福山けいばメモリアル~夢のドリームレース編~
高知競馬場のパドックで。とびきり笑顔で周回する福山ジョッキーズに、荒っぽくてあったかい備後弁のヤジが浴びせられる。ここは高知。だけど今日は福山でもある。3年という月日が一瞬にして巻き戻ったような、不思議な感覚に包まれた。2016年3月26日、高知競馬場で行われた「福山けいばメモリアル競走」。全国各地の競馬場から福山ジョッキーズが集結し、夢のようなドリームレース(あえてくどく表現します!)が繰り広げられました。渡辺博文騎手は言います。「シゲちゃん(西田茂弘アナウンサー)のおかげです。シゲちゃんが元騎手や元調教師に案内を出したり、一生懸命、みんなに呼びかけてくれたけえ……」渡辺騎手は、4度もリーディングを獲得した名手。全日本アラブグランプリや福山大賞典などを制した名アラブ・ミスターカミサマのパートナーも務めました。49歳になった現在も佐賀競馬場で活躍中。現役最年長の“福山ジョッキー”です。「高知競馬のファンのみなさん、お久しぶりです。今日は久々の同僚とのレースを、楽しみにしています。ご声援のほど、よろしくお願いいたします!」ディープインパクトな勝負服(金子正人ホールディングスの勝負服)がトレードマークの楢崎功祐騎手。福山では2009年と2010年、2年連続でリーディングジョッキーに輝き、期間限定騎乗した韓国・釜山でも大活躍。現在は大井競馬場の騎手として、上位を狙える位置につけています。「廃止になった競馬場のジョッキーが集まって一緒に乗るような機会は、たぶん初めてなんじゃないかなと思います。こういう機会を与えて下さった高知競馬の関係者のみなさんに、とても感謝しています」松井伸也騎手は、ホッカイドウ競馬で活躍中。移籍2年目の2014年には、ティーズアライズで門別の栄冠賞を制覇。福山から遠く離れた北の大地で、初重賞タイトルをつかみました。昨年は北海道リーディングの7位。期待のホープです。「こういう場を設けてもらえて、とても感謝しています。福山魂で、これからも頑張りたいと思います!」池田敏樹騎手はデビューイヤーの2002年に38勝、2年目の2003年に56勝を挙げ、日本プロスポーツ大賞とNARグランプリの新人賞を受賞した逸材。重賞初制覇をつかんだフジノコウザンや、21戦16勝という強さを誇った瀬戸内のヒロイン・ムツミマーベラスとのコンビが印象深いです。「こういう機会を設けてもらって、ありがとうございます。みんなで一生けんめい頑張るんで、応援よろしくお願いします」若いけど寡黙な職人というイメージの池田騎手ですが――。移籍先である笠松競馬場の騎手会長に大抜擢!移籍したジョッキーが騎手会長を任されるのは、稀なケースだと思います。現在は名古屋競馬に所属している山田祥雄騎手。移籍初戦の勝利を皮切りにコンスタントに勝ち星を挙げ、今年のお正月にはドナルドソンで名古屋記念を制し、重賞初制覇をやってのけました。東海のファンにも、すっかりおなじみの存在です。セレモニーでは「ようサッチー!」という野太い声援を受けてはにかみました。「優勝目指して頑張ります。名古屋競馬も、応援よろしくお願いします!」廃止前の数ヶ月で、急激に成績を伸ばした山田騎手。2013年1月~3月に福山で挙げた23勝は、福山リーディングの3位に相当する勝ち星でした。ご自身の頑張りはもちろん、関係者のバックアップがうかがえる勝ち星です。福山ジョッキーズの末っ子である山田騎手を、「なんとか育てて、名古屋に送り出してあげたい」という気持ちで、チャンスをあげていたのではないでしょうか。福山で2000を越える勝ち星を刻み、リーディングを4回獲得した嬉勝則騎手。嬉騎手のお手馬といえば、お正月の名物重賞・福山大賞典を連覇するなど、重賞11勝を挙げたクラマテング!福山競馬場最後のレースとなったファイナルグランプリ、「ファン投票1位」はクラマテングでした。そして大差の10着で入線したクラマテングと嬉騎手に、大きな拍手が贈られました。記録と記憶に残る名コンビです。嬉騎手は廃止後に韓国・釜山で短期騎乗を行い、現在は高知で活躍中。いつも明るくて元気いっぱいで、バリバリの備後弁も健在ですが――嬉騎手は紹介セレモニーで、ちょっぴり拗ねていました。「こういうレースを組んでいただいて、とても嬉しく思います。ただ、僕は明日もレースなんで、今夜みんなと食事ができないのが残念で、それだけが心残りです……」高知から福山へ移籍し、そしてまた高知に帰ってきた佐原秀泰騎手。「こうして騎手のみんなも、ファンの方も集まったのが3年ぶりで、ホントに感謝しています。またこういう機会があれば、またぜひ集まってください。今日は応援よろしくお願いします!」福山時代の佐原騎手はクーヨシンやカイロスなど期待の若駒の鞍上を務め、多くの重賞を制しました。廃止報道が流れた直後、カイロスと佐原騎手は、園田の兵庫ジュニアグランプリに挑みました。しかしカイロスはゲートで暴れてしまったことが響いて、9着。「いつもの走りができていれば……。福山の代表で来とるのに、何もできずに終わって、本当に悔しいです」無念の表情に、福山競馬への想いがあふれていました。兵庫の山崎雅由騎手は、福山生まれ福山育ち。叔父さんにあたる方が福山で調教師をしていて、騎手を志したそうです。地方競馬教養センターに入所する前、初めて馬に跨ったのは福山競馬場でした。兵庫でデビュー後も、福山で武者修行に励みました。重賞初制覇を果たしたのも、福山競馬場です。「本当に思い出深い競馬場です。廃止の時は、泣きました。僕も福山競馬を愛していたので。だから今回は招待していただいて、すごく嬉しかったです。元福山競馬のジョッキーさんと一緒に乗れることを楽しみにして、高知に来ました!」“赤い彗星”こと高知の永森大智騎手も、福山で武者修行に励んだ若手のひとりです。「またこうして福山所属の騎手と一緒に乗れるのが、すごく楽しみです!」短期騎乗中の永森騎手は福山にすっかり溶け込んで、嬉騎手といつも一緒にいたのだとか。元騎手の野田誠さんが、「高知でも一緒におるんか~」と笑っていました。高知の岡村卓弥騎手も、福山で二度に渡って武者修行に励みました。二度目は福山競馬場のラストデーまで騎乗しました。「元福山の騎手のみなさんと乗るのを、楽しみにしていました。今日は頑張って優勝するので、応援よろしくお願いします!」紹介セレモニーの終わりに、シゲちゃんこと西田茂弘アナウンサーが言いました。「今回は高知競馬場のみなさんに、本当に色々ご協力いただきました。初めてのことなので、どうなるか不安もあったんですけど……『やるならうちでやろう!』と快諾してくださって、本当に感謝しています。高知競馬場のみなさん、ありがとうございます!!」西田アナウンサーの声は震えていて、目には光るものがありました。福山競馬の特別戦で使用されていたファンファーレが流れて、「福山けいばメモリアル競走・第1戦」の幕が開きました。実況は福山競馬で実況していた西田アナウンサーです。第1戦の映像3コーナーから、楢崎VS岡村の一騎打ち!残り400mの時点で、岡村騎手&マリンブルーが先頭に立ちました。しかし楢崎騎手&ゴールドタイザンが、離されまいと食らいつきます。火を噴くようなマッチレースとなった第1戦。半馬身差で勝利をつかんだのは、楢崎騎手でした。同期の宮川実騎手によると、楢崎騎手にとって高知初勝利だったそうです!嬉しい勝利に、笑顔笑顔です。楢崎騎手は「『たぶん差し返してくれるだろう』と思いながら乗っていました」とサラリ&ニッコリ。レースの合間に旧交を温める山田騎手と目迫大輔調教師。地方競馬教養センター騎手過程の同期なんだそうです(目迫調教師は怪我により、半年遅れでデビュー)。ふたりは「残り少ない76期です(笑)」と言って笑っていました。第2戦のパドックでも、備後弁のヤジが飛び交いました。ヤジを浴びて嬉しそうな嬉騎手。めちゃくちゃカッコいい福山の重賞ファンファーレが高らかに鳴り響いて。「福山けいばメモリアル競走・第2戦」の火蓋が切って落とされました。第2戦の映像第2戦は岡村騎手&エーシンハダルが、豪快に抜け出して1着!激しい先行争いを見ながら4番手で脚を溜め、全身全霊をかけて追いまくる。岡村騎手の冷静と情熱を兼ね備えた手綱さばきが光りました。※この写真は翌日の御厨人窟賞をマウンテンダイヤで制した岡村騎手岡村騎手が2着・1着という素晴らしい成績で、ぶっちぎりの総合優勝を果たしました。「1戦目は、やっぱり乗り役の差だと思います。楢崎さんが乗ったゴールドタイザンは、僕も何度も乗せてもらったことがあるんです。僕が乗った時はしまいが甘くなってしまうんですけど、楢崎さんが乗ったら、あそこから盛り返しましたもんね」その悔しさを2戦目にぶつけ、きっちり結果を出しました。「勝った喜びというよりも、『いいレースができたな』と思って、ガッツポーズが出ました」岡村騎手の騎乗は熱いのですが、普段は控え目な印象があります。しかし当日のモーニング展望。やセレモニーで、優勝宣言が飛び出しました。「そうなんですよ。なにを思ったのか、『自分が優勝します』みたいなわけのわからんことを言っちゃったんですよね。2戦の出走メンバーを見て『チャンスなんじゃないかな?』とは思ったけど、よく考えたら、『これでもし優勝できんかったら、恥ずかしいなあ』と思って。ホント、優勝できてよかったです(笑)」福山競馬の最後の日、岡村騎手は「ひとつの競馬場がなくなるのは、こんなに悲しいものなのか……」と感じたそうです。当時、岡村騎手はハタチになったばかり。多感な時期に味わった想いは、岡村騎手の心に深く刻まれていて。言葉やレースに、自然とあふれ出たのかもしれません。「福山競馬場は、すごく独特なコース。難しいです、あの競馬場。レース中に、何度も怒られました。騎手として、本当にいい経験をさせてもらったと思います。これからも福山での経験を生かして頑張ります。今日はお客さんのなかに見たことある人がいっぱいいて、すごく懐かしかった。またやってほしいですね。次は大口は叩きません(笑)」そして3着・3着の池田騎手が、2位に入賞。第1戦の騎乗馬は9番人気、第2戦は8番人気。2戦ともアッと言わせてくれました。「『3位以内に入れたら』と思っていたので、嬉しいです。福山競馬場は馬場がちっちゃかったんですけど、そのぶんお客さんの近くでレースができるのが好きでした。小回りの福山で、自分に技術が身についたかどうかはわからないけど、他の競馬場に行くと、広く感じます。福山での経験を生かせるように、頑張ります!」松井騎手「久々に会う方がたくさんいて懐かしかったし、楽しかったです。小回りの福山競馬場を経験していることが、自信になっているところはあると思います。でも、もっと頑張らないと。福山の仲間とは連絡を取り合っているんですけど、ホッカイドウ競馬にいるのは僕だけで、みんなに会えるチャンスはなかなかありません。だからこういう機会をいただいて、ホントに嬉しいです」山田騎手「セレモニーやパドックで、だいぶ叫ばれました(笑)。とても楽しい1日でした」嬉騎手「本当にありがたい企画でした。ただ、わしもみんなと飲みたいんじゃがのう……。それだけが心残りよ。またやってほしいです。今度は日曜日に(笑)」4月、高知のジョッキーとしてレースに帰ってきた三村展久騎手。いつも福山競馬場の入場門で流れていた名曲「One day」や「じゃあ また明日」。大好きな曲だけど、廃止以降は聴きたくなくなった。聴くのが怖かった。「シゲちゃんトーク」のBGMがいきなり「One day」で、一瞬泣きそうになったけど。だけどすぐに、あの入場門をくぐるときのウキウキする気持ちが蘇ってきた。「One day」を楽しい気持ちで聴ける日が来るとは思わなかった。場内に飛び交う備後弁。笑顔弾ける福山ジョッキーズ。高知競馬場が福山色に染まった、特別な1日。こんなに楽しい気持ちで福山競馬と再会できる日が来るとは、思わなかった。みんなの元気な姿を見て、私はしみじみ思いました。楽しい思い出まで、封印する必要はないよね。これからもずっと、福山競馬場が大好きです。じゃあまた、どこかの競馬場で。