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カテゴリ:本・音楽・映画等
狙撃者1のシーンは、午前中から午後にかけて、同じセリフでカメラアングルだけ変えて3~4回撮影される。 その間、主演のミラ・ヨボヴィッチのカメリハが行われる。オレはミラを間近に見られるとあって、ワクワクしていた。タバコを吸うために頻繁にスタジオの外に出ていたクリスは、さっきトレーラーのそばでたまたまミラとすれ違って会話を交わしたと言って興奮している。オレは本気で嫉妬した(笑)。 ミラが来る前にまずスタントの代役でカメリハをする。 狙撃者のセットとは反対側のスタジオのコーナーにシートが敷かれ、たくさんの角度から照明が当てられる。その前にカメラとモニター、さらに大きな3Dモニターが置かれる。 黒いタイトなコスチュームを着たスタント代役のカレンがカメラの前に立つ。カレンはこのまま主演が務まりそうなくらい美人だと思う。専門は沖縄拳法だそうだが、スタントマンにしておくのは実に勿体ない。 30分くらいして、ミラがスタジオに入ってきた。…カッコイイ!カレンでも十分カッコいいと思ったが、カメラの前に立ったミラは、とてもこの世の存在とは思えないような、マンガの世界から飛び出してきたような超絶的なプロポーションをしている。これで3歳だか4歳の子持ちなのだ。たかがカメリハでも、カリスマのオーラをバンバンに放っている。 小道具のスタッフが出てきて、ミラの背中に2刀の日本刀(の模造品)をX型に装着する。そうだ、このシリーズ第4作目ではミラは忍者っぽい黒のコスチュームで、刀とか手裏剣とかいった武器を使って敵を倒すのだ(笑)。 監督の合図でミラは腕を背中に回して2刀の刀を抜き、左右対称にまるでバトンのようにクルクルと回してポーズをキメた。スゲーカッコイイ!次々とアクションをキメるミラに、ミラの夫でもある監督が「ビューティフル!」「グレイト!」「ラブリー!」を連発する。どのアクションもほとんど一発のテイクでOKだ。 ほんの15分やそこらで終わったカメリハの最後に、監督がミラの元に歩み寄り、両手で頭部を掴んでミラと比較的長いキスを交わした。ミラもうっとりした表情をしている。2人が夫婦であることを知らなかったら、かなりドキッとする情景だ。ダーリンとかハニーとか呼び合いながら、2人は名残惜しそうに別れた。…しかし羨ましいなあ(笑)。 ミラはこの後も何度か狙撃者のシーンの撮影現場に登場して、オレのような端役のシロウトにも笑顔で手を振ってくれた。ミラはかつてモデルをしていたその超絶的なルックスだけでなく、性格の良さと勤勉さでもこの業界で評価が高い。親がロシアとセルビアの移民で、パリにも長いこと住んでいたので、5ヶ国語くらいを話すらしい。ルックスも性格も頭もいいのだ(笑)。 午後もけっこう遅くなって、ようやくオレの「狙撃者その2」のシーンの撮影になった。もう1つのビルの屋上のセットは二階のバルコニーくらいの高さで、カメラ・アングルも2つくらいしか撮らないので、「狙撃者1」に比べて単純なセットだ。 クリスやプロダクションのネーちゃんが、いよいよアナタの出番だと、半分励ましのような、半分プレッシャーを掛けるようなことをチラチラと言ってくる。しかし、オーディションの時もそうだったが、オレは不思議とぜんぜん緊張しないのだ。小学校の学芸会でアガりまくってセリフを忘れた記憶がウソのようだ。 セットに登ると、クレーンの先に付いたカメラがオレの頭の高さに迫ってくる。照明がまぶしい。青っぽくて、月の光のようだ、と思う。 監督の指示に従い、極力身を低くしてライフルを構える。監督がオレの名前をちゃんと覚えてくれているのがちょっとだけウレシイ。オレはもとの台本ではマドンナを射殺することになっていたようなサディストなので、月光に冷笑を浮かべた表情でライフルのスコープを覗いている。標的確認。ナイスショットだな。…ふん、まだ宵の口だ。標的だってまだまだたくさん….と、ここまで喋って、ライフルだけが右に左に動くのが映った後、何者かに連れ去られる。ここでカット。 次に、数百メートル離れた狙撃者1のナイスショットに敬意を表するポーズを加えて、同じセリフで1テイク。 次に、カメラを狙撃者1に見立てて、ずっとカメラに顔を向けたままセリフを述べて、同じく1テイク。 次に、冷笑が行き過ぎたか、監督の指示で笑みを抑え気味にして1テイク。 さらにカメラアングルを変えて、2テイクくらい。 以上、ものの30分程度で狙撃者2のシーンの撮影終了。おそらくこれらのカットが映画に登場するのは全部で数秒に過ぎないのであろう。 姿勢を固定していたので背中に若干の汗をかいているが、強烈な照明を浴びた割りには頭部にはちっとも汗をかいていない。初めての映画撮影なので、カメラを前にして緊張するかと思ったが、ぜんぜんアガらなかったなあ…と思う。 両狙撃者のカットの撮影はこれですべて終了。カメラ・ディレクターが、一緒にいい仕事が出来た、云々とお愛想を言ってくれる。 スタジオを去る前に、プロダクションのスタッフに手渡されたタイムシートのようなものに終了時刻を書き込んでサインをする。...そうだ、これも一応労働だったのだ(笑)。たしか、昨日サインした契約書には、コスチューム合わせや撮影などの拘束時間1時間につき70数ドル、1日8時間以上の残業分は1時間110数ドルと書かれていた。今日は12時間近い拘束時間になったので、今日1日だけで10万円近くになるわけか? これに加えて、この出演契約に610数ドル、さらに印税に当たる報酬に出演料の130%に当たる800ドルくらいが支払われると配役会社から聞いた。こちとら、ほんのエキストラ気分で応募した仕事なだけに、こんな貴重な経験をさせていただいた上にこんなに報酬をいただけるなんて、なんだか申し訳ないっす。 クリスの話では、いちばん実入りのいいのがCMへの出演で、そのCMが1回放映されるたびに印税が入る仕組みなので、たった1日の撮影の後もそのCMが続く限り毎月何千ドルのチェックが入ってきたという。こりゃ、役者稼業に慣れてしまうと、マジメな堅気の仕事ができなくなったとしても、無理もない(笑)。 たった1日で終わってしまった映画俳優体験に、後ろ髪を引かれるような気持ちでスタジオを後にした。その後誰か出演予定だった日系人俳優に不都合が発生するなどしてまた撮影に呼ばれないだろうか…などと、今でも虫のいい期待をしているオレであった。 (いちおう終わり) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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