「火宵の月」「刀剣乱舞」二次小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
元ブラック本丸が登場するので、 前任の審神者による、一部刀剣男士たちに対する暴力行為などの描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
「先生、どうして僕がここに居るってわかったのですか?」
「あのうるさい管狐にしつこくここの審神者になれと言われてな。火月、ここがブラック本丸か?」
「はい・・」
「其方が、新しい主か?」
凛とした声が聞こえ、有匡と火月が背後を振り向くと、そこには青い衣を纏った男が立っていた。
有匡は、男の瞳の中に三日月が浮かんでいる事に気づいた。
「俺は三日月宗近、まぁじじいさ。」
そう言った三日月宗近は、袖口で口元を覆うと笑った。
「土御門有匡だ、前任者に代わって、わたしがこの本丸の審神者となった。」
「そうか、よろしく頼む。では主よ、早速頼みたい事があるのだ。」
「頼みたい事、だと?」
有匡が少し警戒していると、三日月宗近は一枚のチラシを彼に見せた。
「ぺんたぶという物が欲しいのだ。」
「は?」
「実は、俺達は“薄い本”を作っていてな。前の主は、あなろぐメインで光熱費を節約しろと言って来てなぁ・・」
「事情は、何となくわかった・・」
「ありがとう、主。あぁそうだ、主を歓迎する宴の支度が厨で行われている。この紙に、主が苦手な食べ物を書いてくれ。」
「わかった。」
厨へ有匡と火月が向かうと、そこには眼帯をつけた黒髪の男と、紫の髪をした男が炊事をしていた。
「燭台切光忠、歌仙兼定、新しい主だ。」
「初めまして、歌仙兼定と申します。あなたが、新しい主ですか?」
「あぁ。土御門有匡だ、これからよろしく頼む。」
有匡は紫の髪の男―歌仙兼定に、自分が苦手な食べ物を書いた紙を手渡した。
「肉、生魚、生卵・・それじゃぁ、加熱調理した物は食べられるという事だね?」
「まぁ、そういう事だ。」
「わかった。後は僕達に任せて。」
三日月宗近の案内で、本丸をひと通り巡り、その構造を把握した有匡が最後に入ったのは、前の主の部屋だった。
襖越しからでも鼻が曲がりそうな凄まじい悪臭に覆われ、思わず有匡は顔を顰め、ハンカチで口元を覆った。
襖を開けて部屋の中に入ると、そこは足の踏み場がない程荒れ果て、床が見えない位ゴミが散乱していた。
「これは酷いな・・」
「主よ、これは俺達では手に負えぬから、業者を呼ぼう。」
「そうだな・・」
前の主の部屋の清掃が終わるまで、有匡と火月は本丸の別の部屋で寝泊まりする事になった。
「火月、ここの前の主は、一体どんな男なのだ?」
「この本丸に来て日が浅いので、僕はまだわからないのですが・・ 刀剣男士達に対して、色々と酷な扱いをしていたようでした。」
「そうか。」
「先生、あの部屋はどうするつもりなのですか?」
「あの部屋は、陰の気に満ちていて使えん。開かずの扉として封印しておく。」
「そうですか・・」
「それよりも火月、双子はどうした?」
「雛と仁は、式神のおねーさん達に見て貰っています。」
「そうか・・」
有匡は、火月が自分を見つめている事に気づいた。
「何だ、わたしの顔に何かついているか?」
「いえ、僕がいつも見ていたのはロン毛姿の先生だったので、短髪姿の先生が珍しいなぁ、なんて・・」
「そうか。」
二人がそんな事を話していると、一匹の管狐―こんのすけがやって来た。
「主様、政府の方がお呼びです。」
「わかった。火月、また後でな。」
「は、はい・・」
火月を本丸に残し、有匡はこんのすけと共に政府関係者に会いに、政府機関へと向かった。
「あぁ、あなたが“あの”本丸の後任者ですか。このような若い方とは、驚きました。」
政府機関の男は、そう言いながら有匡に向かって愛想笑いを浮かべた。
「わたしの前任者は、色々と問題があったようですが?その事について、あなた方は何も把握していなかったのでしょうか?」
「あ・・それは・・その・・」
有匡が自分から尻尾を巻いて逃げた男について政府機関の男に鋭く突っ込むと、彼は急に落ち着かない様子で、指の皮をむしり始めた。
「何か、わたしに隠し事でも?」
「いえ、何も。わたしは、これで・・」
(あの様子だと、何か隠しているようだな。直接話を聞くのは無理そうだから、暫く泳がせてみるか。)
「主様、これからどうされますか?」
「本丸に帰る。ここに居ても時間の無駄だからな。」
「はい・・」
「有匡殿、土御門有匡殿ではありませんか?」
有匡がこんのすけと共に政府機関の建物から出ようとした時、一人の少年が彼の前に現れた。
「いやぁ、あなたが審神者になられるとは、驚きですね。審神者の先輩として、一度お話を・・」
「先約がありますので、失礼。」
有匡はそう言うと、少年に背を向け、政府機関から去って行った。
「坊ちゃん、こちらにいらっしゃったのですか?」
「有匡を潰せ・・」
「は?」
「土御門有匡を潰せ!僕に恥を掻かせた事を、後悔させてやる!」
本丸に戻った有匡は、奥の部屋から賑やかな笑い声が聞こえて来る事に気づいて奥の部屋へと向かうと、そこでは加州清光と有匡の式神・種香と小里に囲まれ、火月が楽しく彼らと“女子会”をしていた。
「どうやら、邪魔をしたようだな。」
「先生、おかえりなさ~い!」
火月はそう叫んで、有匡に抱きついた。
「こら、火月ちゃん、はしたないっ!」
「あらぁ~、いいじゃないの、いつもの事じゃない。」
「種香、小里、双子はどうした?」
「殿、雛様と仁様なら短刀達と遊んでいますわ。あら、どちらへ?」
「様子を見て来る。」
「俺、主を怒らせちゃったかなぁ?」
「大丈夫よ~、あぁいう殿のご様子は、今に始まった事じゃないし。」
「そうよ。殿はツンデレなのよ。」
「へぇ~」
清光達がそんな事を話している時、有匡が短刀達が居る部屋へ向かうと、そこには五虎退の虎と遊んでいる双子の姿があった。
「お帰りなさいませ、主。」
有匡を出迎えたのは、水色の髪に金色の瞳をした粟田口の太刀・一期一振だった。
「うちの双子が世話になったな。」
「いえいえ、弟達も遊び相手が増えて喜んでおります。」
「そうか。」
有匡がそう言って双子の方へと向かうと、彼らは歓声を上げながら有匡に駆け寄って来た。
「お父様、お帰りなさい!」
「父様、お帰りなさい!」
「ただいま。」
双子を交互に抱き上げると、彼らが少し重くなっている事に気づいた。
(子供の成長は早いものだな。)
「お帰りなさいませ、ぬしさま。」
そう言って有匡の前に現れたのは、銀色の髪に紅い瞳をした小狐丸だった。
「小狐丸、どうした?」
「あの・・ぬしさまの髪を、ぶらっしんぐさせてくれませぬか?」
「別に、いいが・・」
この本丸にやって来てまだ日が浅い有匡だったが、こんのすけと小狐丸といった同族の者に凄く懐かれていた。
「主、宴の支度が出来たぞ。」
「わかった。」
有匡達が、宴が開かれている大広間に入ると、そこは大勢の 刀剣男士達で賑わっていた。
「では、新しい主に乾杯!」
「乾杯~!」
宴は、夜の十一時まで行われた。
「では主様、お休みなさいませ。」
「お休み。」
有匡と火月は、宴の後大広間から自室に入ると、そのまま眠った。
「主様、起きて下さい!」
「どうした?」
「本丸に侵入者が・・」
「わかった。」
「先生、どうしたんですか?」
「お前はまだ寝ていろ。どうやら、本丸に何者かが侵入したようだ。」
「そうですか。あの、何か僕にお手伝い出来る事はありますか?」
「双子を頼む。あの子達はわたしが居ない事に気づくと泣くから・・」
「わかりました。」
有匡は火月と双子が居る自室に結界を張ると、こんのすけと共に侵入者の気配がする中庭へと向かった。
「本当にここか?」
「はい、確かに。」
(おかしい・・この本丸の結界は張り直した筈・・一体誰が・・)
「見つけたぞ。」
背後から氷のように冷たい声が聞こえ、有匡が振り向くと、そこには見知らぬ男が立っていた。
「誰だ貴様?」
「三日月を寄越せ、あれは儂のものだ!」
「うるさい、去ね。」
有匡はそう言うと、男を本丸から追い出した。
「主様、あの男は何者だったのでしょうか?」
「さぁな。折角結界を張り直したばかりだというのに、また一からやり直しか。」
「わたしも手伝います。」
「ありがとう、助かる。」
こんのすけと共に本丸の結界を有匡が張り直していたのと同じ頃、政府機関で彼が会った少年が苛立った様子で“何か”を見ていた。
「坊ちゃん、お夜食をお持ち致しました。」
「ありがとう、そこへ置いておいてくれ。」
「夜更しは程々になさって下さい。」
「わかった。」
翌朝、少年はいつものように学校へと向かっていた。
「あ、あんた、助けてくれっ!」
後少しで少年が学校に着こうとした時、有匡の本丸に侵入して来た男が現れた。
「すいません、どなたですか?」
「ふ、ふざけるな、儂は・・」
「誰か、誰か来て~!」
男が警察に連行される際、少年はこう彼の耳元に囁いた。
「この、役立たず。」
「うわぁぁ~!」
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