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「たった20歳の小娘にそこまで、惚れるなんて」
そう言った後、ひとしきり笑い終えた水野は、 「なあ、テツヤ、俺、これまで、お前の女遊び遍歴ぜーんぶ見てきただろ?・・・・ほんと~に数知れず」 そんなこと言う。好きな女の父親に、言われたい言葉ではないけれど、・・・事実だから、仕方ない。 「ああ」 素直に受けるしかない僕に、 「勘違いすんなよ、責めてるわけじゃない。それよりも、それがあるからこそ、ほんと、今度は、楽しみなんだよ。お前が本気で惚れた女をどんな風に大切にするのかがみれるんだからな。」 そういって水野は、最後に、 「・・・久しぶりに」 と続ける。 僕が、曖昧に笑って、ごまかすと、水野も曖昧に微笑んで、バッグからスケジュールを取り出して、確認を始める。それに適当に受け答えしながら、僕は考えていた。 『久しぶりに』 そう水野は知っている。僕に、かつて本気で惚れた女がいたことを。その顛末の全てを。 でも、水野は知らない。僕が、さっき弱気になっていた原因が、その過去であることを。 なんでだろう。 ココのところ、ずっと、もう20年以上も前のその恋人のことが頭から離れない。 頭から離れないだけでなく、時折、客席にその幻影のようなものを見たりすることがある。 カーテンコールの客席に彼女を見つけた日から。 そう、今日だって。 一体どうなってるんだ、僕は。 ココロは、蒼夜に出会ったあの日から、全部蒼夜のものだと思えるのに。 胸を張って、蒼夜だけを愛していると誓えるのに。 そう、そして、二度と、彼女には、会えるはずがないと思っているのに。 一方的に別れを告げられてから、もう、20年以上も経っているのだから。 ぼんやりとそんなこと考えていると、水野が、 「・・・以上だ。明日もよろしく」 明日のスケジュールの確認を終えたようだ。 「了解」 そう返事をしてから、身支度を済ませて、一緒に駐車場に向かう。廊下を歩きながら水野は、 「・・・じゃあ、今夜は、蒼夜はそっちに泊まるんだな?」 「ああ、大学の飲み会が終わったら来るって言ってたよ。」 僕はポケットに入れた蒼夜のケータイを思い、 「・・・ケータイを忘れてったのが気になるけど」 「ったく、意外に、忘れ物が多いんだよな、蒼夜は。いっつも出かけるときは、なんか忘れて家を出たり入ったり。」 「千夜譲りだな」 そういって笑うと、水野は、 「千夜はもうあきらめて、俺にとっくに全部させてるからなぁ」 ナサケナイ声でぼやく水野に、 「そうなったらおしまいだな。・・・僕も気をつけよう」 そんなこと話してるうちに、駐車場につく。 「じゃあな。蒼夜のこと頼むよ」 そういって、軽く手を上げて、去っていく水野。 親友の背中を見送りながら、僕は思う。 ・・・きっと本当は心配なんだよな。父親としては相手がどんなオトコでも。たとえ知り尽くしている僕でも。 それでも、僕に、『頼むよ』の言葉をくれた水野の気持ちにこたえるためにも、僕は。 ユウコの面影を追う僕をなんとかしなくては。 ・・・でも、どうすれば・・・。 そんなこと考えながら、僕も、歩き出そうとした時、右手の非常階段に通じるドアが開く音がした。 何気なく目を向けて、僕は、息をのんだ。 ←2コクリでよろしくお願いします。いつもありがとうございます。 初めての方へ・目次内に項目追加しました。 今日のゆる日記の方は、こちらです。バカップルにご注意ください ふぉろみー? lovesick+も、がんばって更新中。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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