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売春宿につれてこられたばかりの少女は、そこがどのような場所であるのか、この先どのようなことが待ち受けているのか、まったく理解していない。
しかし、その独特の雰囲気から、これから何か恐ろしいことが起ころうとしていることだけは感じ取り、身を震わせ、家に帰してほしいと泣き始める。 この時こそが、少女を洗脳する好機であるとされているという。 ガルワリはまず、少女にやさしく声をかけ、気持ちを解きほぐすことから始める。 怯えきり、閉じた貝のように硬くなっている少女に、聞く耳を持たせるためだ。 そして、少女が“聞く耳”を持ったところで、マインドコントロールが開始される。 ガルワリやマネージャー、古株のセックスワーカーらが少女をとり囲み、時間をかけて集中砲撃を浴びせ続けるのだ。 私は、マイティ・ムンバイが救出したばかりの少女たちから、その時の様子を聞かせてもらった。 ひとりの少女は、ガルワリに借金を返せと恫喝されたという。 「彼女は、私を10万ルピー(約30万円)で買ったといいました。それは私の借金だから、売春して返す責任があるといわれました」 少女が売春宿に売られる際の平均額は、日本円にして数万~十数万円といわれている。 しかし、ガルワリは、その額を常に誇張するという。 少女にはとても都合のつけられる額ではなく、売春するしかないと思い込ませるためだ。 事実、この少女は10万ルピーという金額を聞いて、ガルワリの命令を聞くしかないと思い始めたという。 そんな心の揺れを察知したガルワリは、追い討ちをかける。 「ガルワリは、自分も人身売買の被害者だった。初めは仕事をするのは嫌だったけれど、がんばって働いて、今のような金持ちになったのだといいました」 そして、身につけていた金のアクセサリーを見せびらかしたという。 少女の欲をそそろうとしたのだ。 どうせ逃げられないのなら、覚悟を決めて、自分のように大金を稼ぐほうが得策だと思わせるのである。 他の少女たちも、さまざまな言葉で脅されていた。 「ガルワリは、警察に金を払っているから、奴らはなんでもいうことを聞く。だから逃げ出して警察署に駆け込んでも、すぐに連れ戻される。 恐ろしいチンピラも囲っている。反抗すれば痛い目に遭うといいました」 「いうことを聞かなければ、村の新聞に私が売春婦だということを公表するといいました。 そうなれば、私と家族は先祖代々の土地を離れなくてはならなくなると脅されました」 「いうとおりにしなければ、一生、家族には会えないと思えといわれました」 震え上がるような言葉ばかりを並べたてられた。 次に、セックスワーカーの取りまとめ役を担うマネージャーが攻撃をしかけてきたという。 元は人身売買の被害者だが、その従順さを買われ、やがてガルワリの右腕の地位を与えられた女性だ。 比較的自由がきき、相応の報酬も得ているため、もはや売春宿から脱出しようとは考えていない。 よって、ガルワリの信頼が厚く、少女の洗脳にも手腕を発揮する。 先の少女は、そんなマネージャーに、時には荒げた声で、時には優しい声で、長い時間をかけて説得されたという。 「一生、ここに閉じ込めておいたりしない。借金を返し終わったら、家に帰してやる。 その時、ガルワリは現金や金の装飾品、豪華な着物の褒美を持たせ、故郷まで連れて行ってくれる。でも、その褒美は働き次第。 ガルワリに気に入られるようにすれば大金がもらえるし、お客を喜ばすことができればたくさんチップももらえるといったのです。 それから、ガルワリには上層部から下っ端まで、たくさんの警察の知り合いがいるから、誰も私を助け出してくれない。 ガルワリは、いい子にはよくしてくれるけれど、背いたらとても怖いと脅されました。 ひとりの女の人を指差し、この娘は売春を拒んだから、ガルワリに叩かれ、その後チンピラふたりにレイプされて、二十四時間、監視されているといっていました。 いうことを聞かなければ、その人と同じ目に遭うと脅されました」 さらには、そこで働くセックスワーカーたちに、自らの体験を語らせたという。 「仕事を拒んだら、ガルワリは鉄製の杓子で、気を失うまで殴り続けた。気が付くと、真っ暗な隠し部屋に閉じ込められた。 何日も食べ物を与えられず、このまま殺されるのかと怖くてたまらなかった」 「いうことを聞かなければ、ア●ルセックスやオーラル・セックスが習慣的に行われている売春宿に転売され、裸で軟禁されるのだと思った」 「逃げ出そうとすると、ガルワリは魔術を使って私を朦朧とさせた。意識がはっきりしないうちに縛り上げられ、何人もの男にレイプされた」 「私は幼い息子と一緒に売られてきた。反抗すれば、息子を殺すと脅された。息子はタバコの火で拷問された」 「膣に節くれだった太い棒を突っ込まれた」 「全身をタバコの火で焼かれ、膣に唐辛子の粉を詰められた」 「チンピラたちに、カミソリやナイフで指や腹部を切りつけられた」 そんな身の毛もよだつような体験談に、少女たちは打ちのめされ、完全に抗う気力を失ったという。 このように、マインドコントロールはガルワリ、マネージャー、古株のセックスワーカーたちによって、段階的に行われる。 その威力は極めて強力であり、簡単に解くことはできないという。 救出後、なぜ逃げ出さなかったのかという問いに対して、少女たちは次のように答えた。 「借金の肩代わりとして、自分の妹も売られると思った」 「逃げればチンピラが血眼になって探し、襲いかかってくると思った。そうなれば、レイプされて、最低最悪の売春宿に売り飛ばされると思った」 「魔術をかけられていたから、逃げ出せば悪魔が怒って呪い殺されると思った」 悪魔の呪いなど、妄想に過ぎない。 売春宿では、少女たちをコントロールするために、睡眠薬やドラッグが使われることがあるが、その力を魔術によるものと信じ込ませているのだろう。 少女たちが生まれ育ったのは、病気になるとシャーマンの祈祷に頼るような前近代的な社会であり、魔術の存在を未だ信じている。 加えて、長時間の洗脳により、少女たちは危うい精神状態に陥っているため、どんな見え透いた方便にも操られてしまうのだ。 このようにして、外界のすべての者が彼女たちより強い立場にあり、たとえ逃げ出したとしても、すぐに追放されてしまうと思い込ませる。 そして彼女たちは、望郷の念を封印し、赤線地帯の環境に染まっていくのである。 人はどれほど劣悪な環境下にあっても、生き抜くために順応しようとする。 苦しさを欺き、そこに幸せさえ見出して生きていこうとするのだ。 私がこれまでにインタビューしてきた被害者の中にも、売春宿での暮らしにささやかな喜びを見つけ、それを心の支えとしていた者は少なくなかった。 例えば、馴染み客の中のひとりに好意を寄せ、その客が訪ねてきてくれることを唯一の楽しみとしていた女性もいた。 「他のお客をとるときは、今自分が寝ている相手は好きな彼だと思うようにしました」 彼女は、その男を“恋人”と表現した。 あるいは、店いちばんの売れっ子セックスワーカーだったことを、自慢にしていた女性もいた。 「私は人気があったので、ガルワリがとてもかわいがってくれました。 肉もよく食べさせてくれたし、お祭りの時はご馳走を作ってくれて、私にだけ金のアクセサリーをくれました」 ガルワリは人身売買と強制売春の加害者であり、目をかけられていたことを誇りに感じるなど、本末転倒であろう。 しかし、たとえこじつけやまやかしであろうと、なんらかの幸せを見出し、それを支えに生き続けるしかないのだ。 こういった女性たちは、やがて自分は囚われの身ではなく、自ら望んでこの世界にいると錯覚するようになる。 そして、決して自分から逃げ出そうなどとは思わなくなるのだという。 (「少女売買」長谷川まり子著 P86~93)
昔は先進国にも似たような人身売買が存在していましたが、このような人身売買が今もインドで行われ、そこには幼い少女達の悲惨な現実があります。 著者の長谷川さんは「MC」と「洗脳」を区別していませんが、売春組織による少女達への“教育”は、「洗脳」と呼ぶに相応しいものです。 組織による凶悪な「洗脳」の特徴を挙げてみると、まず(1)本人の意思に反した人身売買があります。 そして(2)脱出を阻止する為の暴力と脅迫があります。 同時に(3)現状に満足するように指導する“教育”があります。 その結果、少女達は(4)辛い現状に適応する為に、自らの心を偽るようになるのです。 (1)~(4)の洗脳のテクニックによって、目の前に救出者が現れても、彼女達は簡単には逃げようとしません。 次回は、上記の(1)~(4)を統一協会のMCと比較し、MCが単なる「心理操作」程度のものではなく、人間の心の弱さにつけ込んだ悪質な手法であることを説明したいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.03.17 23:20:15
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