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ぽかり、と眼が覚めた。
あー、何だろう、夢でちっちゃい瓜坊に蹴られたような気がする。そうか、今年は猪年か。 カーテンの隙間から見ると、冷気のまとわりつく窓の外は快晴。俺は大きくあくびをしながら起き上がった。と、パイプベッドの軋みとともに何かが落ちる音がする。ゴトッって、おい。 「あー、湯たんぽ・・・」 ![]() 銅製で良かった。陶製のものもいいというが、ベッドで下がコンクリートだと割ってしまうのがオチだ。 「やれやれ。逃げるなよお前」 寒いじゃないか、と言いながらベッドの下に脱いであった部屋履きを足に引っ掛けた。くつろいでいるときまで靴を履きたくないし、かといって冷え切ったコンクリート床にサンダルはきついし裸足は論外。だから室内専用スリッパ。 ![]() カエル型のこれは、ののかとおそろいだ。以前の面会日、誕生日に何が欲しい? と訊ねたら、パパとおそろいのスリッパがいいというので一緒に買いに行った。・・・彼女の趣味はあいかわらず変わっている。 もっと予算を組んであったのだが、ののかはこれ以外欲しがらなかった。子供なりに父親の懐具合を気にしてくれているのかもしれない。それはそれで寂しい。 「う、寒・・・」 呟いて、俺は上掛けの上に放っておいたダウンジャケットを羽織った。内装不完全なこの建物は、冬は冷え冷えに冷え込む。室内でもジャケットが必要なのだ。 それにしても、独り言が増えたな、俺。 一人暮らしをすると、増えるというけれど。 ああ、いかんいかん。元日早々暗くなってはいられない。今年も何でも屋稼業を頑張って、ののかの養育費を稼がなくては。俺は落ちた湯たんぽを抱え、寝室にしている三角の小部屋を出て事務所に入った。テーブルに置いた申しわけ程度のパック鏡餅を横目に、奥のコンロで湯を沸かす。昨夜食べ損ねたカップのソバでも食べるか。 ![]() 静かだなぁ。薬缶の口からだんだん白い湯気が出てくるのをぼーっと眺めながら俺は思った。拾ったテレビは去年から壊れたままだ。無ければ無いで困るものでもない。一応オーディオセットはあるしな。同じく拾ったやつ。 ![]() おせち料理も何もない正月だけど、今日はゆっくりと過ごそう。元旦から仕事も入らないだろうし。ののかは今頃、元妻とスイスでお正月。 パパ、ちょっと寂しいなぁ、と心の中でカエルスリッパに呟いてみる。 俺って、たそがれすぎ? ちょっと自己嫌悪。 ![]() ま、いいや。どうせ一人だし、誰も訪ねてくる予定はないし。 と、思った俺は甘かった。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.03 01:00:54
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