いい星つくろう

2021/06/03(木)16:51

知の遷移 知の劣化 その二

​ 日本ではコロナウィルスが引き起こした感染者の急増をめぐって、マスメディアは感染症の専門家の意見だけを専ら扱うようになっていて、そのことが国民の危機感を募らせて不安心理を強く刺激するようになっている。真剣さを感じさせない政府内閣の対応ぶりを、メディアの報道姿勢が対照的な違いとして国民にみせつけている。感染症の医者ではない疫学系の研究者が画面に登場する機会は、こうして第一波が頂点に達する以前の段階で予め減らされるようになっていた。危機感を煽らない疫学系の専門家の発言よりも、国民の不安を募らせるコメントの方がメディアにとって都合がよく、情報発信力が高くなるとでも思い込んでいるかのように、感染症患者の増加のグラフの棒を追い続けている。このため異なった断面で状況を視覚化するということができなくなり、バイアスのかかった報道姿勢で情報を提供するパターンが定着した。情報の選択権は国民にあるのではなく、情報を伝えるメディアの側だけがもっている。情報の平衡感が損なわれていることを、国民が知る機会は与えられていない。感染しなければ免疫を確保することはできないため、だからこそワクチンの開発を急いでいるのだったが、感染者数の増加が免疫確保を意味することと同義であることを指摘した報道はその後なく、感染患者の増加を防げば問題は解決する、といい続けることをひたすら繰り返すだけとなっている。未感染者の増加は感染機会を先送りして、抗体の出現を後回しにすることでもあることから、免疫を獲得する機会を国民から奪うという経過を与えている。この点については、意図的に言及を避けているフシがあり、そのことが傍証として機能する塩梅になっている。中国ではコロナウィルスを完全に制圧していたのだったが、それは一時的なものに過ぎなかった。隔離を急げば未感染者をウィルスから守ることができるにせよ、それは抗体を作り出す機会を取り上げるということでもある。再感染の波がいま中国を襲うようになってきていることから、隔離を急いだというそのことが免疫を獲得する機会を失わせ、一年を経て再感染のリスクを顕在化させたといえる。感染者の増加率が低いということは、免疫を獲得できなかった人の数が増えたという意味になる。感染症に打ち勝つためには免疫機構を活用する以外に道はなく、そのためにワクチンを接種することによって、疑似的に感染させて偽陽性の状態を作りだすことで、患者の生命維持システムを援用して、抗原を制圧するための抗体がもつ攻撃性を発揮させ、人体に備わるこの免疫反応を利用して、ウィルスを淘汰するための闘いに勝つというメカニズム。感染患者の強制的隔離を実施した中国政府が行った初動対応は、感染患者の発生率を確かにゼロにしたのだったが、それは免疫の獲得を先送りしたという意味をもっていた。感染機会を単に先送りしただけのことであり、抗体保有者の数に上限を設けただけのことだったのだ。このような免疫機構の意味が分かっていたのであったのなら、マスメディアが偏った報道に奔ることなどなかった筈だ。現状の混乱した状況を出現させたその原因は、報道姿勢の在り方に根源的な欠陥があり、それが思わぬ方向へと作用した結果であろう。裏と表でなりたっている一枚の紙がそうであるように、互いの存在がそれぞれ肯定と否定を表すための、裏付けを与え合う材料となっている関係とそれはよく似ている。免疫を成り立たせて抗体をつくりだすためには、感染リスクを避けていたのでは話にならない。一度感染しておかなければ、抗体を生み出すことはできない。ワクチンは無害化したウィルスを使って、生体がもつ生命維持システムの能力を高める、という意図的に感染誘導するというのがワクチンの仕事。感染者が増えることで罹患率は高まるが、抗体保有者の数も自動的に高める。感染者を隔離してしまえば患者数は増えなくなるが、抗体を生み出す生命体の能力を賦活することはできなくなる。隔離措置は次の感染ピークの山を却って高くするだけでなく、三次乃至四次感染のリスクを確実に高める。ある程度の犠牲を甘受する覚悟をしなければ、人命はおろか経済まで圧殺してしまうという結果を招くのだ。不安心理を利用して恐怖感を煽っている報道姿勢の在り方は、サービス産業全体に強い淘汰圧をいまかけている。ジャーナリスティックな報道姿勢が国民の不安を煽り、健全な判断の維持を自ら阻止している、ということが日本の防疫体制に潜む問題の本質を露にしてみせている。民主主義の成否は、健全な判断力を養う教育によってのみ定まる。偏った思い込みによる多数派の形成とそれによる恣意的な誘導は、トラムプが明確に示したように有害であるだけでなく、対立を鮮明にして不安心理を却って煽り、望ましからざるせめぎあう対立を不用意に引き起こす。こうしたトラムプが行っていた意識の攪拌行為に、アメリカはいま大いに苦しんでいる。先鋭化した学歴主義に対する反動形成が、アメリカの底辺に反発要因として内圧を膨張させているからだ。民主主義の再興へと向けた第一歩は、この峠を超えたところから始まるのだろう。もっていた良質の思考力を取り戻すことができれば、気候変動を有効に制御する方法の存在に気づくことは十分可能。​

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