・・・値下げ圧力に迎合したのか
原発の解体費用は引当金の「積立て」によって準備される仕組みである。この引当金を積み立てる速度は、発電量に比例させることとしている。ここまでは妥当だ。しかし、現行の「原子力発電施設解体引当金に関する省令」では、分母とする想定の総発電量の見積もりは、累計266,304時間の運転によって得られる発電量と規定されている。(同省令第1条第5項)この時間数は、1日24時間連続運転で正味30年(262,980時間)を超える。定期点検の休止期間を加えればさらに長くなる。その間、引当金の積立が完了しない。 しかも、総費用が賄えるだけの準備はできないようになっている。平成15年3月の附則によって「90%ルール」が設けられているのである。 累積発電電力量原子力発電施設解体引当金=総見積額×90%×―――――――――― 想定総発電電力量(週刊経営財務No.2942 p26) 電力会社としては、廃炉を実行すると、10%分の負担が一度に発生する。 他方、規定上の分母の基礎とされる運転時間の見積もりが延長されると、積立限度額が減少する。その結果、引当金を「取崩し」しなければならない。取崩しは任意には行えないものの、運転時間の規定を改正すれば、取崩しを図ることができる。値下げの原資にもなるだろう。新たな原発を稼働させると新たに引当金積立が必要になり、電気料金の引き上げが必要になるが、国際競争にさらされている輸出産業としては、いや、国内雇用の確保の観点からも、国内のエネルギー価格を引き下げて、負担を軽減したいという動機がある。 電力会社と政府は、その要求に押されて使用期間を延長してきたのかもしれない。 【関係法令】http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H01/H01F03801000030.html原子力発電施設解体引当金に関する省令第一条 この省令において使用する用語は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 (昭和三十二年法律第百六十六号)及び実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則 (昭和五十三年通商産業省令第七十七号)において使用する用語の例によるほか、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 「特定原子力発電施設」とは、次に掲げるものをいう。 イ 実用発電用原子炉に係る原子炉施設のうち、原子炉本体、核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設、原子炉冷却系統施設、計測制御系統施設、核燃料物質によって汚染された物の廃棄施設(容器に封入され、又は容器と一体的に固型化された廃棄物を保管するための施設を除く。)並びに原子炉格納施設ロ イに掲げる施設が設置される建物及びその附属設備(原子炉本体が設置される建物の基礎を除く。)ハ イに掲げる施設のほか、発電機その他の設備でロに掲げる建物内に設置されるもの二 「解体」とは、原子炉の運転の廃止の後に当該原子炉に係る特定原子力発電施設について行われる次に掲げるものをいう。 イ 核燃料物質による汚染の除去ロ 解体ハ 核燃料物質によって汚染された廃棄物を特定原子力発電施設を設置した工場又は事業所内で一時的に保管するための当該廃棄物の処理ニ 核燃料物質によって汚染された廃棄物の放射能濃度の測定及び評価ホ 核燃料物質によって汚染された廃棄物を埋設の方法により最終的に処分するための当該廃棄物の処理ヘ 廃棄物の運搬及び処分三 「対象電気事業者」とは、原子炉設置者である電気事業者をいう。 四 「累積発電電力量」とは、毎事業年度における特定原子力発電施設ごとの当該特定原子力発電施設の設置後初めて発電した日(以下「発電開始日」という。)から当該事業年度末までに発電した電力量をいう。 五 「想定総発電電力量」とは、特定原子力発電施設ごとの当該特定原子力発電施設に係る電気事業法第四十七条第一項 又は第二項 の認可に係る出力で二十六万六千三百四時間運転する場合に発電される電力量をいう。 六 「総見積額」とは、特定原子力発電施設ごとの解体に要する全費用の見積額をいう。 七 「積立限度額」とは、特定原子力発電施設ごとに、総見積額に累積発電電力量の想定総発電電力量に占める割合を乗じて計算した金額と、総見積額のいずれか少ない金額をいう。・・・第四条 対象電気事業者は、特定原子力発電施設ごとに、解体に要する費用の額を支出した毎事業年度において、前条第一項の規定により積み立てられた原子力発電施設解体引当金の前事業年度末の残高(当該事業年度において同条第一項の原子力発電施設解体引当金の積立てを行った場合にあっては、前事業年度末の残高に当該事業年度に積立てを行った金額を加えたもの。以下この項において同じ。)から、当該事業年度において支出した金額(前事業年度末の残高を超える場合にあっては、当該残高)に相当する金額を取り崩さなければならない。 2 対象電気事業者は、解体が完了した日の属する事業年度の年度末において、前条第一項の規定により積み立てられた当該解体を行った特定原子力発電施設に係る原子力発電施設解体引当金について、前項の規定による取崩しを行った後になお残高がある場合は、当該残高の全額を取り崩さなければならない。 3 対象電気事業者は、毎事業年度において、特定原子力発電施設ごとに、前条第一項の規定により積み立てられた原子力発電施設解体引当金の前事業年度末の残高が当該事業年度の積立限度額を超える場合には、当該残高から当該超える金額を取り崩さなければならない。 4 対象電気事業者は、前条第一項の規定により積み立てられた原子力発電施設解体引当金について、前三項の規定により取り崩す場合を除き、当該引当金を取り崩してはならない。 ・・・附 則 (平成一五年三月三一日経済産業省令第四五号) 1 この省令は、平成十五年四月一日から施行し、この省令による改正後の原子力発電施設解体引当金に関する省令(以下「新省令」という。)の規定は、この省令の施行の日の属する事業年度(以下「改正事業年度」という。)から適用する。 2 改正事業年度の直前の事業年度末においてこの省令による改正前の原子力発電施設解体引当金に関する省令(以下「旧省令」という。)第三条第一項の規定により積み立てられた原子力発電施設解体引当金を有する対象電気事業者について、新省令第一条第七号の規定による特定原子力発電施設ごとの積立限度額が改正事業年度の直前の事業年度における旧省令第一条第七号の規定による特定原子力発電施設ごとの積立限度額を下回ることとなる場合における当該特定原子力発電施設に係る想定総発電電力量は、新省令第一条第五号の規定にかかわらず、当該事業年度において算定した総見積額に当該事業年度における累積発電電力量を乗じて計算した数値に百分の九十を乗じ、これを当該事業年度の直前の事業年度における積立限度額で除した数値とする。 3 前項に規定する場合において、新省令第一条第七号に規定する特定原子力発電施設ごとの積立限度額の算定に際しては、前項の規定により算出された数値を同号の想定総発電電力量とみなす。