平和本位制 軍事力がマイナスに作用する通貨メカニズム
世界が求める健全で経済的なエネルギー供給システムをもつ国は、攻撃されることのない最も安全な国になる。この国を攻撃しようとする勢力は、市場経済のもつ力学的構造から存在することを許されなくなるからだ。経済成長に欠かせない優良なエネルギー資源である水から、産業活動に欠かせない電気を、簡単に取り出す低廉な技術供与が拒絶されたら、敵対する立場となったその国は、高価な既存のエネルギー資源を使いつづけていなければならず、経済的に孤立するばかりでなく、国際的な支援を期待することさえ不可能になり、衰亡する一本道を承知の上で辿らざるを得なくなる。 温暖化対策が必要となればなるほど、あらゆる国家が環境性能を改善する必要に強く迫られる。国際社会に於ける孤立という状況は、国家の存続を拒絶されるという結果を招くことなのだ。合理性のないあらゆる行為またはそれによって作られたものなどは、存在の正当性を主張できない。理に合致していないことであるからだ。 市場がもつ固有のメカニズムは、不正義の関与など本質的に排除する。一時的に不正義が支配するステージがあったとしても、振り子がそうなっているように、折り返し点でバランスをとろうとする反転がおきるのだ。アメリカが現在受けている政治・経済・軍事のすべての面において、これまで価値があるとされてきたその方法が、まったく通用しなくなるという、まことに困った現象がある日唐突に起きるのだ。 経済合理性とは、まことに厳粛なものである。武力による身勝手な攻撃を一方的に行えば、当事国は最悪の結末を引き受ける。市場がそうなるよう迫るのだ。環境性能の高い製品を必要とする国は、中立であることを評価されずどちらかの側に、自己責任でつくことを決断しなければならない。いままでアメリカに優位性を与えてきた既存の仕組みが、ことごとく価値を反転させようとするようになる局面があり得る。 イラクにおけるアメリカがとってきた一連の行動が、ブッシュ政権と国際経済が遭遇することになった予期せざる展開を、経済事案の失敗の顛末から学ばなければならない。サブプライムローンの事件化という変化から、世界規模のデフォルトの蔓延が招く未来を、想像することが大切だったということになるだろう。その原因となったものこそ、戦費調達を急いだブッシュ政権が、地下資源の高騰を誘導したという、当時のあざとい決断が現実のものにした。 ドル余り現象を増幅させていたものとは、米軍がイラクで使うための費用を生みだすために、WTIの市場価格を自然災害が高める、と意図的な誘導を行っていたからだった。原油相場が一本調子に五年間も上昇し続ける、という経済原則に反するこれまでの不自然な経緯は、当該市場で何がおきていたのかということを明瞭に物語っていたのである。原油価格の高騰とイラク戦争の長期化とは、同じ時代の同じタイミングでおきたもの、という事実を忘れてしまってはならない。 これら過去の経過から学ぶべきことは、基軸通貨の発行権をもつ国の意向次第で、国際経済はひどく偏ったものになるというである。市場で余るほど発行量を増やしつづけたドルを用いて、特定の国の資産へその資本を仕向けていけば、その国の一部(企業買収や土地投機など)を大量に買収することができるのだ。この過程でドル売りによる制御された円高がおきていた、ということを日の本の民は承知しておくべだったのだ。このメカニズムに言及した専門家と報道機関は、これまでのところ皆無であった。そのために国の劣化は、これほどまでに深刻になってしまっていたのだ。 (アメリカのごく少数の知識人だけが、その例外例となっていた) 温暖化を防止して経済成長を促す効果を持つ、未来型の健全なエネルギーシステムは、いつか必ず日本から世に出る。このことは、円で決済する貿易量が増える、ということを意味する。つまり、円高が必然的にやってくるということなのだ。これを回避する方法は複数あるのだが、貿易特区を創設して、独自通貨で決済するという方法が目下のところ有望視されている。 どこの国にも属さない完全に中立中性の新通貨が登場した場合、ドル資本は余ったドルを手段とするFX市場の恣意的制御が困難となる。その変化のもつ意味を世界が理解したとき、創設される新通貨は世界中で通用する基軸通貨の役割を果たすようになる。ドルを基軸通貨とするIMF体制が、温暖化を「促進しつづけている」この現在の状況を生み出した。同時にアメリカの軍事力を根拠とする覇権主義を蔓延させ、ミリタリーバランスを維持するための軍拡予算の増加を、世界に強要していくことによって、すべての国の国家財政を悪化させるようになってしまったのだった。 (コスタリカただ一国をその例外として指摘しておかなければならない。日本はその対蹠的な位置関係となることを自ら選び、そこに安住することで、日米間に互恵を名目とする寄生的共生関係を成り立たせているという現実を定着させた) 全体を100としてみた国際経済の分布状況をみると、アメリカに60%となる富を集積する代わりに、その他の国々から多くの流動性を取り上げて、残りの40%で経済を回さなければならないようなものになっていた。貧困を募らせていった国の中から、テロ活動に参加する人的資源の供給元となった地域を、アメリカは自らの手で生みだしたのだということができる。 反米国家となっていった国々では、テロリストとなる道を選択せずに、アメリカ資本のやっていることを非難することで専ら対応していた。親米国家群は止めどなく進むドル安政策の影響を受けて、ドル建ての資産を緩慢に失ってゆくサイクルへと嵌った。アメリカ経済は金融資本の無秩序な貸付競争で、回収不能な不良債権を国内の市場に積み上げてしまったのだった。その総額は、集計値が公表されていないほど巨大なものになっていた。その全貌が未だに確認されていないため、市場は疑心暗鬼の状態を続け、有効な対策を見いだすことが未だにできない。 ドルでもユーロでもなく、また円でもない新しい通貨でなければ手に入らない新エネルギーシステムは、不具合の原因となっていたこれまでの通貨メカニズムを健全化させるものとなる。水を資源とするエネルギーモデルが登場すると、そのシステムを導入するための特別の通貨を購入しなければならない。その通貨の発行権をもつ組織は、日本の中のある特定の地域(実験特区)に創設される見込みであり、円高を引き起こすことなくあらゆる外貨を一時的に集約するものとなる。 この組織が新通貨と外貨との交換レートを定める役割を果たすため、軍事力を放棄した国に有利となる条件を設定する権利がある。軍事力に依存し続けようとする国は、必然的に不利な交換レートでこのエネルギーシステムを購入する義務を負う。温室効果ガスを排出することが犯罪視される時代になると、軍事力をもつことが経済的に不利となる市場が一般化する。 問題となることがもしあるとすれば、それは獲得した外貨の使い道である。アメリカはそれを軍事力の拡充のために使ってきたのだが、これから設立される新組織は、収益を平和の実現のためにより多く使うだろう。通貨価値の裏付となるものが平和の実現という市場メカニズムのことを、ここでは平和本位制と呼ぶこととした。 軍事予算を減らすという変更努力が一般化するまでの間、新通貨は特定の外貨とのみ交換されることとなる。つまり、環境負荷のない新エネルギーシステムを提供する組織は、獲得した外貨を、その国の市場へ再投資しなければならないのだ。勝手に転用して利益を獲得するようなことは、今後許されなくなるだろう。軍事予算をゼロにした国同士の間でなら、新通貨を共通通貨として使える。その場合、投資効果を最大化することが可能になるはずだ。軍事力をもつことにコダワリ続ける国は、高いエネルギーコストを負担しつつ、環境負荷を与える行為を止めることさえできなくなるのだ。 ドル安政策をとらざるをえなくなった米国風の統治スタイルは、仮に円が基軸通貨となった場合、日本にとっても同じ条件となってのしかかる。つまり、日本が円安政策をとるようになるということなのである。これを回避するための方策が予め用意されているのなら、平和本位制へと移行するためのプログラムを円滑に進めることができるだろう。当面はドル建ての取引を許容しながら環境効果を高めつつ、その後平和本位制へと段階的にシフトしていくこととなる。このシステムが実現するかどうかは、歴史認識に基づく判断の質にのみ依存する。