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カテゴリ:暮らしのアンテナ
日本人の2人に1人が「がん」になるといわれている現在、体への負担の少ない治療法の一つとして注目されているのが「粒子線治療」です。高額な治療費が課題となっていますが、昨年4月から一部の腫瘍は保険適用となりました。今回は、「粒子線治療」について、兵庫県立粒子線医療センターの沖本智昭院長に聞きました。
病巣部で最大の効果を発揮 がんに対する治療には、「手術療法」「化学療法」「放射線療法」という大きく三つの柱があります。 従来から行われている放射線治療で用いられるのは、「エックス線=X線」や「ガンマ線」などによる光子線です。 これに対し、同じく放射線療法で「重粒子線」あるいは「陽子線」を用いたものを粒子線治療といいます。 2001年に設立された当院は、重粒子線と陽子線、両方の治療が行える国内唯一の施設で、これまでの症例は8000例を超えています。 重粒子線治療は「炭素イオン線」を、陽子線治療では「水素の原子核=陽子」を使います。 これらを、加速器と呼ばれる機械で、ものすごい速いスピード(光の速さの約70%)に加速させ、がんを攻撃するのです。そのためには、巨大な施設・設備が必要で、どうしても治療費が高額になっていました。 しかし、近年、先進医療としてだけではなく、一部の腫瘍に対する粒子線治療が保険収載され、費用負担が軽減されています。 また、施設・設備の小型化と低価格化も進んでおり、今後、新たな施設が増えてくるでしょう。 従来の放射線(エックス線)治療では、皮膚に近い所にある病巣では放射線量が低くなってしまい、十分な効果が得られないことがありました。 一方、粒子線治療では、ある一定の深さで放射線量が最大になるという特長(ブラックピーク)があるので、病巣で十分な放射線量が投与でき、治療効果が高くなります。 加えて、病巣から後方では放射線量がほぼゼロになるので、がんの部位より深い所の副作用の心配はなくなります。
対象は「転移のない固形がん」 粒子線治療の対象となるのは、「他に転移のない固形がん」が基本で、「前立腺がん」「」肝がん「膵がん」「骨軟部腫瘍」などです。 昨年4月には、骨や筋肉、皮下組織などの軟部に発生した切除不能な骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療と、20歳未満の小児がんに対する陽子線治療について、他のエックス線治療よりも優れていることが認められ、保険が適用されるようになりました。 たしかに費用面での課題は残りますが、患者さんや、そのご家族が、経済的理由から粒子線治療を受けることができないということがないように、今後は、他の局所療法が困難な原発性の「肝細胞がん」や「頭頸部腫瘍」、あるいは「膵がん」「肝内胆管がん」などにも適用が拡大されることを期待しています。 また、民間医療保険によっては、安価で先進医療の特約が付加できるものもありますので、確認してみてはいかがでしょうか。 なお、現在の粒子線治療は、あらゆるがんの理療に使えるわけではありません。転移が多数あったり、白血病など血液のがん、放射線に弱い胃や十二指腸・小腸・大腸・直腸など消化管がんには行うことはできません。
今月、新たな施設が開設された 具体的な治療法としては、がんの大きさや位置、ステージ(病期)、患者さんの年齢などを考慮して、治療の計画を立てます。 その後、放射線を照射する位置がずれないように、専用の固定具を作成し、それを使って照射をします。 1回の治療時間は約15分から30分で、全治療回数は38回と、病状によって異なります。 照射中の痛みや熱感などはまったくありません。腫瘍が大きい場合などは入院治療が必要なことがありますが、通院での治療も可能です。 そうしたことは、特に小児放射線治療における陽子線治療の優位性を示しています。 すなわち、これまでの放射線治療では、小児がんが完治したとしても、どうしても他の臓器などへの放射線の悪影響が残ってしまうことがあり、発育や発達障害、二次世界がん等の合併症が危惧されていました。 ある報告では、完治した小児がん患者の20%が25年以内に亡くなっているとのデータもあるのです。 こうしたことから、今月には、日本初のこども病院併設の陽子線治療センターとして、神戸ポートアイランドに、当センター付属の神戸陽子線センターが開設されました。 新幹線や神戸空港からのアクセスのよい立地でもあります。 小児がんは適切な治療によって7割が治癒するとされています。小児専門病院である県立こども病院と一体となって最適な治療を行っていくことができると思います。 また、小児だけでなく近隣の医療機関との連携で成人がん治療にも当たっていきます。
将来的には治療の第1選択にも 粒子線治療は、エックス線よりも陽子線では1・1倍、水素よりも重たい炭素の原子核を使う重粒子線では2~3倍も、がん細胞を破壊する力強いことが分かっています。 これまで、放射線治療器は、「テレコバルト」から「リニアック」と呼ばれる機械へと進化してきました。 将来的には、現在の「リニアック」での放射線治療と同じように、各地の多くの施設で陽子線治療が普通に行われるようになり、早期の小さながんであれば、粒子線治療が第1選択となり、外科手術で切除しなくとも治療が可能になるのではないかと考えています。 当然のこととして、場合によっては副作用が出ることも考えられます。 今後、臨床研究が進むとともに、さらなる医療機器の進歩などで、患者さんの身体的な負担が少なく、最善の治療が行えるように努力を重ねていきます。
【健康】聖教新聞2017.12.3 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 7, 2018 12:52:09 AM
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