『奇跡』
昨日本が届いてようやくお世話になった人達への献本書面作成とか販促物制作とかであいからわず忙しいです。とりあえず、編集も装幀も入稿も校正も、印刷も製本も搬入も、本が届いても、まだ終わりじゃなかったんですね。本が届いたとき、正直もう終わりなのかな?と思っていたんだけど、そうじゃなかった。すごーく楽しいです。本をちゃんと完成させられるか、出版出来るか不安で仕方がなくてプレッシャーで結構自分を追い詰めていたんだけど、今はそのプレッシャーに解放されたせいか、本当に楽しいと思うことが出来ます。ああ本を出すってこんなに楽しくて素晴らしいことなのかなと思った。まだこれからなんですよね。嘯いて聞こえるかもしれないけど、本当にそう思うんです。なんでだろう。この出版の意義というかね、私が言うことじゃないんだけど、『神様がくれた背番号』って本当に不思議な作品です。もちろん完全百パーセント松浦さんのオリジナルの手で出来上がった作品なのだけど、ブログファンの方達がいなければこんなに素晴らしい作品は絶対に生まれてこなかったと思うし、作家でごはん!というサイトがなければ松浦さんの作品と出会うことがなかったし、そして私が出版業をしてみたいと思わなければこうなることはなかったし、アニカさんのお二人と出会わなければ、本当に出版業を始めることはなかった。商業流通は無理で、同人誌のようになっていた可能性だって十分にあったわけです。もちろん、今述べた以外にも様々な人の働きが当然ありました。また作中の人物が現実に及ぼした影響だってきっとあったはずで、前にも言ったように私はケンちゃんの後ろ姿に魅せられて、またそれ以外の様々な魅力的なキャラクターに応援された気になって、私はなんとか出版まで漕ぎ告げたわけです。『神様がくれた背番号』って、きっと物語と現実の境目がなくなった初めての作品なんじゃないかな。文芸のお詳しい方ならきっとご了解いただけると思うんですが、こんな作品が今まで存在したことがあったでしょうか。作品の質をはかる材料として、作者の才能とか技能とか、テーマとか問われることが一般的ですけど、本当にそれとは無縁の作品だと思うんです。松浦さんはそれ以前には全くと言っていいほど小説を書いてこなかったそうです。 私は今なら確信を持って松浦さんは近いうちに作家として大成されるはずだと思っていますし、それが次の私の役目だと思っていますけど、でも、この作品の連載時に、こういう風に出版されると想像し得た人はいなかったと思うんです。 出版出来なかった可能性の方が高かった。この作品は、様々な人の思いが結集して出来上がった作品なのだと心からそう思うのです。 そして私はこれを『奇跡』と言わせていただきたいのです。 ※以下『神様がくれた背番号』の序章を掲載しました。(問題がありましたら、後ほど削除します) 二〇XX年一〇月人間の及ぶことと及ばないこと、そして奇跡 真面目にコツコツ生きている人がいる。 嘘をつかず、身の丈にあった暮らしをし、贅沢を望まず、人を羨むこともない。朝に目を覚まし、夕暮れとともに住処に戻り、布団に潜って目を閉じる。晴れの日は仕事に精を出し、雨の日は一人静かに時間を過ごす。そのような生き方が必ずしも幸せと言えないのが人間という生き物の難しいところだ。 上手く嘘をついて如才なく立ち振る舞い、時には人を傷つけながら大金を手にし、豪邸に住んで高級車を乗り回している人の方が、いわゆる一般的な幸せというものを享受していると言え、多くの人から羨望の眼差しで見られるのである。 片や、真面目にコツコツ生きている人たちが恵まれない暮らしをしていると、これはたちまち、羨望ではなく同情を浴びることとなる。「神さんも仏さんも、あったもんじゃない」 同情とともに語られるのが、この言葉。仏様は仏教に限られた存在だからさておくとして、問題は神様である。地球上のほとんどの地域で、形こそ違えど神様と呼ばれる存在があり、民族、言語、宗教を超えて普遍的である。「天網恢々疎にして漏らさず」という言葉があるが、本当に神様というものが存在するのであれば、何故、前述のような真面目に生きている人間に幸福を享受させないのであろう。 実は神様とて辛いのだ。 影があって初めて光が生まれる。世界中が燦燦たる光に溢れていれば、誰もその有り難味を感じないであろうし、第一、眩しくってしょうがない。 雨の日があるからこそ、晴れの日を人は歓ぶ。晴天だけで全てのものが恵まれてしまうなら誰一人、空を見上げたりしないだろうし、その青さに気づくこともない。若い女性は日焼け対策に追われて太陽を恨むことだろう。 幸福とはつまり、そのようなものなのである。報われないことがあるからこそ、報われた時の喜びは大きいし、報われようと真面目に生きる人が多くなればなるほど、この世はとかく上手く行くことの方が多い。 神様は正しく生きることの意味を問う。人の心が不条理に流されてしまわないように、正しく生きることの価値を見せる。正しく生きるとも報われなかった人間に、時に信じられない幸福を与え、それを目にした人々に勇気を与える。 人はそれを「奇跡」と呼ぶ。Amazon 楽天 セブンアンドワイ でご購入いただけます。