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2009年04月03日
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 ■「ウォール街のランダム・ウォーカー」の功罪

 最近、筆者は「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版社)をよく参照する。この本は1970年代から定評のある投資の解説書で、現在の翻訳は2007年に出た原書の第9版がもとだ。一つには、同書のような個人投資家向けの投資の理論・実践両面の読み応えのある解説書を作りたいと思うから読むのだが、もう一つの理由は、運用の世界でよく聞くけれども、よく考えると違和感のある話のいくつかについて、この本が影響しているのではないかと気がついたからだ。

 詳しくは別途書こうと思うが、運用期間が長くなるとリスクが縮小するという記述(翻訳書394ページ以下)はファイナンスの議論としては誤りなのだが(注1)、困ったことに、マルキール先生の説明は巧みで文章には説得力がある。運用業界はこの説明を利用し続けているようであり、日本でも、マルキール先生が説明に使ったデータの日本株版を使って、同じような説明をすることがあり、新聞・雑誌の「資産運用特集」や単行本などに、この誤りが繰り返し登場する。

 この本の最大の主張であり実践的なアドバイスは、市場は効率的だから、インデックス・ファンドを買うのがいいというものだ。マルキール先生は「効率的市場理論に対する攻撃はなぜ的外れなのか」(第11章)というタイトルで丸々一章を割いて、効率的市場理論を擁護している。彼の擁護の立論を見てみよう。

(注1)納得のいかない方は、たとえば、投資のテキストの定番である「証券投資」(Z.ボディ、A.ケイン、A.J.マーカス著、堀内昭義著、東洋経済新報社)の第7章の補論Cに「時間分散の誤り」として、長期投資でリスクが縮小するという議論が誤りであることの説明が載っているので、参照されたい。


 ■マルキール氏の効率的市場理論擁護

 マルキール先生が「的外れ」だと攻撃する相手は主に行動ファイナンスの研究者だ。

 彼は、市場の効率性を「平均以上のリスクを取らずに平均以上のリターンを上げることができないこと」、つまり、アクティブ運用(市場平均以上のリターンを上げようとする運用)が上手く行かないことだと定義する。

 そして、効率的市場理論に対する攻撃者の主張を「市場には利用できるパターンがあり、アクティブ運用は上手く行く」という主張に置き換え、しかし市場平均以上のリターンを上げることが難しかったという事実を挙げ、「市場平均を上回るようなリターンを継続して稼げるような投資戦略を編み出すことに成功した例は存在しない」、「効率的市場理論にたてつく人は必ずやしくじるだろう」と論じる。「私はインデックス・ファンドというアイデアが優れていることを、今では以前にも増して強く確信している」とも書いている。

 効率的市場理論への挑戦として取り上げられているのは、いずれも、いわゆる「アノマリー」現象と関連するが、「1月効果」「曜日効果」「短期モメンタム戦略」「バリュー戦略」「リターンリバーサル戦略」などだ。

 また、バブルのように明らかに正しい価格から現実の株価が乖離することがあるのではないかという問題については(たとえばインターネット株バブルのようなケース)、バブルは主に事後的に分かるものだし、これを利用して裁定取引で利益を得ることが難しかったはずだと述べている。

 ここでも、アクティブ運用で上手く儲けられないのだから、市場は効率的だというのがマルキール先生の論法だ。


 ■マルキール先生への反論

 しかし、市場の効率性の定義としては「市場で形成される価格が(ほぼ)正しいこと」だと考える方が適切ではないだろうか。そうしないと、バブルのような問題が上手く扱えない。また、CAPM(資本資産価格モデル)のようなその後の理論展開をするにあたって、「市場で実現する価格が正しいということは、市場参加者が同じ情報と計算・判断能力を持っているはずだ」といった形で、理論の前提条件と市場の効率性とを直接対応させることが難しくなる。

 実は、アクティブ運用が上手く行かないことに関しては、正しい価格の発見能力に関して、市場の参加者は五十歩百歩であって大差がないからだと考えると、現実がすっきり理解できる。現実の株式市場には、ミス・プライスが多々存在している。しかし、その発見能力は、プロにあってもたいしたものではない。

 残念ながら正しい株価を判別する能力は、運用のプロも、アマチュアの投資家も大差がないのが現実だと、筆者は思う。能力的に似た者同士なのだから、特定の市場参加者が、市場平均に対して勝ち続けることができないのは、驚くに当たらない。

 特定のパターンないし参加者が継続的に市場平均に勝たないと「非効率性」が証明できないというマルキール先生の論法は不当に高いハードルだ。たとえば、複数のパターンのミス・プライスが予測できないタイミングで入れ替わる状態は、価格形成に関して明らかに非効率的だが、簡単な勝ちパターンがないという事実と整合的だ。

 従って、筆者は、マルキール先生の具体論の部分にはおおむね賛成する。彼は「低コストなインデックス・ファンドがあるのに、高コストなアクティブ・ファンドを多くの投資家が買うことこそが『最も重要な今日のアノマリー現象』だ」というが、この表現には拍手をもって賛同する (注2)。

 インデックス・ファンドが良い投資対象なのは、市場が効率的だ(市場で形成される株価は正しい)からではない。コストが安いからであり、アクティブ運用が平均的には上手く行かないし、どのアクティブ・ファンドが上手く行くのか、事前には分からないからだ。

 一方、価格が正しいと考えるか間違いが多々あると考えるかで、運用の理論も実務も変化する。理論にあっては、たとえば CAPMのような伝統ファイナンスの理論の前提条件が崩れるし、実務にあっては、「一般論として儲かる」戦略は難しいとしても、「個別具体的にチャンスは存在する」のであれば、やる気のある市場参加者が、チャンスを利用して儲けようとチャレンジすることは十分意味のあることだ。(ただ、他人を信用し、アテにしようとする投資家は、上手く行かないだろう)

 チャンスは多々あるが、その発見と利用が難しいのが現実の市場である。チャンスがない、のではない。

(注2)実は、マルキール先生が皮肉を込めて指摘するアノマリーが存在する理由を説明できる理屈が行動ファイナンスなのだ。たとえば毎月分配型のファンドのように、伝統ファイナンス的な検討では明らかに「ダメ」といわざるを得ない商品が、現実に売れる理由は、行動ファイナンスを使うと説明できる。





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最終更新日  2009年04月03日 20時19分32秒


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