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2011.01.20
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カテゴリ:box
胸にしがみつく美莉を乗せたまま、俺は、ゆっくりと深呼吸した。大きく息を吸い込んで、それが間違えてもタメイキに聞こえないように、ゆっくりゆっくり吐き出して、そして、美莉に声をかけた。

「美莉・・」

美莉は、返事をしない。ただ、返事の代わりに、しがみつく手を少し緩めて、聞き耳を立てるように、少しだけ、頭を動かした。俺は、今度は、鼻だけでためいきをついてから、美莉の脇に手を入れて、抱き起こした。

「ほら、顔見せろよ。」

カラダを抱き起こしてやると、美莉はゆっくりと顔をあげ、少し唇を尖らせたまま、俺を見る。暗く揺れる瞳。頬の涙の後に絡みつく髪。静かに指を伸ばし、今も頬に光る涙をぬぐいながら、頬から髪をはずしてやる。尖ったまま何か言いたげに、震える唇。でも、もう、全部吐き出したから、動くことはない唇。俺は、さっきのお返しに、そっと、唇に指を滑らせながら、言う。しっかりと、目を見据えて。

「美莉、愛してるよ」

愛おしさのすべてを瞳と声にこめて。迷宮にいる美莉にその光が届くように。

自分自身の中にある迷宮にすぐに迷い込んでしまう美莉。自分の居場所を知らせるために発する言葉に、自分自身で傷ついて。だけど、美莉、その言葉が発せられてるうちは、俺、ちゃんと見つけられるよ。美莉の居場所。しっかりその場所の美莉に、こうして光を与えるよ。美莉を見つけて、傷を癒して、あったかい毛布でくるんでやるんだ。

「愛してるんだ、美莉のこと」

もう一度、ゆっくりと繰り返した言葉に、美莉の瞳は、また、潤み始める。俺は美莉を抱いたまま、起き上がり、耳元で、もう一度ささやく。

「愛してる」

ゆるく開いた唇から小さく息を吐いて、美莉は、目を閉じた。涙が頬に線を引く。俺は、その涙を唇ですくってから、美莉の唇に自分の唇を重ねた。優しく。

ただ、愛情を伝えるために。

美莉に愛情を伝えたい。今、俺はその他に何も望まない。快楽も欲もすべて追い出して、自分の中の美莉への愛情だけを、ただ、美莉を想う、美莉に恋焦がれる想いだけを取り出して、すべてを唇に乗せて美莉に流し込む。だから、そう、美莉を腕の中に、いや、自分の上に乗せ、その体温を感じ、さっきから、随分固くなっていたのですら、ゆっくりと緩んでいく。そう、熱いキスをくれながら、火照りはじめていた美莉のカラダだって、ゆっくりと力が抜けて、俺にゆだねられていく。

たっぷりの愛情を注ぎ込み、ゆっくりと唇を離した俺を、美莉は、何かを求めるように、すがるような目で見つめた。俺はその目をしっかりと受け止めて言う。

「壊れたりしないよ、俺たちは」

うなずく代わりに目を閉じた美莉は、そのまま、もう一度俺の胸に頬をつけた。

「他の誰か、なんて、ありえないよ」

ありえないんだよ、美莉。だって。

「俺に、愛してる女を抱くことの気持ちよさを教えてくれたのは美莉なんだぞ。」

俺は美莉の頭に頬をつけ、美莉を初めて抱いた日のことを思い出す。兄貴が死んでから2年間の添い寝。悩んで悩んで悩みぬいて、それでも、俺を選んでくれた美莉を、ありえないくらい緊張して初めて抱いたときのこと。

美莉だって震えていたけれど、俺だって緊張で震えてた。それまで、何人抱いたって、相手のことなんて考えたこともなかった俺が、美莉を気持ちよくさせられてるか、そればっか考えて、うまく前に進めなかったっけ。

それでも。

それでも、美莉を気持ちよくさせることばかり考えていたはずの俺なのに、ソの瞬間に襲われた快感は、それまでヤってきた経験すべてを覆すものだった。

・・・キモチヨスギ。

美莉にしがみついたまま、頭真っ白になったんだよな。そして、目を開ければ、目の前には、上気した美莉の頬のピンク。目を閉じたまま、頭真っ白になってる美莉。

・・・オナジカイカン。

共有したんだ。その思いが、なおいっそう、美莉をいとおしく思わせて、俺は、美莉をしっかりと抱き寄せたんだ。

そして。

あの日のこと、思い出すまでもなく、今だって、いつだって、美莉を抱くたびに、その快感と、共感を積み重ねてきた。

愛してる、愛してくれてる相手との愛を確かめ合う時間。

そう。

あの日から、確かに、俺、美莉が俺のこと受け入れてくれたあの日から、ずっとずっと、時間さえあれば美莉を抱いてきた。ていうか、仕事が忙しくなって時間がなくたって、できる限り、、ああ、時間があまりないからこそ抱いてきた。だって、こういうとあれだけど、手っ取り早かったから。美莉を隅々まで可愛がって深く深く美莉の中に入って、愛情の上にある気持ちよさを感じるだけで、その思いを共有するだけで、美莉を安心させて、熟睡させることができてたから。

・・・手、抜きすぎてたかも。や、確かにその気持ちよさにも、とらわれすぎてたかも。

だけど、これからは。

俺は、美莉にそっと尋ねる。

「・・・俺の愛情、伝わったろ?」

さっきのキスで。表面上は限りなくやさしい、でも、俺の愛情の全てをかけた渾身のキスで。美莉は、ゆっくりと顔をあげて、俺を見た。その瞳に光を、そして、俺への愛情を見つけて、ほっとした俺は続ける。

「・・・美莉、見つけていけるよ、スる以外の、愛を確かめる方法なんて。だって」

そう、だって。俺はミリをもう一度抱き寄せて言う。

「間違いなく、愛はここにあんだから。」

はじめて確かめ合ったあの日から何も変わらない愛が確かにここにあるんだから。

「・・・分かるだろ?美莉」

静かに問いかけた俺の言葉。

胸の中で美莉は、微かに、でも、確実に、肯いた。


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最終更新日  2011.01.21 02:30:50
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