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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第五話 工学書転じて実用書に 

第五話 工学書転じて実用書に




行政改革前夜

特に土木は親方日の丸です。

官庁の発注工事がほとんどです。

それまではお役所回りをして、工事誌などを請け負うだけでいい稼ぎでした。

詳しくは書けませんが、官庁の推薦文一枚で売上げは十倍にもなります。


あるとき国鉄の内部資料を本にしたことがあります。

工事指針解説です。

本が出来上がる寸前になって著者を誰にするかという話題になりました。

「○○総裁の息子さんがいいんじゃない。そろそろ著作ぐらいもたせないと」


それまで私は、著者ってのは書いた人と思っていました。

「売れるよー。業者は争って買うよ。登録業者には俺がすべて連絡しとくよ」

確かに売れました。

信じられないぐらい。

注文のない業者には「おたく、もううちの仕事は止めるの?」と電話が入ります。


ちょうど引越しの最中なので段ボール箱5個分なんて注文までありました。

本の注文を冊数でなくてダンボール箱の数で受けたのはこのときぐらいです。

調子のいい私は、ちょっとやり過ぎだとは思いながらも流れに乗っていました。



行政改革の波

そのような土木や建築の工学書や資格試験の受験参考書を作っていた頃です。

土光さんという経団連の会長が中心となって行政改革が進められました。

国鉄の民営化をはじめ、さまざまなうねりが出版社にも影響を及ぼしました。

仕事は半減なんてものではありません。

壊滅状態です。

年商は大幅ダウンです。


私は他人事で「当り前だよ。今までがおかしかったんだ」とうそぶいていました。

でもそればかりも言っておれません。

次の仕事を作らないと。


そこで実用書です。

今までの編集技術の応用です。

さまざま提案しました。

どうせなら楽しいもののほうがいいだろうと趣味の本に走りました。


自分の欲しい本の企画書を書くのですから、こんなに楽なことはありません。

私の課は、資格試験の受験参考書と趣味の本の編集部になってしまいました。

釣りをやってみたいなと思えば釣りの本です。

やりたい放題です。

企画調査名目で遊び歩きました。

常務を巻き込んで温泉巡りもしました。



印税が払えない

そこそこの著者を見つけるものですから、売上げも伸びてきました。

ところが印税支払いが追いつかないのです。

どんどん貯まり始めました。


官庁や大学の先生たちは印税が遅れても、まずクレームを付けてきません。

本を出すことで学者としての箔がついたり出世できるのです。

「いやー、出してもらったことだけで十分だよ」と言ってくれます。

ところが趣味の本は、著作を唯一の収入源にしている人も少なくありません。


電話が架かってきます。

「どうなってんの? 払って下さいよ」

経理に言ってくれ、会社に言ってくれと言っても当然納得しません。

「ボクはキミから頼まれたから書いたんだよ」と言われてしまいます。


そのような著者と会社の板ばさみ状態が続いていたときのことです。

志賀高原にスキーに行きました。

ご招待を受けたのです。

私が始めた出版スキー祭典の10周年記念のイベントでした。



毎月「第一回」をやろうよ

話がまた40年近く前に遡ります。

出版の青年組織の議長をやっていた時です。

労働組合の暗い雰囲気に反発していました。

「楽しいことやろうよ。そのための組織だろ」

これが私の口ぐせでした。

「歴史は今から始まるんだよ」

なんて調子に乗って言っていました。


「第一回スケート祭典」「第一回歌声祭典」「第一回キャンプ祭典」……。

「第一回」と銘打って次々とイベントを仕掛けました。

「ゴルフ祭典」も企画したのですが、「お前、何考えてんだ」でポシャンです。

「スキー祭典」も「けが人が出たらどうする」など中執会議で激論でした。

「死人が出たら、あんた責任が取れるか」とまで言われました。

確かにその頃は、まだスキーはブルジュアの遊びと見られていたのです。

労働組合とは関係のないものと思われていたのです。


押し切りました。

それもスキー場を貸し切ってしまったのです。



将来の独立のきっかけになるなんて思ってもいなかった

竜王小丸山スキー場。

小さなスキー場です。

丸ごと借りてしまったのです。

夜行バスを何台も仕立てて乗り込みました。


こんなイベントは前代未聞です。

町長さんまで挨拶に見えられました。

リフトだって貸切です。

初心者が多かったのでスキー教室は満員です。


当時はナイター設備はありません。

それでも夜もリフトを動かしました。

リフト乗り場にたいまつをワンサカ用意しました。

そこそこ滑れる人はたいまつを持って滑走です。

滑れない人はふもとのロッジからお酒を呑みながらの見学です。

ご近所の農家で杵と臼を借りてきて、餅つき大会もやりました。


あとで、スキー場が監督官庁から厳重注意を受けたと聞きました。

夜中にリフトを動かしたことがばれてしまったのです。

このようなイベント(事件かな)をやった十年後のことです。



第六話 なぜかスキー書


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