1038267 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

風狂夜話2

風狂夜話2

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2013年10月24日
XML
カテゴリ:政治




父は明治31年に生まれた。だから、田中角栄とは約20年の違いがある。

父は横須賀中学を首席で卒業したが、横須賀の海軍工廠の職工となり、独学

で大学の入試資格を得て、早稲田大学理工学部に補欠入学する。

これは大変な秀才だったといっていい。在学中にいくつかの特許を得ている

が、そのうちのひとつであるガソリン・スタンドの設計図(父の専門は石油

関係のパイプである)は、戦後も使われていたという。

海軍工廠では製図工であったというから、その点も田中角栄と似ている。

一方の田中角栄は、尋常高等小学校を卒業しただけであるから、実業に就い

た年齢で言うと、20歳の差を10歳にちぢめてもいいように思う。

私の祖父は佐賀県の出身であり、海軍の職業軍人であった。ただし、いわば

下級武士であり、終生、水兵さんであったに過ぎない。

その貧乏な家に、とてつもなく頭のいい子供が生まれたのである。私の母方の

叔父は、父の指導によって府立一中(日比谷高校)に入学(高見順と同級生)す

るのであるが、この叔父は、苦学しているマアちゃん(父のこと)に、学問で

は到底及びもつかなかったという話を何度も聞かされた。

頭が良くて弁舌が立つ。決断が早い。貧乏な家に育ったが他人に使われること

が嫌い。文学好き(この文学は大いに問題があるが)の熱血漢で、涙もろい。

意外にも竹久夢二を愛するようなセンチメンタリストの一面がある。

淋しがり屋である。家族を溺愛する。精力家で頑張り屋で仕事熱心。天才的な

製図工で数学が得意。まだまだ数えあげればいくらでもあるが、田中角栄と父

とは実によく似ている。体質が同じなのである。

角栄と父との差は、運の良い男と悪い男、健康な男とそうでなかった男(父は

若年からの重症の糖尿病だった)というだけのことではあるまいか。父は政治

嫌いであったが、私は田中角栄を政治家だと思ったことはない。

さあ、少し端折らないといけない。

私は田中角栄と父との最大の決定的な共通点は、自分が成功するためには、自分

の家族を守るためには、身を立て名をあげるためには、他人を蹴倒してもかまわ

ないと考えていたことにあると思う。

法に触れないかぎりの金儲けは決して悪いことではない。よしんばそれが法に触れ

るものであっても、お咎めに遇わなければ悪いことにはならない。

さらに、それが法律によって罰せられても、なんら恥ずるところはない。なぜならば、

それは事業のためなのだから……。従業員を養うためなのだから……。家族を守る

ためなのだから……。それは悪いことではなく、むしろ美徳なのである。

これが、明治の半ばから大正の初めにかけて生まれ、貧しい家に育った一旗組の青年

の信念であり思想であり宿命であった。

いま、大蔵省の役人や、日本郵船の社員といったような、エリート中のエリートが

簡単に自殺してしまうのを見ると、その違いがはっきりすると思う。

(中略)

この世に生きることは他人を蹴殺すことである。ごうも恥ずるところはない。

私が、田中角栄も私の父も確信犯だと書くのはこのためである。しかし、私は

その父の子であることを恥じてはいない。ちょうど、角栄の娘である真紀子さ

んが角栄と全く無関係であるように。

田中角栄の場合は、さらに、父よりも時代が悪かった。彼にとっては都合がよ

かったといってもいいが、角栄が世に出たのは終戦直後であるが、そのころ、

悪いことをしていない日本人は一人もいなかった。すべて、叩けば埃という人間

ばかりである。終戦直後の銀行員や税務署員がいかに悪辣であったか、私も

少しは承知している。すべては時効になったが、その澱はいまに残って発酵を

続けている。

(山口瞳「旦那の意見」下駄と背広より)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013年10月24日 15時26分53秒
コメント(0) | コメントを書く


PR

フリーページ

プロフィール

芳邑

芳邑

キーワードサーチ

▼キーワード検索

楽天カード

カレンダー

お気に入りブログ

源氏物語〔2帖帚木 … New! Photo USMさん

コメント新着

@ New!
うぼで@ Re:フランク永井の死(11/03) フランクさんの曲、再び聴きたくなりまし…
金田あわ@ Re:梟よつらくせ直せ春の雨(12/28) よいものを見せて頂きました。Thanks a l…
玄茶ー@ Re:淋しさに飯をくふなり秋の風(11/01) 感情的な文章です
http://buycialisky.com/@ Re:日経新聞社説の従米論(05/05) cialis e viagra assunti insiemecialis c…

ニューストピックス


© Rakuten Group, Inc.