JEWEL

2016/05/26(木)14:37

華ハ艶ヤカニ 第二章 18

完結済小説:螺旋の果て(246)

「千尋がまだ帰ってないだと!?」 「はい・・周囲をくまなく探したのですが、奥様と思しき方のお姿はお見えになりませんでした。」 「そうか・・ったく、何処へ行っちまったんだ、あいつはぁ!」 土方が苛立ちを紛らわせようと書斎の机を叩いた時、美佐子が書斎へと入って来た。 「失礼致します、旦那様。千尋ちゃ・・じゃなかった、奥様にお会いしたいとおっしゃるお客様がお見えです。」 「千尋に? 通せ、俺が会う。」 「は、はい・・」 土方が客間へと降りると、ソファに座っていたアンドリューがさっと立ち上がり、彼に向かって頭を下げた。 「お忙しい中、申し訳ありません。少しチヒロ君の事でお話があります。」 「千尋の事で?」 「はい・・実は、あなたとの結婚が級友達に露見してしまい、自ら学校を辞めてしまって・・はやまった行動をするなと諭したのですが・・」 「それは、確かなのか?」 「ええ。チヒロ君は大変優秀な生徒です。彼女がどのような事情を抱えているにせよ、彼女には学ぶ事を諦めて欲しくないのです。どうか土方さん、チヒロ君を止めてください、手遅れになる前に。」 「解りました。」 土方はそっとアンドリューの手を握った。 「では、これで失礼致します。何かチヒロ君の事が解ったら連絡をお願い致します。」 「はい、解りました。」 アンドリューが客間から出て行った後、土方は溜息を吐いてソファにその身を沈めた。 一方、桐生子爵邸の敷地内に、四頭立ての馬車がゆっくりと邸内路へと入っていった。 「なかなか目を覚まさないなぁ。」 翡翠の瞳で自分の膝の上に頭を載せたまま動かない少女を青年は見下ろしながら、彼女の髪を優しく梳いた。 「旦那・・様・・」 桜色の唇から、愛らしい声が聞こえた。 (旦那様って誰のことだろ? まぁ、僕には関係ないけどね。) 「お帰りなさいませ、理哉(さとや)様。その方は?」 子爵家の執事・若瀬諒は、そう言って主が抱いている少女を見た。 「帰る途中で拾ってきた。怪我してるみたいだから一応医者を呼んで手当てしてやって。」 ひらひらと青年は執事に手を振りながら、自分の寝室へと少女を運んだ。 「畜生、何処へ消えやがった・・」 土方がそう呟きながら窓の外を見ると、いつの間にか激しい雨が降り始めていた。 この雨の中、千尋は独りで街を彷徨っているのだろうか。 土方の脳裡に、最悪の事態が過る。 (千尋、どうか無事でいてくれ・・) 「う・・」 「気が付いた?」 千尋がゆっくりと目を開けると、目の前に自分の手を握っている薄茶の髪の青年が立っていた。 「あの、ここは・・」 「ああ、ここは僕ん家。怪我は大したことないって。君、どうして馬車の前に飛び出したりしたの?」 「それは、言えません・・」 「そう。まぁ人にはそれぞれ事情を抱えてるからね。僕は桐生理哉、宜しくね。」 「千尋です、宜しくお願い致します。」 「お腹空いてない? 朝食一緒に食べようよ。」 「え、あの・・」 有無を言わさず、青年―理哉は千尋の手を掴んで寝室から出て行くと、ダイニングへと向かった。 「おはようございます、理哉様。」 そこには、燕尾服姿の執事が立っていた。 また新キャラ登場。 どこか風変わりな青年貴族・理哉です。 にほんブログ村

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