午後9時
サマータイムの北緯45°付近では未だ日没の時刻
東に向かって走る自動車のフロントガラスの向こうは
雨上がりの雲で藍がまだらになった日暮れ時の空である
ふと、地平線から藍色の空に向かって紅い帯が延びているのに気づく
いつか北極圏で見たオーロラを思い起こさせる
が、よく見ると、帯は微妙な弧を描いている
虹である。
夕焼けの紅と日暮れの藍色にほかの色が溶け込み
七色のうち赤みだけが空に残ったらしい
禍々しいほど鮮やかな紅が藍色の空に映え
息絶えたかのように 中空でふと途切れている
七色の虹が幸福と平和の象徴であるとすれば
日暮れ時の紅い虹はさしずめ凶事の兆候であろうか
三島由紀夫が中学生の時に書いたとされる
『凶事(まがごと)』という詩の一節を思い出した
わたくしは夕な夕な
窓に立ち椿事を待った
凶変のだう悪な砂塵が
夜の虹のように町並みの
むこうから押し寄せてくるのを
紅い夜の虹の下の 住宅街の家並が
海の底に沈んだ特撮の模型のようだ、と思った
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