マジック!
この一週間、ロサンゼルスでレコーディングの為のツアーをして来ました。現地に着いて2日間コンディションの調整をして、本番に臨みました。当初、一日目にギター・ピアノ・ベース・ドラムス、二日目にギター・オルガン・ベース・ドラムスのセット・・・、今回は二日間掛けて録音して、良いテイクをピックアップしてCDに残す予定でしたが、一日目入ったスタジオでは録音設備上でのアクシデントが発生してしまい、すぐにキャンセルして、別のスタジオを次の日に予約する事になりました。「もう前日なのに、空いている良いスタジオがあるのか・・・」と大きな心配が過ぎりました。そして、その日スタジオを後にしてホテルへ帰って来たのですが、明日のスタジオの予約がなかなか取れず、時間だけが深深と過ぎて行きました。本当に「明日レコーディングは実現出来るのか・・」と、物凄い不安と緊張が入り乱れていました。「今日の明日・・・、そんな簡単に良いスタジオが予約出来る訳がない・・・」、僕は99パーセントもう無理だと思いました。でも、その1パーセントの気持ちの中で、僕はホテルで黙々とギターの練習をしていたのですが・・・そんな中、夜10時になって、スタッフの人から電話がありました。「スタジオやっと決まりました!」その言葉を聞いて、全身の力が抜けるのを感じました。本当に、ほっとしました。嬉しかったです。幸運にも、二日目に素晴らしいスタジオに予約する事が出来ました。でも、当初二日間で録音する予定が、1日で録音し終えなければならない重圧が僕の中に大きく圧し掛かりました。更に、その後で、今度はスタッフがメンバー各人に連絡すると、「明日は、何時からしかスタジオ入り出来ない・・」、また「何時までしか居られない・・」と、メンバー一人一人のタイムスケジュールを通達されました。そしてスタッフの人は、それらメンバーの予定を調整して、表を制作し、明日のレコーディングのタイムスケジュールを、僕のいるホテルへファックスしてくれたのですが、それが届いたのが夜中の12時でした。それは、以下の通りでした。1、AM9:00スタッフ入り2、10:30~11:00セットアップ&リハーサル3、11:00~PM1:00 GUITAR,ORGAN,DRUMS 3曲レコーディング (OBSESSION, MY ROMANCE, STELLA BY STARLIGHT)4、pm1:00~2:00 Break5、2:00~4:45 GUITAR,PIANO,BASS,DRUMS 4曲レコーディング (LOOK FOR THE SILVERLINING, MOONLIGHT IN VERMONT, YESTERDAYS, THE BEST THINGS IN LIFE ARE FREE)6、4:45~6:00 GUITAR,BASS,DRUMS 1曲レコーディング (ONE NOTE BLUES)7、6:00~7:00 GUITAR,PIANO 1曲レコーディング (I'VE NEVER BEEN IN LOVE BEFORE)8、7:00~8:00 GUITAR,BASS 1曲レコーディング (DARN THAT DREAM)9、8:00~9:00 GUITAR solo 1曲レコーディング (WHEN YOU WISH UPON A STAR)でも実際、初めの11:00からのセッションでは、終わった時点で1:30になっていました。時間が凄く押しているというプレッシャーが襲る中、結局、ランチの休憩は15分で済まし、一番ハードな2:00から4:45まで4曲という本番に臨みました。でも、自分の中では150%の出来でした。火事場の馬鹿力と言うか、そんなものを感じながら弾いていました。結局終わってみたら、殆ど1テイクか2テイクでレコーディング出来た。最後から2曲目、このレコーディングで一番思い出に残るシーンがありました。初めて会うピアニスト、ビル・カンリフとのduoのレコーディングは、ビルがピアノ用ブースに入ってしまうので、10センチ四方ほどの小窓(しかも、2重ガラスなので顔が殆ど見えない)から小さく顔が見える程度でした。お互いの顔が見えないと、タイミングが合うかどうかと心配でした。でも、いざ演奏が始まり、終わると、ビル・カンリフはすぐにブースの2重扉を勢い良く開け、僕の所へ駆け寄って来て、いきなり抱きついたのです。そして、彼は僕の背中をバンバン叩きながら「This is magic!」と言いました。僕は、一瞬何が起きたのか分りませんでした。彼は続けて言いました、「初めて合って、ピアノとギターの難しいduoなのに、僕はこんなにタイミングが合って素晴らしい演奏が出来たのは初めてだ!」と言いました。僕は驚きました。僕は演奏に夢中だったので、とにかく何がなんだか全く分かりませんでした。半信半疑でしたが、とりあえず、ミキシング・ルームへ行き、今演奏したテイクを聴きました。それは、確かにとても良い演奏でした。そして、その後のギターソロも、自分が今まで演奏した中で「こんなの弾けない!」と思う演奏が出来ました。それも、1テイクでした。その後、予定よりも時間が速く終わったので、レコーディングエンジニアの人から「まだ録れる時間がありますよ」と言われたけど、僕は言いました、「この演奏以上のことは、僕には出来ません。僕の頂点を通り越した演奏です。」と言って、今回のレコーディングは終えました。本当に、長く短いレコーディングツアーでした。あまりにもいろいろな事があったけど、良い音が残せて本当に良かった。今回のレコーディングに携わって頂いたミュージシャン、そしてスタッフの方々、僕は心から感謝しています。人生の中で、本当に深い愛と友情を感じました。そして、このレコーディングに遠くから応援してくれたファンや生徒の皆さん、本当にどうもありがとう。その支えがあったからこそ、実現出来ました。今回のレコーディングで、僕のつくづく感じた事、何をするにしても、自分ひとりでは何も出来ない。様々な人の力がなければ、実現する事は出来ない。人それぞれが信じ合っていなければ、実現する事は出来ない。その場の、決断する事の重要さ。愛情と友情。一つの事に向かって、皆が一生懸命になる事。音楽とは、そして人間とは、なんと温かいものなのだろう・・今回の事で、新しい出会い、そして別れもありました。それは、どちらにしても、とても素晴らしい事。どちらにしても、何があっても、前へ進んで行ければ、それは人生にとって素晴らしい事なんだよね。こんな感動を与えてくれた皆さんに、本当に心より感謝しています。このCD、皆に聴いて貰いたいよ。本当に、聴いて欲しいよ。【このレコーディングが実現するまでの経過】今から6年前、僕は初めてロサンゼルスへ渡りました。アメリカ在住のヴォーカリスト、ヨーコ・サイクスのレコーディングに参加するためでした。僕はロス行きが決まり、初めての海外レコーディングに心ときめいていました。しかしロスへ行く一週間前に、その時一緒にレコーディングするメンバーの中のピアニスト、故ジョージ・ギャフニー(フランク・シナトラやサラ・ボーンなどの伴奏で有名)が「ギタリストとはコードがぶつかるから演奏したくない。」と言って来たのです。僕はその話を聞き、とても残念に思いましたが、でも、もう自分のスケジュールも予定してあったし、夢のレコーディングだったので、不安でいっぱいの中でしたが、とにかく行くロスへ行く事にしました。駄目で元々・・・と思いました。ロスに着いたその日の夜、ジョージ・ギャフニーのバンドのライブを聴きに行きました。挨拶をするためです。するとジョージ・ギャフニーは、あまり良い顔をしてくれませんでしたが、僕がセッションに参加出来ないか?と頼むと、なんとかOKしてくれました。ステージに立つと、ジョージ・ギャフニーは僕に向かい言いました。「なにをやる?」僕は、確か「ステラ・バイ・スターライト」と言ったと思います。その曲が終わると、次に彼は「この曲は知ってるか?」と言って来ました。僕は、その曲を知らなかったので「NO」と言いました。そして、次に言われた曲も知らない曲だったので、僕は、その次に言われた曲は、何が何でも「YES」と言おうと決めました。彼が、曲名を言いました。僕は、すぐに「OK」と言いました。しかし、知らない曲でした。演奏が始まり、僕はその曲のコード進行を探りました。まずキーを確かめて、前半は何となく掴めた・・・自分のソロの番に回って来たら、何がなんでも弾かなければならない。必死でした。そして終わって、ステージを降りて来ると、ジョージ・ギャフニーが僕に近寄り「とても気持ちよく演奏できた。是非一緒にレコーディングしよう。」と笑顔で言ってくれました。そして、その時のドラマーのロイ・マッカーディも僕の所へ来てくれて、「君をツアーに連れて行きたいくらいだ。」と言ってくれたのです。僕は、その時の言葉があまりに嬉しく、忘れられませんでした。本当に、夢のような時間でした。そのレコーディングを終え、その後、何度かロスでレコーディングするチャンスがありました。それらはリーダー作ではなく、すべて参加ミュージシャンとしてでした。でも、あれから6年が経ち、やっとリーダー作をレコーディング出来ることになりました。6年という年月は僕にとって、とても長かったのですが、それは念願のレコーディングでした。僕は、あの時のロイ・マッカーディの言葉を忘れませんでした。ロイ・マッカーディに連絡して貰い、返事を待ちました。数日後に、OKの返事を貰いました。そして、ロイ・マッカーディが一番気に入っているミュージシャンをメンバーとしてお願いしたいという事を話して、今回の、西海岸で一番売れているピアニストのビル・カンリフを初め、ベーシストのクリス・コランジェロ、オルガニストのジョー・バッグという編成でのこのレコーディングが実現しました。今回のレコーディングでは、ギターの様々な「顔」を沢山の人達に知って頂きたいという願いを込めて、この編成の中で、考えられる全ての編成でレコーディングしました。●ギター・カルテット (ギター、ピアノ、ベース、ドラムス)●オルガン・トリオ (ギター、オルガン、ドラムス)●ギター・トリオ (ギター、ベース、ドラムス)●ギター・デュオ (1) (ギター、ピアノ)●ギター・デュオ (2) (ギター、ベース)●ギター・ソロ (ギター)僕は長年プロとして、ライブ活動をして来ましたが、勿論、今もなお発展途上です。でも、その長い道のりの中で、試行錯誤をして、音を追求して来ましたが、このレコーディングは、その今までの自分の音の中で最高のものが録れました。150%の出来です。もちろん、これからもなお、発展途上で、もっともっと良い音を探して行きます。ただ、一つの通過点としても、このレコーディングは、自分の中では「大きな通過点」でした。一人でも多くの人達に聴いて頂き、そして、自分の音を楽しんで頂けたら、とても幸せです。