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カテゴリ:祈り
脳科学から少し外れますが、「南無妙法蓮華経」という題目の詠唱について、音韻分析の面から考えてみたいと思います。とくに、「妙法蓮華経」という詠唱部分には、たくさんの興味深い点があります。 まず、冒頭の「妙」を音韻からみると、マ行の音は「閉じていた口を開く」ときの音で、人間が生まれて一番初めに発する音とされています。「ママ」や「マンマ(ごはん)」などが好例です。 世界の言語でも、母親の呼び名は「ma」といったマ行の音から始まるものが多いのです。たとえば、フランス語では「母」のことを「mere(メール)」と言います。 ちなみに、フランス語の「海」は「mer」で、やはり「メール」と発音します。三好達治の「郷愁」という詩に、「母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある」という名高い一節があります。海と母という「命の源」を表す二つの言葉が、ともにマ行の音で始まっているのです。 そのことが象徴するように、マ行の音には、とても大きな存在、自分が生まれてきた場所などを思い出させる効果があるとされています。そのマ行の音が題目の中心に来ているところが、まず興味深い点です。 次に、「h」から始まる「法」ですが、これは日本語で「母」に通じます。「ha」と発音するときには喉も締まらず、口ぶるも触れず、濁らない。それは「清音」と呼ばれ、母なる生命の清らかな面をイメージさせる音と言えます。 「妙法」という流れを見てみると、「m」の音の後ろに同じように「母」を表す動きがある音が続くわけで、大変興味深いところです。 つづいて「蓮」。「r」の音が続く。これは、「母なるものと自分が同じである」と感じて、人生を転じていくというイメージを想起させます。音韻的には「宿命転換していこう」という力強さを感じられる部分です。 さらに、末尾の「経」の「k」という音は、勢いよく足音を刻む、区切るという音韻のイメージを持つことが知られています。「南無妙法蓮華経」の題目を立てた日蓮は、「足は経なり」との言葉を残していますが、まさしくそのとおりです。この部分は男性的な音でもあり、「切り開いて伸びていく」「行動で開いていく」というイメージを想起させる音と言えます。 このように「南無妙法蓮華経」の題目には、その響き自体に、深遠な意味合いや力強さを含んだイメージがあります。今後、こうした祈りの音韻と脳に関する研究・分析が進めば、より興味深い結果が得られることでしょう。
【脳科学からみた「祈り」】脳科学者 中野信子/潮出版社 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
April 16, 2019 06:08:13 AM
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