、実に様々な ドラマを生み出した。  登場する盗賊達の名前も、ユーモラスなもの、格好いいもの、いかにも恐ろし気な者と、こちらもドラマに負けず劣らず粒ぞろい。  料理、捕り方達、密偵。特徴のある文体。余韻を残す文章。 本シリーズの魅力はいろいろあるが、 平蔵達と対決しては、敗れてゆく盗賊達に焦点を当てて 物語を読んでみるのも、なかなか面白い。 ​送料無料【中古】新装版 鬼平犯科帳 (7) (文春文庫) 池波 正太郎​​ブックサプライ​

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