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カテゴリ:lovesick
楓とのメールを終えて、俺は携帯をバッグに戻した。確か実家って長い間帰ってないって聞いてたけど、どういう心境の変化だろう?なんにしても、楓はどんどん変わろうとしているみたいだ。俺もがんばらなくちゃな。楓が前を向いたときに、別の男に取られちゃったら、全く意味ないもんな。でも、一体どのくらい帰ってこないのかなあ?確か、来週は俺も、地方に行く仕事があったような。スケジュール確認しようか、とまた電話を出しかけたときに、声がかかった。
「悠斗さん」 振り返ると、大橋凌くんだった。今回のエピソードのゲストである。確か瑞希と同じ学年のはずだから、まだ15、6歳だったかなあ。デビューからずっと飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びてきた某アイドルグループに属していて、とても人気のある子だ。前に一度、何かの取材で一緒になったことがあり面識があった。今回彼は探偵(好司である)側の協力人物だったため、撮影シーンが重ならず、現場で名前を何回か見ただけで、今日のスタジオまで会うことなかった。確か、彼は今日で、オールアップの予定だったんじゃ。。もう、私物らしいコートとバッグを持っているし、終わったのかな。 「ああ、凌くん。久しぶり。もう終わったの?」 「はい。お久しぶりです。すいません、なかなか挨拶できなくて」 「いいよ、そんなこと。お疲れ様。今日は探偵組は朝からだったの?」 「はい。」 「じゃあだいぶ延びたから疲れただろ?コーヒー飲む?」 俺は向かいのソファを勧めて、コーヒーを入れにたつ。 「うわあ、すいません。やりますやります。」 腰を浮かす凌くんに、 「いいよ、もう入ったから」 と座るように促して、前に置くと、 「ありがとうございます。」 と丁寧に頭を下げる。礼儀正しい。 「どうだった?撮影。好司とは結構、一緒だったの?」 「はい。随分、気を使っていただいて、申し訳なかったです」 「彼、ちょっと変わり者だけど、いい人だよ」 凌くんはコーヒーを飲みながら、 「そうですね。結構いろいろプライベートなこと聞かれました」 と屈託なく笑う。 「あはは、あいつ、ほんと詮索好きなんだよ」 「勘も鋭いから、ごまかせなくて」 「確かに」 「だけど、それ以上に、役に入ったときの迫力がすごかったです。俺、、もう、びっくりしちゃって」 「共演できるだけで、いい勉強になっただろ?」 「はい」 素直にうなずく凌くん。俺は一口コーヒーを飲む。凌くんは少し言いにくそうに、 「悠斗さん、実はお願いがあるんですけど」 「ん?なに?」 「わがまま言って、本当に本当に申し訳ないんですけど、できたら1枚サインもらえませんか?」 その慎重な言い方に、俺は思わず、吹き出した。 「いいよ。そんなことくらい。」 凌くんはほっとしたように、 「よかった~。ありがとうございます」 といいながら、バッグから色紙とペンを出し、俺に渡した。 「宛名は百合って、してもらえますか?花の名前と同じ字で、百合です。」 百合さんへ。俺はペンを走らせながら、 「例の遠距離恋愛の彼女?」 彼と前に会ったときに、地元に残してきた彼女が俺のファンだって言っていたのを思い出したのだ。 「そうなんです。この間、悠斗さんに会ったって自慢したら、なんでサインもらってくれなかったんだって、めちゃめちゃすねられちゃって」 「あはは。はい、どうぞ」 凌くんは、両手で受け取り、 「ありがとうございました。これで、やっと機嫌直してもらえますよ。なかなか会えないから、いつも機嫌とるのに時間かかっちゃって」 「そりゃ彼女も寂しいんだよ。俺なんかで仲直りできるならいつでも言って。彼女といるときに、電話してくれてもいいよ」 「まじっすか?うれしいな。百合絶対喜びますよ。ぜひぜひ、番号教えてください」 俺は携帯を出し、赤外線通信をした。 「凌くんも、時間あったらいつでも連絡してよ。飲みに、、は、まだ、行けないのか。おいしいもん食べにいこうよ」 「うわ、いいんですか?マジで連絡しますよ。俺、メンバーと事務所の子以外、まだあんまり友達できなくて。って、友達って失礼か、悠斗さんに」 「何でもいいよ。連絡待ってる」 「はい。ありがとうございます」 そこで、次の出番がきた俺をADさんが呼びに来てくれた。 「じゃあ、そろそろ失礼します」 「うん。気をつけて」 「はい。お先です。サイン、本当にありがとうございました。お疲れ様でした」 「お疲れ様」 溌剌と去っていく凌くんの後姿を見ながら、俺にもあんな頃があったよな~、なんてオヤジくさく考えいたら、もう一度ADさんに呼ばれてしまった。 「はいはい」 と返事をし、さて、もうひとがんばりするか、と俺は伸びをしながら、セットに入った。 ← 1日1クリックいただけると嬉しいです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.01.16 00:33:52
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