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カテゴリ:ショートストーリー
中だるみって言葉がある。
まさに美由紀はそうだった。 成績優秀で医師になっている兄と ミスコンで優勝した一つ年下の美人の妹に挟まれた 美由紀は、これと言って取り柄のない女の子だ。 子供の頃から、優秀な兄と比較されて嫌な思いを したモノだ。そんな兄が独立してから、今度は 妹と比較されるようになった。 「見た目だけは、私の責任じゃないわ」 学校が終わってからすぐに家に帰るのも 面白くないので、美由紀はアルバイトを始めた。 アルバイト先は駅前にあるシックなバーだった。 「自分から言うのも変だけど、しゃれた名前のバーで、 常連客も付いている。客の質もいいので、酔っぱらいに 絡まれる心配もないよ」 と面接の時にちょび髭のマスターに言われて、 「そんなら・・・」 と軽く始めたバイトだった。 「この頃、遅いんじゃない・・」 「どこ寄り道してるんだ・・・」 と両親に心配げに言われながらも、 うまく誤魔化して何となく続けていた。 マスターはレゲエが死ぬほど好きで 朝から晩まで、準備中から閉店まで、 あのチャラチャラチャチャ・・・ のリズムがバーに流れていた。 最初は、何て変な曲だと思っていた美由紀だが 毎日毎日聞いている内に、だんだん好きになり はまってしまった。 初めは、週3日のつもりだったが、 毎日行くようになり、 とうとう学校も休むし、 友達を放って日曜日も行くようになり、 ついでに、美由紀はマスターも好きになってしまった。 さらに悪いことに、大学も単位が足らなくて 両親に無断で辞めてしまった。 「もう、何て子でしょ」 事情を知った美由紀の母は、大泣きした。 父も苦虫を噛みつぶしたように渋い顔をしていた。 しかし、たった一つ幸いしたことは、 マスターはちょび髭で不真面目そうだが 実に律儀な人間で 「娘さんを下さい。必ず幸せにしますので」 と畳に頭をすりつけて、両親にお願いしてくれた。 そこまでされると、両親も弱い。 無事結婚する事になった。 新婚旅行? 「もちろん」と美由紀は言った。 二人の旅行先はレゲエの故郷ジャマイカだった。 ヘイ!チャラチャラチャチャ・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.08.29 10:40:58
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