月と太陽 6
「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です。苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。「はい碧、ピース!可愛い~、もう一枚!」「グランパ、入学式始まっちゃうから・・」「そうだね。」 入学式の後、碧は教室で一人の少年と出会った。 彼は、銀髪に碧い瞳という、日本人離れをした容姿だった。 周りの子供達が仲良く固まっている中、その少年は独りで寂しく教室の片隅の席に座っていた。「ねぇ、君、名前は?」「優。お前は?」「僕は碧、よろしくね。」「あぁ。」 これが、土御門碧と、殊音優との出会いだった。「碧、お友達出来たか?」「うん。殊音優って子と仲良くなったよ。その子、銀髪で碧い瞳をしていたよ。」「そうか・・」 碧の言葉を聞いた有匡は渋面を浮かべ、思わず碧の手を強く握ってしまった。「痛い・・」「済まない。」(まさか、文観の孫が同じ学校に入学するとは・・)「ねぇ、お祖父様、何を怒っているの?」「怒ってなどいない。ただ、驚いただけだ。」(世間は狭いな。)「珍しいですね、あなたがわたしとお茶を飲みたいなんて。」 帝国ホテル内にあるラウンジで、有匡は文観と対峙した。「お前も知っていると思うが、碧とお前の孫が・・」「ええ、知っていますよ。」 文観は、そう言うと紅茶を一口飲んだ。「あの子・・優は、可哀想な子でね。母親を一月前に亡くして、父親は単身赴任中で離れ離れ。妻に良く似た顔をした優が学校で虐められやしないかと不安でしたが、こうしてあなたとの繋がりが出来て安心しましたよー義兄さん。」「馴れ馴れしくそう呼ぶな。虫唾が走る。」「おお、怖い。」 そう言いながらも、文観は何処か嬉しそうだった。「さてと、もうそろそろ人と会う時間があるのでね、わたしはこれで失礼致します。では、また学校で会いましょう、義兄さん。」 有匡はラウンジから去っていく文観の背中を睨みつけた後、少し冷めたコーヒーを飲んだ。「不味い。」(そろそろ、碧を迎えに行く時間だ。) ふとパソコンのキーボードを打つ手を止め、仁が愛用の腕時計で時間を確かめると、それは四時三十分を指していた。「すいません、もう上がります。」「お~、お疲れ。」「お疲れ様です。」 仕事を終えて警務課から出て廊下を歩く仁の姿を見ながら、喫煙所に居た刑事達が、こう囁き合っていた。―なぁ、あいつだろ?元公安のエースだった・・―“華麗なる土御門家”の御曹司・・―何でも、突然七年前に公安から警務課へ異動したんだと。―いつも定時で帰っているらしいが、女でも居るか?―そうだろう。 仁は碧を迎えに車で学校へと向かっていたが、運悪く渋滞にはまってしまった。「先生、さようなら~」「さようなら~」 碧はスマートフォンのメッセージアプリで仁宛に今日は電車で帰宅する旨を告げ、学校から出て、駅へと向かった。 しかし、彼は電車に乗るのが初めてだったので、自宅の最寄駅までの切符をどう買えばいいのかわからなかった。「どうした、迷子か?」 券売機の近くで碧がウロウロしていると、一人の男性が彼に声を掛けて来た。「わかった、じゃぁおじさんが一緒にそこまでついて行ってあげよう。」「ありがとうございます。」 その男は、優と同じ色の瞳をしていた。「その制服、聖アンジェロ学院だな?懐かしいな~、俺も昔、その制服着てたんだよ。」「そうなんですか。」「なぁ、その目は生まれつきなのか?」「はい。オッドアイっていうんですって。」「学校で虐められていないか?」「いいえ。今、クラスの間で陰陽師の戦隊モノが流行っていて、その主人公がオッドアイなので、友達から羨ましがられます。」「へぇ~」 電車内で碧が男と楽しく話している内に、自宅の最寄駅に着いた。「ご親切にして下さり、ありがとうございました。」「じゃぁな。」 碧が帰宅すると、玄関ホールでは蒼褪めた顔をした父と祖父母の姿があった。「碧、無事に帰って来て良かった!」「心配かけて、ごめんなさい。」「ご飯にするから、手を洗っておいで。」「うん。」 同じ頃、俊匡が実家に一月振りに帰省すると、玄関先で彼は優と熱い抱擁を交わした。「暫く会わない内に大きくなったな?」「あのね、学校で友達が出来たんだ!」「そうか、良かったな。どんな友達なんだ。」「う~んとね、その子は左右目の色が違っていて、右目が碧みがかった黒で、左目が真っ赤なんだ!」「へぇ、そうか。」 俊匡の脳裏に、電車の中で話した少年の姿が浮かんだ。「碧、そろそろ寝なさい。」「あと五分だけ練習してもいい?」「運動会でやるダンスの練習か?」 有匡が水を飲みに、一階のリビングに入ると、そこには液晶テレビの前で、ダンスの練習をしている碧の姿があった。 その曲は、昔大ヒットしたアニメの主題歌だった。「お祖父様、絶対に見に来てね!」「あぁ、絶対に行くよ。おやすみ、碧。」「おやすみ、お祖父様。」 皆が寝静まった土御門邸を、一人の記者が遠くから眺めていた。「Jolly good show,My boy!」 運動会当日、クラス対抗リレーで碧が一位を獲った時、有仁はそう叫び、周囲からひかれていた。「父上、はしゃぎ過ぎです。」「いやぁ~、うちのひ孫格好良い!」 保護者用の観客席ではしゃぐ有仁に有匡が少し呆れていると、そこへ一人の記者がやって来た。「失礼します。土御門有仁さんと、有匡さんでいらっしゃいますね?わたくし、こういう者です。」“週刊ルビー、聞いた事がない雑誌だな。”“どうせ三流のゴシップ誌でしょう。家族と過ごす時間を邪魔するとは、不躾な輩ですね。”「え・・あの・・」 フランス語で突然話し始めた有仁と有匡に面食らった記者は、そのまま警備員によって学院の外から摘まみ出された。「キャ~、碧、こっち見て~!」 いつの間に用意したのか、有仁は自作のうちわを振り、さながらアイドルのコンサートのように歓声を上げていた。「お祖父様、見てくれた?」「うん、見てたよ~!」「父上、はしゃぎ過ぎですよ。恥ずかしいからやめて下さい。」「ひ孫の初めての運動会なんだから、はしゃいで当然だろ!有匡、大体お前は全てにおいて淡白過ぎるぞ!クールビューティーも程々にしないと・・」「昔わたしが対抗リレーで一位を獲った時、拍手で済ませたあなたが言うセリフですか?」「人は変わるもんなんだよ~!」 運動会の後、家族で銀座にあるステーキハウスで仁達が夕食を取っていると、そこへ文観達がやって来た。「おや皆さん、奇遇ですね。」「アリマサ、久しぶり~!」 そう叫んだ神官は有匡に抱きつこうとしたが、有匡に避けられた。「久しぶりに会ったのに、その反応酷くない!?」「相変わらずうるさい奴だな、お前は。」 そう言って溜息を吐いた有匡だったが、その顔が何処か嬉しそうに見えた事に、火月は気づいた。(先生、もしかして・・)「は?親戚付き合いをしたい?」「昔、妹さんとは“色々”とありましたけれど、今なら共通の話題があるし、先生にとっては血を分けた妹だし・・」「まぁ、確かにお前の言う通りかもしれん。」 有匡はそう言うと、火月の隣で横になった。「そういえば、最近ウチの周りをうろついている記者が居るから、もし話し掛けられても相手にするなよ。」「わかりました。」 数日後、有匡は仁と共にPTAの役員会に出席した。 そこには、文観の姿があった。「おや、また会いましたね、義兄さん。」「叔父さん、どうしてここに?」「どうしてって、この学校のPTAの役員になるからに決まっているからでしょう?」「え・・」 火月からああ言われても、どうしても有匡は文観を好きになれないでいた。にほんブログ村