だれも知らない 何もいわない (1)
日本を攻撃してくる(かも知れない)敵を想像させておけば、アメリカは日本が縋りついてくることをよく承知しています。(実際にはそのようなことは有り得ない話なのですが、そんな風に思わせているという事実が存在します。改憲派の議員の発言を聞いていると、強迫的な強い思いをその内容に感じざるを得ません。落ち着いて眺めたら、それが枯れ尾花に過ぎなかったことが分かったはずです) 日本をアメリカに依らしめておくためには、世界に冠たる平和憲法を押し付けておくのが最も効果的な方法でしたが、それではアメリカの財政が持たなくなってきています。日本が経済発展を遂げていたため、アメリカの軍事予算を日本に肩代わりさせる条件は既に整っています。アメリカの財政に負担をかけていた軍事費の一部を日本に分担させれば、ブッシュ政権が生んでいる赤字幅を縮小することができます。日本が買っていた米国債という支援では、おそらく満足することができなかったということなのでしょう。日本の債権は米国の債務なのですから、帳簿上では財政赤字が増加する一方になっているからです。 そこで合法的に日本が軍隊をもつことができれば、アメリカの負担が減るというだけでなく、日本が自立するための条件が整うことにもなる、という合意形成の可能性が生まれていたのでした。憲法の一部を手直しする必要がでてきたのは、一にかかってアメリカ側の都合だけだといってよいでしょう。日本が軍事力を保持していなければならないドメステカルな理由は、どこにもありません。憲法を変えようとしていることが、却って東アジアに緊張を高める可能性の萌芽がみられます。実際に日本を攻撃してくる敵など、グローバル経済が成り立っている現在ではおよそ考えられません。メリットがないからです。自由経済に参加することができない国は、永遠に成長発展することができません。北朝鮮のように、世界の片隅で逼塞した状態のままひっそりと暮らさなければならないのです。現実認識をもたずにアメリカの意向だけを考慮していることが、この地域に存在しなかったある空気を増幅させつつあるように思えます。 アメリカの方針に従って国防力を身につけることを選択したのが、所謂55年体制とよばれているものでした。日本の現状はその結果の延長線上に置かれています。日本の安全はアメリカの核の傘によって守られている、とそう信じられていたのでした。本当にそうでしょうか。具体的な敵など、世界中のどこを探しても存在してはいません。中国を仮想の敵として措定しておけば、軍事バランスを対向させる都合上大きな予算を確保することができるだろうと思われているのでした。北朝鮮などは国の規模と人口比からみたら、既に敵と呼ぶには値しない程度の存在でしかありません。何をやるか分からない国という位置づけになっているのは、極東の緊張感を高める効果を維持するためのものでしかないのです。実際の攻撃があったならば、日本は直ちに憲法を作り替えてアメリカの傘を必要とさえしなくなるような決定をするでしょう。北朝鮮にできることといえば、威嚇することで不利な形勢を心理的に優勢な状態にする、ということだけなのです。これは弱者によくみられる典型的なパターンです。戦争状態になることなど、世界中のどのような国であっても決して望んでなどいないのです。 平和憲法は使い方次第で、他のあらゆる兵器よりも優れた安全策になり得ます。その憲法が持っている潜在能力をいかすことなく、アメリカの意を勝手に忖度して、自発的に追随してきた日本の現代史を見直す必要があるでしょう。日本の政治家でネゴシエーターと呼べるような存在は、これまで吉田茂ただ一人しか認められません。その後の経過をみると、対等な外交交渉をおこなったとする事実は見当たらないのです。日本は対等な関係を維持することができたにも拘らず、アメリカの意志を執行するための地方機関の一つのような存在になってきたのです。表向きは対等な関係のようにみえていますが、内実は領主と執事というような縦の系統がずっと続いていたのでした。これを安全保障政策といいます。属国という表現や、51番目の州と呼ばれることがあるのは、このような経過を閲してきた歴史があったからでした。 一旦外側へでて日本を眺めなおしてみると、戦後政治が完全に独立していた歴史を歩んだということができないのです。日本が稼いだカネは、アメリカの国債へと合法的に還元されていたのでした。日本の負債がアメリカの資産としてしか機能していなかった、という事実が未だに拡大を続けているのです。この還流はアメリカへと戻るだけで、円安が続く状態が実現しない限り日本へと還ってくることができません。日本がこれらの海外資産を回収しようとすれば、たちまち円高が発生してしまうことは昨日書いておいた通りです。その結果8450億ドルもの外貨準備高が生まれてしまったのでした。(中国の外貨準備は約6000億ドルとされています。元という通貨をドルに連動させているため、欲しくもないドルを買わざるを得なくなっていたのでした。日本とは違った経緯でしたが、中国もまたアメリカのイラク占領を金銭的に支援していたということができるでしょう) 日本の国民は全員、国際経済がもつこのような背景の存在を未だに知らされていません。ただひたすらに、中国と北朝鮮とを敵と看做すよう仕向けられてきたのでした。中国は、貿易相手国としての日本を絶対的に必要としています。技術も、経済も、まだまだ見劣りがする状態に置かれているからです。中国が日本を敵としてみるのは、日本がアメリカの意を体して中国を敵として防衛予算を一層充実させてきたからだと思われます。中国には日本を敵にするメリットというものがそもそもありません。その中国をして日本を批判させる原因を与えているのが、靖国参拝という事案なのでした。中国から北朝鮮を軟化させる方法は残されていたのです。そのルートを活用すれば、問題の早期解決は可能だったように思われてなりません。拉致被害者の存在を最初に北朝鮮が認めたのは、金正日がロシアと中国訪問を終えた後のことでした。国際社会へ復帰することをなにより望んでいたのは、北朝鮮の方だったのです。その後の経過を読み違えていたために、結果として核兵器の保有宣言をする破目にまで追い込まれてしまったのでした。その後、六カ国協議が膠着状態に陥っているのはご承知の通りです。