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カテゴリ:御書講義
社会が苦しめば わが身も苦しむ人
殉教を変毒為薬に結びつけられた大聖人と、「わが投獄が国家を変毒為薬に導く」と確信された牧口先生との共通点は、「政治権力による迫害」という生命を削る体験だった。 牧口先生は、自らが生きた時代をそう捉えていたのか。「尋問調書抜萃」に「国家悪時代」という明快な一言が残されている(『牧口常三郎全集』第10巻209頁)。この「国家悪時代」に骨がらみの奇妙な宗教があった。その宗教は当時「皇道」や「国体神道」などと呼ばれ、後に「国家神道」と呼ばれることになる。神道は『古事記』や『日本書記』を尊ぶ。池田先生は小説『人間革命』第1巻で「これらの神話には、もともとは、古代国家のはつらつたる息吹が込められていたかもしれない。しかし、それが、そのまま近代国家で天皇を絶対とする、国家統治の根拠として使われた時に、既に挫折への第一歩は始まったといってよい」と指摘されている(聖教ワイド文庫版249頁)。 「神社は“国家の宗示+巳(しゅうし)”であって・・・・・・これを宗教の圏外に置き、その経営は国家じしんが行う」(西田長男『日本神道史研究』第1巻275頁、講談社)―—この国策のもと、神職は内務省が管理し、官僚化は「事勿れ、無精神、脱イデオロギーが国家神道の実相なのである」(葦津珍彦『新版 国家神道とは何だったのか』114頁、神社新報社)という状況をもたらした。 日本人の大部分は「神社の崇敬は宗教ではない」「国家の道徳なのだから従え」という奇妙な論理に従った。しかし「国家の行政上の取り扱いがどうであったにせよ、本質的には宗教以外のなにものでもないであろう」(西田長男『日本神道史研究』第7巻428頁)と指摘される通り、神社神道は矛盾の塊と化した。牧口先生は、この「国家悪」の象徴として使われた伊勢の皇大神宮の大麻(神札)を焼き払ったのである。 池田先生は、「宗教の暗黒」を打ち破った「近代の歴史を省みて「しかし近代は、別の『暗黒』をもたらした。それは絶対の『信』をもてない、うつろな心という『魂の闇』です。そして、もう一つ、近代戦争という“国家総ぐるみの戦争”の惨禍です」と論じておられる(聖教新聞1993年6月3日付、「ゴヤをめぐる語らい」2)。 牧口先生の歩みは、近代世界が孕んだ宿業―—二つの暗黒―—に立ち向かう民衆運動の萌芽だった。刻まれた奇跡の節々に、変毒為薬の智慧が詰まっている。自らの発心の経緯を「変毒為薬の大法則」(牧口全集第8巻15頁)に照らし、信心によって「功徳を他に分ち、人を救ふこと」(同66頁)や、マルクス主義者に対する折伏(同28頁)も、変毒為薬によって論じられた。 その運動論は「潔く大悪に反対して戦死するものよりは快く大善を讃嘆して、その徳を伝承することが一層至難ではあるまいか」(同10巻33-34頁)という一言に示されている。 日露戦争前後の10年ほど、牧口先生は社会主義者たちと深く交流し、“外”からの改革が必要か否か議論を重ねられた。「可なり危険圏に迄踏み込んで居た」「桃色位には染まつて居たとして、当時のブラックリストに余の名が載って居たかも知れぬ」(同6巻22-24)。そして「いかに必要であつても・・・・・・非合法的手段に訴へてまでの事は警めねばならぬ」(同8巻85頁)との信条で“内”から社会を変える諫暁に臨まれた。 また牧口先生は、「高官高位」にのさばり大悪に迎合する指導者たちの革命を訴えられた(同10巻34頁)。同時に「経文論釈や学説真理などを商品の如く受け売りしてその地位を守り、衣食の糧とする大学教授や、職業宗教家」を攻め抜かれた(同頁)。なぜなら、彼らは自ら生きているこの社会の問題を「どこまでも対岸の火事視して、その身もろとも社会の全体と共同の利害を有することを感ぜぬ偏見に安んずる」からである(同頁)。彼らの姿勢は、あくまでも仏法を「生活法」として実践された牧口先生にとって許せないものであった。 牧口先生は「社会が苦しめば、わが身もろとも苦しむ」人であった。この生命の力をバネに、最高権力者を「わづかの小島のぬしら(主等)」(御書911頁)と喝破した大聖人の心を受け継ぎ、戸田先生と共に「国家を大善に導かねばならない。敵前上陸も同じである」(牧口全集第10巻147頁)という諫暁―—国家悪を冥伏させうる道を選ばれたのである。 それは「速に実乗の一善に帰せよ、然れば則ち三界は皆仏国なり」(御書32頁)と訴えられた「立正安国論」のように、難局に際して、彼岸への亡命も、現状の正当化も拒否し、仏国土の理想像を高く掲げて現実変革へ挑む、険しい第三の道だったともいえよう(佐藤弘夫『日蓮「立正安国論」』48頁、161 頁、講談社学術文庫)。 【論RON―日蓮仏法の視点から 第12回 変毒為薬の系譜―諫暁、迫害、人間革命の原点】創価新報2016.6.15
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Last updated
August 17, 2016 04:45:28 AM
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