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カテゴリ:ショートストーリー
正義の味方
知り合いが経営しているホテルの喫茶室で、ノートパソコンに向かっていると、 「よお」 と威勢良く手を挙げて、初老のオジサンが入ってきた。 若いウエイトレスが、パーッとオジサンの周りに群がった。 「誰?あの人」 と聞くと、 「ああ、山さんね」 「山さんって?」 「この町の古くからある旅館の息子さんなんだけどね。旅館の仕事は、奥さん に任せっきりで、市会議員をやってるの。何の得にもならない仕事ばっかり一 生懸命やってる。正義の味方」 「へえ・・・」 ・・・ 「わざわざ来ていただかなくても、こちらから出前に伺いますわ」 そうウエイトレスにふっかけられると山さんは、 「いやあ、今日は透析の日やったから来てもらってもなあ・・・」 と言って、豪快に笑った。聞くところによると、山さんは、腎臓が悪くて二日 に一度は透析を受けているそうだ。 「ほんまに、何とかなりますか?」 山さんを訪ねて、若い女の子がやってきた。 ほんの数分後、たちの悪いチンピラ風の男がやってきた。 男は、いきなり突っかかった 「おい、その女は、われの女じゃあ。邪魔せんどいてや」 山さんは、笑みをたたえながら少しも動ぜず 「まあ、兄さん、座れや」 男が仕方なく座ると、山さんは 「この子は、わしの娘や。手を出すんやないで」 男は、カアーッとなって立ち上がった 「ウソつくな・・・」 「ほんまや・・・あんた、どこの組や?」 「S会や・・それが、どうした」 山さんは、携帯電話を取り出し 「ああ・・・組長さんかい、久しぶりやな・・・・・と言うわけや。この子、 ワシの娘ってことでよろしいなあ・・・兄さん、おたくの組長や」 と言って、男に携帯電話を手渡す。 男は信じられないと言う顔で、携帯を耳に あてると、組長に怒鳴られたと見えて、急に態度が小さくなった。 そして、申し訳なさそうに、携帯を山さんに渡すと 「おじゃましました」 と言うと、小走りで逃げるように消えてしまった。 女の子は、手を合わせて 「ありがとうございます。感謝します」 と涙を流しながら、山さんに何度も何度も頭を下げて帰って行った。 女の子が見えなくなってから、山さんはお腹に手をあてると、かなり痛むのか 顔を歪めながら、こっちを向くと 「ああ、怖かったなあ・・・殺されるかと思った・・」 と呻きながらニヤリと笑った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.08.23 08:39:45
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