怪しい生き物
寝苦しい夜が続く。それにつけてもうちの雄ネコ太郎はどうして
私のベッドでおしっこをしてみるのだろう。昨夜に到っては
まずキングサイズベッドの上のTシャツの上で 宵の内に1回して、
夜中には一緒に寝ているシングルベッドをふたつ並べた、当に私と
寝ている処でもう一回した。朝方 とうとう 私の体もハレーションを
起こしたのか ひどい`こむらかえり’で右足の親指が攣って 冷や汗流した。
昼間はイヌネコホームの事務、雑事、作業、神経作業とばたばたいらいら
過ごし 夜中に太郎におしっこ じゃぶじゃぶされては やわな神経なので
とっても持ち堪えれそうに無い。よく‘飼い猫にするのは 生後2ヶ月ぐらい
までが良い’ などとペットの雑誌に記事が載っている。あれはこんな
トラブル回避の警告だったんだなって夜中の暗闇で 猫のおしっこでぐっしょりの
寝間着を着替えながらその記事の信憑性に頷いたものだ。
こうなると雄ネコの太郎の生い立ち記を 深層心理学を持って
じっくり遡るほか無さそうだが こちらにも都合があって そんな
悠長な余裕は残念だが 許されそうに無い。
ということは 後は 太郎の‘おしっこ’機嫌をひたすら
ベッド外 出来ればおしっこトレイ使用へ向けるよう神頼みする
しか無いのである。
言ってみれば 私の就寝時の快適さは 太郎の気侭さの
‘ケセラ セラ’。辛すぎる。
ちょっと楽しい話もある。昨日Saraが披露して呉れた。現在 黒は日に
3回 庭に出して貰う。早朝に1回。この時は 用を足すだけなので
前庭の玄関には出して貰えない。正午と夕方には小1時間 玄関で
番犬気分で寝そべっている。雄犬たち、Gigio,、ブッチー、Lupo
は黒とは天敵の仲である。黒を玄関に出すに当って Saraはまずこの3匹
を寝室に入れる事にしている。煩く吼え合うのを避ける為だ。
『Gigio,ブッチー、Lupo!Inside!』と私が声を掛けると もう黒が
むっくり起き上がって 台所の戸の前で待っているの。笑っちゃう。
反対に玄関に居る黒に‘黒!’と声を掛ける度に 寝室の3匹が
必ず 一斉に怒った様に吼え始める。‘黒’というのは だから 禁句。
とはSaraの弁。
なるほど犬も馬鹿では無い。生活習慣から しっかり学ぶらしい。
昨夕の事。恵子とマリを連れて散歩に出た。いつもの散歩コースには
若者軍団がバイクで走り廻っていた。そこで普段使わないメインロードへ
連れて出た。Mrs.Rajiの家の角を曲がった所で 亭主と同じ車種の車が
やって来た。恵子の緊張がリースを通して伝わる。彼女はこの家のマスターが
誰か知っている。従って 亭主の帰宅にとっても敏感なのだ。この日も
耳をピーンと立てて 車が止って マスターが声を掛けて呉れるものと
期待したらしい。
がこの車はちょっと徐行はしたが そのまま通り過ぎて行ってしまった。
その時の恵子の茫然として 車の去るのを見送る様子には 胸を打たれた。
ひどく裏切られたような 傷ついたような 寂しいような。
問題児だった恵子だが 最近はぐーんとお利巧さんになった。反対に彼女の
ほっとな部分がとても印象的で 人をひきつけるものがある。
祐ちゃんの娘のハスキーは 私以外 誰にも触らせない。ほんとに人馴れ
しない犬で扱いに閉口している。Saraにも未だに決して気を許さない。餌は
貰うが リースを掛けさせるのも受け入れず 始末が悪い。勿論シャワーも
させる所で無い。私が帰国中は 一月間でもシャワーは飛ばされて なし。
これが最近 亭主には必死の思いで我慢してか 頭を触らせるようにまで
為った。特別 亭主がアプローチに励んだ訳では 決して無い。『あんな
懐かない犬 シェルターに送ってしまえ。』と熱心に苦情は言うばかりで 懐柔
など更々するはずも無いのだ。
ハスキー自身が 何か思う処あって 一念発起したとしか思えない。
亭主は餌にも縁が無い。散歩もしない。一緒に遊びもしない。まるで
役立たずの存在としか 犬には映らない筈なのだ。
それが 必死に堪えても 亭主に頭を撫でられているのを見ると
彼女もマスターは誰か知ったのだと思うほか無い。
犬を侮れない所以である。
こんなに一日中猫や犬の話ばかりしている私も相当 怪しい部類の
生き物なのだろう。
『<終>』
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大原 素子 ??????@pd.jaring.my