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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

カメのなる木

カメのなる木

カメのなる木、みんなは知っているでしょうか?遠い遠い東の国にその木はあるそうです。それは、とても大きな木でリンゴの実のようにカメがなるそうです・・・・・・

あれは暖かくほがらかな春の事でした。僕が小さな丘のてっぺんで、ぼーっと空に散らかっている雲を眺めていると、一つ先の丘の方から僕の方へ、カメがトコトコ歩いてくるのが見えました。

「どうしてこんな所にカメが歩いているんだろう?」

不思議に思って見ていると、カメはどんどん近付いて僕の目の前まで来て止まりました。

「カメさんどこ行くの?」

〈・・・〉

「どこから来たの?」

〈・・・〉

いくら声をかけてもカメはじっと僕を見るばかりで何も言わず動こうともしません。

「ここを通りたいのかな・・・」
  
そうつぶやいて僕が道を開けると、カメはゆっくり僕が立っていた場所、すなわち丘のてっぺんまで進んで再び止まりました。

「なんだ、てっぺんに来たかったんだね」

〈・・・〉

するとカメは突然、その場で穴を掘り出しました。

「どうしたの?穴なんか掘って?これからもっと暖かくなるっていうのに・・・」
     
カメは冬眠するってママから教えてもらっていたけれど、今はもう暖かい季節なので少し心配になりました。

「カメさん、どうして今頃から土の中にもぐちゃうの?」

〈・・・〉

またいくら言っても答えず、カメは夢中で穴を掘り続けてとうとうすっぽりと埋まってしまいました。

「あぁあ、おっちょこちょいなんだから・・・」

それから僕は家に帰ってママに今日の事を話しました。すると、

「あら、変わったカメさんね、そんな不思議な事なら裏のおばぁちゃんに聞いてみれば?」

と、言いました。

裏のおばぁちゃんとは町一番の長老で、みんなからは魔女じゃないかとうわさがある少し謎めいたおばぁちゃんで、みんなからは怖がれていました。でも僕は小さな頃から遊んでもらっていたのでおばぁちゃんの事は怖いどころか大好きでした。だから僕はまよわずおばぁちゃんの家に行き、カメの事を聞きました。するとおばぁちゃんはこう言いました。

「そのカメはきっとタネだね、明日もまたその丘に行ってごらん」

と・・・僕はおばぁちゃんの言った不思議な事がまったく分からなかったけど次の日も気になって丘に行ってみました。すると驚いた事に カメがもぐった丘のてっぺんには大きな木の芽が生えていました。

「本当にタネだったんだ!おばぁちゃんの言った事は本当だったんだ!」

びっくりしたけど嬉しくて、すぐさまておばぁちゃんの所に行って話しました。
すると、おばぁちゃんはこう言いました。

「ほらっ言ったとおりだったろ?坊やは選ばれたんだね、だから水をあげてやらないとね」

そう言って僕にジョーロを貸してくれました。
僕は言われたとおりジョーロに水をいっぱいにくんで丘に戻って、

「早く大きくなーれ」

と、木の芽に水をかけてあげました。
        
すると芽は風も無いのにゆらゆらと嬉しそうに横に揺れました。僕は嬉しくなって、

「じゃあ、また明日も来るね」

と手をふって帰えりました。
そうして僕が次の日もジョーロに水をくんで丘に向うと芽は僕のおへそぐらいの高さの木になっていました。僕はまた嬉しくなって、

「すごい木になった!もっともっと大きくなーれ」

と、水をかけてあげました。すると木はざわざわと葉を揺らして喜びました。
そしてまた次の日、木は僕の背を越えていました。

「もっともっと、もっと大きくなーれ」

僕が水をかけてあげると木は枝をゆららと揺らして喜びました。



そうして次の日はパパよりも大きくなり、また次の日は家の屋根と同じぐらいの高さにも育って、それからはぴったりと成長をやめました。そしてちょうどカメがもぐってから10日たった日、木は真っ白で小さな花を枝いっぱいに咲かせました。

「わぁ、すごくキレイだね、それに甘くていいにおい・・・」

僕は嬉しくて家に戻ってママを丘に連れて行きました。

「ねっ、すごくキレイでしょ?」

でもママには花どころか木も見えないようでした。

「ママは忙しいんだから悪ふざけはやめなさい」

と、いくら言っても相手にしてくれませんでした。

次の日、仕方なく僕はまた一人で丘にむかいました。すると、花はもうなくなっていて、かわりに何やら茶色い実のようなものが沢山なっていました。

「なんだろう?」

と、近付いてみると、驚いた事に顔や手をひっこめたカメがまるでリンゴの実のようになっていました。

「・・・カメが木になっている?・・・」

僕はそれが信じられなくて、夢じゃないかとほっぺをつねってみました。でも、夢ではありませんでした。

「1匹・2匹・3匹・・・・10匹・11匹・12匹!」

12匹ものカメがぶら下がっていました。

「顔を隠していないで出ておいで!」

僕がそう大きな声で言うと、カメ達はいっせいにゆらっと、揺れたかと思うと、いっせいに可愛い顔や手足を出しました。

「わっ!本当に本物のカメだったんだね」

〈・・・〉

しばらく僕は木にぶら下がったカメ達のようすを見ていました。カメ達は風に揺られながら何だか楽しそうです。

そして、お昼になろうという頃、突然木がざわついかと思ったらカメ達がポトン、ポトンと木から落ちて来ました。

「どうするのかな・・・」

と、ようすを見ていると、カメ達は町の方にゆっくり歩き出しました。僕はあわててカメ達の前に行き、

「ダメだよこっちは人が沢山いて捕まっちゃうよ!それに君達がまたタネだとしたら町には木が育つだけの土がないもの」

そう言って止めようとしました。けれどカメ達はいっこうに止まろうとしません。1ずつ方向を変えてあげてもまたどうしても町の方へ向かおうとします。僕はどうしたらいいのか分からなくなって、裏のおばぁちゃんのところに走って行き、そうだんしました。するとおばぁちゃんは、

「あわてなくても大丈夫だよ、きっとそのカメ達はお腹がすいているんだよ」

と、微笑みました。

「お腹が?・・・あのカメ達はいったい何を食べるの?」

と、聞き返すと

「あのカメ達は人々の(忙しい)を食べてくれるんだよ」

と、また不思議な事を言いました。

「忙しい?・・・(忙しい)ってママやパパや大人達がいつも言っていること?」

「そうだよ、その(忙しい)だよ」

「・・・それで?その(忙しい)を食べちゃったらどうなってしまうの?」

「ただ、みんなが忙しくなくなって、のんびりとした気持ちになるだけだよ、だからカメ達の事はほっといてやりなさい」

「うん!」

そうして丘に戻ってみると、もう木もカメ達の姿もなくなっていました・・・。
でも毎年、この季節になると1匹のカメが丘にやって来て同じように土をほってもぐり、 芽が出て、木になって、花を咲かせて沢山のカメを実らすようになりました。

もし、あなたの忙しさが急に忙しくなくなったり、のんびりとした気持ちになったら、それは木になる不思議なカメのしわざかもしれません。

                                おわり。


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