異世界に拉致られたヒロインは聖女ポジにて忠犬王子の妃になるそうです
2024年4月刊DIANA文庫著者:朝陽ゆりねさん27歳の誕生日を迎え、そろそろ結婚をと考えながらカレシの家に向かった愛衣。そして、そこで見たのは、なんと浮気の現場! よりにもよって、なぜ誕生日に浮気をされなければいけないのか。だが、開き直ったカレシから告げられたのは、隣の女こそが本命で自分はスペアだったこと……。はらわたが煮えくり返るような思いの愛衣を励ましてくれるのは14歳のゴールデンレトリバー、凜太郎だけ。だが数日後、その凛太郎すら、天国へと旅立ってしまった。悲しみに暮れる愛衣は会社でミスをしでかし、帰宅の途中には元カレに遭遇し嘲笑され、絶望のどん底に。そこに現れたのは王子様衣装を身に纏ったイケメン青年カイン。異世界バーニア、コーリエント王国の王子だという彼は、愛衣の足もとに跪いた。「あなたは私にとって『運命の姫』であり、国を守る『聖女』なのです」──なにを言ってるんだろう、この人。そう訝しむ愛衣を、カインは半ば強引に馬に乗せ、天高く舞い上がり、異世界へと連れていく。果たしてカインの正体は何者なのか? そして愛衣は本当にカインの運命の姫、王国を守る聖女なのだろうか? ↑楽天ブックスより、あらすじ引用登場人物 梅島愛衣=大手企業に勤めるOL。 人の好さが災いし周囲から都合の良い女扱いされていた。 カイン=異世界からやって来た王子。 凛太朗=愛衣の愛犬。 エルメ=愛衣付きの筆頭侍女。 横山崇=愛衣の恋人。彼氏に出張が入ったと誕生日の約束をドタキャンされた愛衣。留守の間に掃除でもしといててあげようと部屋を訪れると留守のはずの彼・崇は他の女とベッドの中にいた。しかも、開き直った彼によれば実はそっちが本命で自分の方がスペアだったと発覚。逆ギレした崇に都合がいいだけの女と罵られ、自分の男を見る目の無さにため息が出たが、そういえば飼い犬の凛太朗は死ぬほどこいつを嫌ってたっけ。きっと動物の勘で崇の本性を見抜いていたからかもしれない。崇には当然その場で別れを告げ、自宅に戻った愛衣は凛太朗に泣きついた。変わらずこの子は私を好きでいてくれる。男尊女卑を拗らせた毒親は弟ばかりを可愛がって娘は放ったらかし。居場所の無い彼女にとって凛太朗だけが家族だった。だから上京した時も凛太朗を連れて来たのだ。でも、この子ももう14歳。ゴールデンレトリーバーの平均寿命は11歳と聞く。いつお迎えが来てもおかしくはない。覚悟はしていたつもりだったのだが、崇との別れから1週間後。凛太朗は静かに息を引き取ったのであった。出来る限りの供養はしたものの、失恋の痛手も相俟って愛衣は虚無感に苛まれていた。単純なミスを繰り返した挙句、ついに今日は桁数違いの発注間違いをしでかして上司に心配されてしまった。叱責されたわけではないので余計に堪えてこれではいけないと気合を入れたものの、仲が良いと思っていた部下や同僚達に陰口をたたかれているのを耳にし落ち込む羽目に。調子が良い時は散々愛衣を頼っていた癖にいざミスを犯すと手のひらを返したように悪口三昧。崇も後輩たちも結局私のことを都合よく利用していただけだと判るとなんだか馬鹿らしくなっていた。大好きなチーズケーキでも食べて元気出そうと思っていた矢先、崇とその彼女・リコとばったり。彼は単にリコの前でカッコつけたいだけなのか愛衣に悪口雑言浴びせかけて来た。最低なのは自分のくせにと流石に腹が立ち言い返してやろうと思ったら、上からスポットライトのような光が愛衣を照らした。何事かと見上げるとそこから舞い降りて来たのは金髪のイケメン。青年はカインと名乗り、異世界のコーリエント王国の王太子であること、そして聖女である愛衣を自分の未来の妃として迎えに来たのだと告げた。呆気にとられる崇とリコを他所目に、今イチ状況を飲み込めていない愛衣を呼び寄せた馬車に乗せ、カインは彼女を異世界に連れ去ったのであった。馬車の中で一通り説明を受けた彼女は、これは夢ではなかろうかと内心でパニくっていた。それにしても初対面だと言うのにカインはどこか懐かしい雰囲気がする。私が聖女で、おまけにこんなカッコイイ王子様の妃になる?とか俄かには信じられない。しかし、いざ到着すると聖女召喚に国中が沸いており、その大歓迎っぷりにドン引き。でも、建物や空の色など、やはりなんだかんだとここは異世界だと信じざるを得ない。城に着けば自分付きの筆頭侍女のエルメを始め数人の侍女たちにお世話されお姫様になったような気分だ。しかも、彼女達を始め城で働く者たちからの忠誠度合いも凄い。エルメの話によれば、カインは優秀な人物で他の異世界の技術をどんどん取り入れ、国を発展させた立役者なのだと言う。そんな彼が運命の相手であり更に聖女たる愛衣を連れてきたことで、民たちは歓喜。それであの熱烈歓迎ぶりだったのかと納得した。夜になって公務からカインが帰ってきた際、彼から俺の正体に気付きませんか?と意味深なことを言われ彼女は考え込んだ。確かに妙なデジャブ感はある。自力で答えを見つけたら、ある制約が外れてもっと力を振るえると語るカインの言葉はどうにも意味不明である。それでも気にはなっていたので考えてみることにした。だが、数日も経たないいうちにカインから香る匂いや、頭を撫でてくれと甘える彼の仕がに、何故か凛太朗と重なり・・・。タイトル通りの内容です。ヒロインにとって家族以上の存在だった飼い犬が異世界転生を果たしていました。異世界と現代では時の流れが違うのでほんの一週間で32年を過ごして立派な王太子になった頃、本人曰くクズホイホイな彼女を不幸たらしめていた現代には置いておけぬと迎えに現れます。しかし、現代人をここに連れて来るには膨大な魔力ときっかけとなる縁が必要。そこで、カインは自分が誰か思い出して欲しいと彼女に告げていたのでした。そして思いの外早く愛衣はその正体に気付き、カインは本来持っていた強大な力を行使可能に。愛衣は愛犬(元)との再会を喜び、一緒にこの世界で生きていくことを決意します。これで幸せにと思いきや、異世界人のポっと出の女が王太子妃になるのは反対だという貴族も現れ、悶着が起こります。後日、二人の絆を見せつけたことで大多数は納得してくれたものの、やはり未来の王妃という地位は諦めきれないのか未だ無理難題を出してくる少数の反対派。これもまぁ、エルメたち側近の根回しで事なきを得るんですけど、ここに来て漸く愛衣に聖女の力が目覚め、反対派を黙らせることに成功。ぶっちゃけ、聖女要素は要らない気もしましたが、異世界物としては順当なのかな。カインは正式に愛衣との結婚が決まり幸せの絶頂ながら、彼女をコケにした者たちへの仕返しも忘れていませんでした。近習のブレスとエルメの力を借り、元カレの崇にいろいろ悔い改めないと不幸になる呪いをかけ、愛衣の家族にも相応の試練を課す手はずを整えていると言う。何もかも忘れて異世界で幸せになる、で終わっても良いけどちゃんと報復するよ?って構えのヒーローの容赦なさぶりがスッとするお話でした。評価:★★★★☆