インドにおける労働力問題
・高い成長率を示すインド経済インドは、1991年に大規模な自由化を導入して以降、高い経済成長率を維持してきた。近年はやや成長率に陰りも見えるものの、例えば2005-2007年の3年間は、9%を上回る経済成長率を達成した。また、ここ20年間の平均成長率は6.7%で、最高が9.6%、最低でも4.0%となっている。・インドの経済成長の特徴インドの経済成長の特徴は、製造業のGDPに占める割合がほとんど変化していないことだ。1991年から2011年の分野別GDP成長率は以下のようになる。建設、商業、飲食業、運輸・通信、金融、ビジネスサービス等が成長を引っ張ってきたことがわかる。これは、主に国内市場の成長によるものだった。製造業は全体平均並の成長を遂げたに過ぎず、産業別GDP構成比も16%(1993年)→15%(2009年)とほとんど変化しなかった。もう一つの特徴は、農業が依然として圧倒的な産業別就業者構成を占めていることだ。農業の産業別GDP構成比は29%(1993年)→18%(2009年)と概ね4割減したにもかかわらず、産業別就業者構成では66%(1993年)→53%(2009年)と、いまだに大きな割合を占めている。つまり、インドでは農村の過剰労働力(半分失業状態にあるような人たち)が、日本のように製造業に吸収されることなく、農村に滞留したままとなっている。・製造業における労働力不足一方で、インドで工場をヒアリングすると、経営者からは「労働力が不足している」との声が多く聞かれる。製造業のGDPは年20年にわたり年平均約7%の成長を遂げた(単純な規模では20年で約4倍近くになっている)のに対し、労働者数は2倍にもなっていない。・なぜ製造業が労働力を吸収しないのか製造業に労働力が吸収されない理由は、まず資本集約的産業への産業構造のシフト(需要側からの理由)が考えられる。中間層が増加したことから、製造業が自動車等の資本集約的な産業にシフトしたことで、より資本集約的になったという可能性だ。もう一つの可能性は、労働市場のミスマッチ(供給側からの理由)だ。出稼ぎ等、都市への農村からの移動は実は結構ハードルが高い。都市に行ったら知り合いも少なくなるし、そもそも本当に職にありつけるかもわからない。都市に移動するための交通費もバカにならない。事実、インドの特定の州で行われた調査では、出稼ぎ労働者の家族が土地を所有している割合は、78%にも上る。貧困対策で、手厚く諸州政府が食糧等を提供し、郊外で大規模なインフラ公共事業が行われる中、わざわざ都市に出稼ぎに行くリスクをおかす必要はない。・インドにおける雇用創出の重要性と課題インドは、今後大きく労働者人口が増大していくとされている。それに見合った雇用の創出は、社会の安定性を保つための長期的な課題だ。そして、農村開発、貧困対策のための施策が逆に雇用のミスマッチを引き起こしている可能性がある。ここを上手く処理していくことは、今後のインドの課題になっていくのだろう。