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「そっか、夏樹くんはがんばったんだね」
俺ははんぺんを大事そうに抱えている夏樹の頭を撫でた。黒い絹糸のような髪が、太陽の光にきらきらと輝く。子供の髪は柔らかいなぁ。 「でもね、一人でお外を歩いていたのはちょっとよくなかったかな」 「ぼく、わるい子?」 うるうるした瞳で俺を見上げる。うう。負けてはダメだ。俺が子供だった頃と今は時代が違うんだから。 「お外に出る前に、パパか葵くんか──そうだな、せめておじさんに携帯で知らせてくれれば、悪い子じゃないよ」 「ぼく・・・」 夏樹は下を向いてしまった。 「今日、夏樹くんは意地悪なお兄ちゃんにはんぺんを連れて行かれて、とっても悲しくて心配しただろう?」 「うん。むねがぎゅっとしてね、つぶれるかと思った」 大きな白い犬のぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめる夏樹。 「夏樹くんが黙っていなくなったら、パパも葵くんもおじさんも、みんな心配で胸がつぶれるような気持ちになっちゃうよ。だって、みんな夏樹くんのことが大好きだし、大切だから」 「だいすきでたいせつだから、むねがぎゅっとなるの?」 「そうだよ。夏樹くんも、はんぺんのことが大好きで大切だろう?」 子供はこっくりと頷いた。 分かってくれたか。良かった。頭ごなしに叱っても逆効果だからなぁ。 ほっと息をつきかけた時、俺はびくりと身体を強張らせた。 空気を裂く鋭い音。な、何だ? 俺は思わず夏樹の身体を抱きしめ、音の出所を見た。サカバヤシだ。 「い、今のは何かな?」 「・・・上から落ちてきたので、つい」 彼のごつい掌の中に、名残の桜の花びらがひとつ。 サカバヤシは恥じるように下を向いた。・・・夏樹と違って、そんな仕草をしたって可愛くない。 「つまり、その。動くものに反応してしまったというわけですか?」 サカバヤシは無言で頷く。 「目の端にちらりと見えたと思ったら、無意識に・・・」 「考えるより先に身体が動いてしまったんですね・・・」 これが脊髄反射というやつだろうか。それにしても、どうしてそんな状態になってるんだろう。今が一番ピークだそうだが・・・ 「あの、どうしてそんなに過敏なのか、聞いてもいいですか?」 「・・・」 サカバヤシは黙っている。なんだかその無言の存在感が、コワイ。とはいうものの、誰かを害するようなものではないのは言動からも分かる。 「俺、SPなんだ」 目をうろうろとさ迷わせながら、サカバヤシは唐突に話し出した。 「SPというと、あれですか、シークレット・ポリス? 政治家とかを暴漢や狙撃から守るという任務の?」 サカバヤシは頷く。 「今日は午後から非番になったんだが、ここ数週間ずっと対象の護衛をしていたものだから、ギリギリの緊張感が残ってる。張り詰めた神経が落ち着くまで、まだもう少しかかる・・・」 だから、人の気配が辛いのだとサカバヤシは言った。護衛対象の身の安全を守るため、SP任務中は常に気を張っている。それこそ、「寄らば、切る!」というくらい神経を研ぎ澄ませているそうだ。 「つまり、クールダウンするまで、急激な動きや音に過敏になってしまうんですね」 今はまだ、全身が臨戦態勢というわけか。 ---------------------------------------------- 今日はまだ終わらなかったこの番外編。 完結編、か? と疑問系にしておいて正解だった・・・ あともう少しだけおつきあいくださいませ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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