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2006年01月09日
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2005年12月2日


■経済見通しからの予測は上手く行かない?

 早いもので、年末が近づいてきた。この時期になると、各種のメディアで、来年の相場見通しや、これを踏まえた運用戦略の話題を目にすることが多いのではないだろうか。加えて、証券会社や金融機関が顧客に、或いは運用会社が顧客(年金基金など機関投資家顧客と個人顧客に大別される)に、来年の市場見通しと運用戦略をプレゼンテーションすることもある。
 こうしたプレゼンテーションは、通常、内外の景気の見通し(通常はGDP成長率の見通しを中心に)から始まって、これに関連して金融・財政などの経済政策の見通し、そして金利・為替レートなどの見通しと共に株価の見通しへ(素人向けには日経平均ベース、プロ向けにはTOPIXベースが多い)、と話が進んでいくことが多い。筆者は、この種の話をする側と聞く側の両方をそれぞれ何度かやったことがあるのだが、確かに、このような順番で話すと(あるいは「話を聞くと」)、調子が良くて収まりがいいと感じる。
 読者の多くも、この種の話を真面目に受け取ると、運用を考えるためには、マクロの経済見通しについて的確な見解を持つ必要があるのだろうと考えがちになるだろうが、果たしてそうなのだろうか。
 早めに答えを言ってしまうと、相場見通しというものは、どのようにアプローチしてもほぼ同程度に当たったり外れたりするものであり、専門家の経済見通しをベースにして考えたからといって、予測の有効度が増すものではない。経済見通しから立論する運用戦略は「もっともらしく」聞こえることが多いのだが、過剰な期待は禁物だと申し上げておく。
 これから風邪が流行る季節になるが、インフルエンザの予防接種と共に、「マクロ見通しの信じすぎに注意しましょう」という運用に効く予防注射を受けておいて欲しい。

■経済予測による運用戦略が上手く行かない理由

 経済見通しから作る運用戦略が上手く行きにくい理由をまとめると以下の通りだ。
<経済予測による運用戦略が上手く行きにくい理由>
(1)近いとはいえ未来の経済の状態を、相場予想に意味があるくらいのレベルで詳細に正しく予測することは極めて困難
(2)仮に正しい予測が出来たとしても、その数値が(たとえばGDP成長率が)金利、株価、為替レートなどにどのくらい影響するのかを評価することが難しい
(3)他人がどのような予想を持っていて、将来出てくる数字に対してどのように反応するかを評価することが困難
(4)現在の株価や為替レート、金利などが将来の予測の何をどの程度織り込んだものなのかを判断することが難しい
(5)加えて、マクロ経済以外にも市況に影響を与える要素が数多くある

 上記の(2)、(3)、(4)には多少の内容的な重複があるが、(1)~(5)は、何れも当たり前と言えば当たり前のことだ。
 たとえば、仮に来年の実質GDP(名目GDPでもいいが)の成長率が(結果的に)正しく予測できたとしても、これがあるべき株価にどのように影響するかを理解するためには、上場企業の利益成長率がどうなるかが分からなければ理論的な株価は求まりようがないし(2)、理論的な株価は、たとえば投資家の心理の変化によってリスク・プレミアム(株式のリスクに対して要求する追加的なリターンのこと)が変化すると、簡単に何割もちがってしまう(5)。
 現在の株価が(為替レートや金利でも同じだが)必ずしも現在の経済状況を正しく反映しているとは限らないし、仮に現在の株価に誤りがあるとして、これが将来どの程度修正されるのか、或いは誤りが拡大するのかも分からない(4)。また、「誤り」の有無や大きさを知るためには、市場の参加者が現在及び将来の経済状況その他に関してどのような認識を持っているのかを知る必要があるが、これは極めて捉えがたい(3)。
 「誤りが拡大する」などというケースまで考えることは、一種の論理的意地悪ではないかと思うかも知れないが、たとえば1988年の株価(日経平均は2万円台後半)は後から考えると、投資家の判断の大規模な誤りだと思えるが、1989年の年末には日経平均は3万9千円にあとわずかまで迫ったのだ。
 こうした難しい要素が複数ある中で、経済見通しを正しく行うことが相場予想に対して持つ価値は限定的だし、経済予測を得た時点でこの予測の確度が分からなければならない。まして、これが有効であるためには、原理的に、他人よりも正しい予測を持つ必要があるが、これは言うまでもなく難しい(1)。
 随分前から、この難しさをどう伝えるのがいいか考えているのだが、目下の表現としては「緩い関節が三つあるマジックハンドで鰻をつかまえるくらい難しい」と申し上げておこう。


■運用会社の事情など

 それでも、運用会社にもエコノミストが居るし、経済見通しと運用戦略を一緒に論じる会議を定期的に開いている。これは、意味があるのだろうか。
 詳しく調べたわけではないが、3年以上のキャリアを持つファンドマネジャーの、たぶん半分以上は「マクロ見通しには話半分程度の意味しかない」というくらいの醒めた見方を持っていると思う。運用会社は、一般の会社に較べて会議が非常に多い会社だが、「経済の素人どうしで、経済見通しを論じても時間の無駄なのに・・・」と思いながら、この種の会議を、退屈を噛み殺して我慢しているファンドマネジャーも多いはずだ。
 思い切って運用会社の舞台裏を言ってしまうと、マクロの見通しから運用戦略を論じるのは、顧客向けに話をする際にそうした話が好都合だからである。運用計画を説明する上でも、或いは運用の失敗について言い訳する場合でも、マクロの見通しに関連づけて話すと、それらしく聞こえることが多いのだ。
 加えて、日本の運用会社の場合、しばしば商品の販売会社である親会社(証券会社や銀行など)から来る経営者が、顧客と同レベルの理解と関心を持っていることが多く、社内コミュニケーションの上でも、マクロ経済の話は話題としてちょうど良い、ということもある。
 たぶん、この種の風潮にうんざりしたのだろうと思うが、有名なファンドマネジャーであったフィデリティー社のピーター・リンチ氏も、ジョン・トレイン(運用関係の著作が多いライター)によるインタビューに「私がマクロの見通しについて考えるのは、一年に15分ほどである」と答えたことがある。言い換えると「マクロ経済のことなど考えても無駄だ」ということなのだが、これは、たぶん(1)マクロの見通しを一所懸命に考えて儲かるわけではないという彼の同僚観察による経験則と、(2)市場全体にではなく個々の企業が持つビジネスに投資するのだという彼の投資スタイルによるもので、彼の本音だろう(加えて、会議も嫌いだったかも知れない)。
 ピーター・リンチの後に語るのは気が引けるのだが、筆者のファンドマネジャー時代に、筆者及び筆者の仲間が主に考えていたのは、もっぱら市場の参加者及びライバルである投資家の心理と懐具合であった。もちろん、自分自身もしばしば間違えるわけだが、人間が判断のミスをするパターンというのは案外安定しているので、これを利用しようと考えていた。
 マクロの見通しを当てようとして、それだけに真剣になると、どうしても他人の考えの後追いになる公算が大きいように思う。企業に着目するにせよ、市場参加者の心理に注目するにせよ、他人が語る経済見通しよりも、自分で考えた投資のアイデアを重視する方が、良い結果が出る確率は高いと思う。


以上





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最終更新日  2006年02月10日 02時30分38秒
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