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カテゴリ:ショートストーリー
街を歩けば、いたる所に自動販売機がある。
この自動販売機だが、そもそも日本人の発明では?との説もある… 明治20年頃、今の山口県は下関あたりに高七という男がおったそうな。 この男、江戸時代から続く指物師の一家に生まれた。 指物師は今風に言えば、家具造り職人と言ったところだろうか。 この高七は、子供の頃から、爺さんや親父さんの手伝いをしながら、指物の技を磨いたそうだ。 でも、この高七は、名前のとおり七番目に生まれた子だった。 腕は、親父さんも舌を巻くほどのものになったが、上には兄貴たちがおったものだから、とても指物屋の跡目は回ってこなんだ。 そんなわけで、何か別の道でも…と思案してた高七は、その頃、 飛脚に代わってできたばかりの郵便局の手伝いもすることになった。 今で言うアルバイトだ。 まじめな働き者の高七は、外に出て配達もしたし、局内で切手やハガキも売った。 まあ、なんでもやったわけだ。 そんな郵便局勤めも慣れた高七が、やれやれ… とその日の仕事を終えて郵便局を出た頃だった。 一人の女の子が駆けてきて、郵便局の向かいのタバコ屋の前で呆然としていた。 「ああ…閉まってる」 がっかりした女の子は、近くの呉服屋に奉公しているミツだった。 高七は、ミツに密かに憧れていた。 ミツは呉服屋の主人に頼まれてタバコを買いにきたのだろう。 残念だが、タバコ屋のオバチャンは、早じまいして芝居見物に行ってしまったのだ。 憧れの彼女が困っている。 なんとかしてやりたい。 でも、高七はどうしてやることもできなかった。 かわいそうに… ミツはガッカリして帰って行った。 そこで、高七は、タバコ屋が閉まってからでも、タバコを売る方法はないかと考えた。 その夜、高七は夢を見た。 いつか紙芝居で見たような遠い昔のアラジンの魔法のランプが出てくる夢だった。 目覚めた高七は、そうだ!と叫んだ。 恋こそは発明の母である。 その夜から、高七は、仕事が終わってから毎晩遅くまで、カンナで木を削り、のこぎりで丸太を切った。 そして、1ヶ月後、高七は木製のタバコ自動販売機を作ったのだ。 この自動販売機は、またたく間に、下関中の評判になった。 特筆すべきは、その木製の自動販売機には、通用しない硬貨を排除する機能、売り切れた時にはお金を返却する機能などなど、ほとんど現在でも通用しそうな機能がついていたのである。 その自動販売機は、かの豊田佐吉も出品したこともあった東京上野で開かれた内国勧 業博覧会に出品され、たまたま見物に来ていた当時の政府首脳だった伊藤博文や陸奥 宗光なども絶賛したそうだ。 もちろん、翌年、この自動販売機は特許を取得した。 これに気を良くした高七は、10年余り後、日露戦争の起きた頃、これまた木製の切手 と葉書の自動販売機まで作ったのだ。 ついでに、この自動販売機は今でいうポストの機能もついていた。 昔見かけた円筒形の赤いポスト、あれの原型だったと聞いたら、 もう尊敬せずにはいられない。 この発明で、一介の指物師だった高七は、逓信省のお役人にまで出世することができたのだ。 ちなみに、高七は、自動販売機の”自動”を”自働”と表したそうな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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