おいでやす。郡山ハルジ ウェブサイト。

…で、おとといの日記からの続きなのだが、オイラの血縁者としてはたぶん歴代最高の学力を持つと思われる少年が東京に住んでいる。都内の私立で英語教師をしている従兄弟の息子なのだが、彼は某難関私大付属中学に次席で入学し主席で卒業したという大変な学力の持ち主で、現在高校3年生で当然第1志望は東大である。

ひさびさの日本出張にこの従兄弟の家を訪問し1年半ぶりにこの少年と再会したところ、彼はここに来て学年トップから２ケタ台に落ちてやや自信を無くしているらしい。難関私大付属高校であれば客観的にいって３番も13番もたいして差はないのだろうが、本人にとっては深刻なのだろう。

たしかにこれまでずっとトップを走り続けて来た人間にとって、「つねにトップでいる」ことを期待されているその重圧というのは計り知れないものがあるに違いない。ましてや話は「田舎の中学の１番」ではなくて「都内の高校の１番」なのだ。

こんな優等生にオイラのようなドロップアウト野郎がまともなアドバイスなどできないのは承知の上で、オイラは彼にある話をして聞かせた。それは「東大法学部卒のミュージシャン」だった元同僚の話である。

この男についてはかつての日記でも触れたが、オイラの前の職場に「初の東大卒」として入社してきた当時30代後半の長髪野郎のことである。
彼は地方の高校生だった頃からミュージシャンを夢見ていたのだがあまりにも成績が良過ぎて(笑)教師や親族からの「当然東大」という期待に背けず東大に入学、秀才の常道として法学部に進み、卒業に際しては意を決して「国家公務員Ｉ種」をあえて受験せず自らの趣味が活かせる「東芝EMI」だの「ポニーキャニオン」だののレコード会社を受けるも「東大法学部」というのが却って疎ましがられて(笑)採用されず、結局「東大法学部卒のフリーター」として塾講師をしながら音楽活動を続けるもミュージシャンとしてはついに日の目を見ることなく、30代後半になった時点でミュージシャンの道を断念し我が社に応募し採用された…という特異な経歴の持ち主である。

オイラは従兄弟の息子に彼のこんな経歴のことを話した上で、彼が自分の経歴について「周囲の期待などに負けずにあのとき自分の道を進んでいればよかったと後悔している」と語っていたことを話した。
要するに、自分が本当にやりたいことを通して社会に貢献＆アピールできることが人間の生き甲斐になるのであって、「1番」だの「東大」だのいう刹那的な“名目”に惑わされたらあとできっと後悔する…というのがその教訓である。

考えてみると、オイラの実家の知人にも「東北大学工学部中退の百姓」というのがいた。農家の長男として生まれながら幼い頃から秀才としてその名を知られ、長じて東北大学工学部に入学したのだが、百姓の親が急死したのをきっかけにあっさりと「難関大学」を中退して家業の「農家」を継いだのである。彼は今でも学歴のことなどオクビにも出さずに「フツウの百姓」を営んでいるらしい。結局それが「自分らしい」道だったのだろう。

…不謹慎な親戚不良中年の発言とは言え、この「東大法学部卒のミュージシャン」の話は多少はこの従兄弟の息子の心に響いたようであった。

ただ、この従兄弟の息子の密かな夢というのが実は「ダンサー」とか「ミュージシャン」だったりして、オイラの話に触発されて高校を中退し「暗黒舞踏」だの「ビジュアル系バンド」だの始められた日にゃ、従兄弟に一生恨まれるであろうことは間違いない。しかしまあ、それが「彼らしい道」だったのならそれも仕方ないと諦めてもらうしかない。