曹操閣下の食卓

閣下に｢オムはドビイ･ソースかけなんだらお子様ランチになる｣と教えてくれたのは下鴨のグリル･オーツカの店主だったが、この店は今はない。

店主の言い分では、
「ケチャップなんぞオムにかける店は手間かけたドビイ･ソースがない店でん。それはホンマの洋食店ではあらしまへんで｣というのである。

そりゃそうだ。
浅草のヨシカミ、根岸の香味屋、銀座の煉瓦亭、東京の老舗洋食屋はみな自慢のドミグラを持っている。
でもドミグラをオムライスにかける習慣は、やはり京都発なのだろう。

東京だと、ドミグラより一歩進んだオムハヤシの文化があるからだ。
ドミグラとオムライスは合う場合もあるし、合わない場合もある。

オムライスの中味が酸味のあるケチャップ味のチキンライスだと、甘いドミグラ･ソースとのかけ合わせはうまくない。
両方の味を殺してしまうからだ。

ところが京都のオムライスの中味は実は中華風のハムライスやひき肉チャーハンだったりする。
ここに、ふわふわのオムレツ卵がのり、上にドビイ･ソースがかかると、なるほど絶妙なのだ。
京都のドビイ･オムは、まさにオリジナル･レシピだった。

ところがグリル小宝は、中味はケチャップライス、上に濃厚なドビイをかけるので、昔風の京都ドビイ･オムではない。
いつのまにか京都オリジナルの｢ハムライスとドビイソースのオムライス｣は絶滅してしまっていたのだ。

四条富小路のボントンの閉店が痛かったな。

問題はオムライスの中味がケチャップライス一色になってしまったことだ。
これは憂えるべきことじゃないかな。
｢昔ながらの京風オム｣といって、ドビイ･オムを出してくれないか。

京都市役所の隣り、グリル･アローンは洗面器みたいなオムライスに、ケチャップとリンゴを混ぜた甘いソースをかけている。
実は「洗面器オムライス｣は西早稲田の居酒屋のメニューなのだ。

四条祇園の高台寺道にあるグリル冨士屋は｢ケチャップを手づくり｣しているのが自慢だ。
それぞれに独自のソースでオムライスを守っているわけだ。

でも、本筋はドビイ･オムだろう。ちゃんと見直して京都名物にしてほしい。

曹操閣下が勝手に提案する京風オムライスとは

1. 中味は牛荒挽肉とベシャメルの塩バターライス

2. ソースは濃厚なドビイ　

3. オムレツは半熟のまま上にのせるだけ

これなんだよ。
何でやってないの京都で。
　
與多呂北店（よたろきたみせ）は大宮にある洋食店だが、オムライスは隠しメニューで、客に中味はハムライスかケチャップか、上にかけるのはドビイかケチャップか、一つ一つ聞いてくれるという。

今度、試してみたい。