皆川博子 「アルカディアの夏」
皆川博子という作家は、ミステリーや歴史小説、幻想文学等といったジャンルで、カルト的なファンを持つ作家さんですが、彼女は、1973年に「アルカディアの夏」 で第20回小説現代新人賞を受賞してデビューしてらっしゃいます。この「アルカディアの夏」という作品は、「トマト・ゲーム」という単行本に収録されてるのですが、私は大学生の時これを読んで驚かされました。この小説は、簡単に説明すれば、母親が娘の家庭教師に溺れて情事に耽ってる内に娘の心が歪んで行くのに気がつかず、少女の荒廃していく心の移り変わりを描く話なんですが、少女の反抗心を描写する場面として、デパートの屋上へ行って、何と、頭脳警察のライブを見るという場面が出てくるんですよね。主人公の中学生、令は、パンタの歌う「いとこの結婚式」を聞き、放送禁止、発売禁止になって普段耳にする機会が少ない曲を数曲聴く事が出来て得した気分になったりするんですが、頭脳警察を反抗期の少女の心理描写に引用するのは、まあわかるのですが、この小説が新人賞を取ったのが1973年で、皆川さんは当時43歳くらいということになる訳で、72年にデビューした頭脳警察を当時その年齢でチェックしていたというのはやっぱ凄いですよねえ。情報が溢れてる現代であればわかるんですが。読書の秋ですし、頭脳警察が好きで、未読の方は是非どうぞ。もちろん、小説として面白いのでロック好きじゃない人でもお勧めです。