「熊田千佳慕展」を観た(その2)
(その1)からの続きです。 「昆虫館」のパート。 『ファーブル昆虫記の虫たち』から。 「キショウブのレストラン」(ショウブヒトツメゾウムシ) ゾウムシは園芸家にとって大敵である場合が多いのですが、うじゃうじゃと11匹も。 「さやへの産卵」(ショウブヒトツメゾウムシ) ああ、一寸キマス。殺虫剤が欲しい(視点が熊田氏と反対だから。私は黄菖蒲目線)。 「ナシのゆりかご」(フンコロガシ) 懐かしいなぁ。そうそう、梨の形に作るんですよ、最終的に。フンコロガシが卵を産み付ける糞玉は。 『ファーブル昆虫記』には様々な昆虫が登場するんですが、中で一、ニを争う面白い昆虫はフンコロガシなんです。 「フン玉での幼虫時代」(フンコロガシ) そうそう、梨の形をした糞玉の頭の部分に産み付けられた卵は、やがて孵化し、幼虫は糞玉の外皮を残してだんだんに糞を食べていくのです。 懐かしいなぁ、糞玉。しみじみ(「うんこの塊」にしみじみしちゃうのもなんですが)。 余談ですが、『ファーブル昆虫記』を子供向けにアレンジしたものを読んで、それで済ませちゃう方が多いんですよね。で、何か子供向きの本だと誤解しちゃう。 もったいない話です。岩波から出ていますので、ちゃんと原書を忠実に訳した物を読んでみてください。大人が読んでも、いや大人が読んだ方が面白いですよ。 また、お子さんに買って与える場合も、是非とも原書を端折らず訳した、子供向きではない『ファーブル昆虫記』を与えてください。そちらの方が(実は)お子さんが喜ぶと思います。 「庭の番人」(キンイロオサムシ) おぉ、メタリックカラーの煌くグリーンの勇姿を見よ(蛾の幼虫なんかを餌にするので園芸家には喜ばれる虫です)。 「ハシバミオトシブミ」 図解でオトシブミが葉を丸めて、俗に言う「ほととぎすの落文」を作る様子を描いてあります。オトシブミはこの丸めた葉の中に産卵するんです。 「ふんの腸づめ」(センチコガネ) センチコガネは夫婦共同作業で卵の為に「糞の腸詰」を練り上げていきます。 進化の系統樹中、我々が属している枝で「夫婦共同作業」を行うのは、やっと鳥類になってから。 「巣穴へのえもの運び」(キバネアナバチ) 巨大なコオロギの触覚を引っ張り、巣穴に引いて行くキバネアナバチ。動きが感じられます。 「危険な楽園」(アオヤブキリ) これはかなりドラマチックな場面。アオヤブキリがセミを襲っています。仰向け状態のセミに喰らいつこうと覆いかぶさるアオヤブキリ。いかにも絵画的といえる構図。 アオヤブキリは成長するに従い食性が変化して、植物から動物を食べるように変わります。 「体中の力をこめて」(トネリコゼミ) トネリコゼミの羽化の様子を描いた作品。色がいい。羽化したてのセミの、なんともいえない独特な、薄青緑がかった白色が良く出ています。 「危険がいっぱい」(ウスバカマキリ) 卵から孵化した蟷螂の、重なり合ってウジャウジャと外に出てくる様子が巧みに描かれています。 そうそう、卵から出てきたばかりの蟷螂の幼虫ってこんな色をしているんだよね。ほっておくと共食いもするのだ。 「恋のセレナーデ」(イナカコオロギ) これは少し妙な気になる作品。他の昆虫画と同じく、リアルに二匹のコオロギが描かれているのですが、一方、二匹が「愛を語り合っている」という可愛らしい雰囲気が確かに感じられる作品。 コオロギがデフォルメされた三頭身キャラのように見えるのも、可愛らしく感じられる理由の一つか。 「メスを求めて」(オオクジャクサン) これもまた奇妙ともいえる作品。巨大な蛾、オオクジャクサンが夜半メスを求めて飛んでいるリアルな、“科学的”といっても良い写実画なんですが、ひどく幻想的なのです。 バックは闇で「黒」。不思議な静寂感が漂います。マグリットの絵のようだ。 「メスに集まるオス」(オオクジャクサン) メスを争って舞い踊るオス達。確かに動きが感じられます(あぁ、でも止めて。巨大な蛾が何匹の飛んでいる絵は。蛾は苦手なの)。 「はばたく日まで(一生)」(オオクジャクサン) 幼虫から成虫までを一枚の絵に。幼虫の姿もエグイです。ピョンピョン毛を生やしています。 「星空のジェット機」(ケラ) この作品も妙な作品。ケラが夜空をバックに飛行しています。背景の菜の花の黄色が鮮やか。 少しシュールで且つクール(熊田氏は若い頃、シュールレアリズムに関心があった)。でも無論、正確に昆虫の姿と生態を描いています。 なお、ケラは飛ぶ事も出来るんですが、鳴く事もします。俳句の秋の季語「蚯蚓鳴く」はケラが鳴いているもの。 「蝶の乱舞」 様々な蝶が乱舞しています。アゲハチョウの幼虫から蛹も。伊藤若冲の絵のよう。 「動物園」のパート。 「ミャーン」 子猫の絵。お座り状態で視線を左斜め下に注いでいます。視線が結構鋭い。目ん玉まん丸。どうしたんでしょうか(犬と違って猫は一寸判りません)。この表情は少し漫画のような感じも与えます。可愛い、可愛い。毛のふかふか感も素晴らしい。 「チカボとスギコ(自画像)」 「自画像」と題しておきながら、描かれているのは「犬」(^O^)。奥さんも「犬」になっております。 「誰のしっぽ」 七匹の動物の尻尾のみの絵。もう一枚に解答が描かれています。「動物の尻尾だけの絵」というのもユーモラス。 「ファンタジー館」のパート。 クロオオアリやメジロといった動植物と一緒に、さりげなく妖精が描かれている物。 「制作の小部屋」のパート。 ここではスケッチ集や出版された本、それに熊田氏の略歴を紹介したビデオなどが上映されています。 ビデオ中、ファーブルのフィギュアに、はたきをかける熊田氏。「ファーブルのフィギュア」という物がある事自体驚きですが、熊田氏が手に入れているのも可笑しい。どんだけファーブルが好きなんだ。 ここでクイズの答え。熊田氏の作品のほとんど全てに、「影」が描かれていません。ものすごくリアルに描かれているのに、「影」は無い。 生物を図鑑のように図示するのに影が邪魔、という事以上に、小さな生き物達の力強い「生きる喜び」の“輝き”が、「影」が無い事によって暗示されている、というのは穿ち過ぎでしょうか。 最後に「オリジナルグッズコーナー」。 充実しておりました。マグカップにピンバッチ、香水、キャンディーに、ワインから蜂蜜まで販売中(少しやり過ぎの感あり(^o^)。 おまけ。 熊田千佳慕氏は熱烈な阪神ファンだった(^-^)。ファーブルが好きで、阪神も好き。8月13日未明、熊田千佳慕先生は御自宅で逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。