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April 15, 2020
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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言が出された今こそ正念場――こう指摘するのは、免疫学、細胞生物学が専門の東海大学医学部・佐藤健人准教授である。ここでは、佐藤准教授の手記を紹介する。

 

手記 東海大学医学部  佐藤 健人准教授

 

新型コロナウイルスの感染症拡大が止まらない。今月7日、政府の緊急事態宣言が発令された。今が正念場である。

多くの専門家も指摘するように、私たちが今できることは密閉、密集、密接という「3密」を徹底して避けること。つまり「感染しない」ことと、〝もし自分が感染者だったら〟という自覚に立ち、特に高齢者や基礎疾患を持つ人に「感染させない」ことがある。その上で、各人が体調管理に心を配り、バランスの良い免疫系のポテンシャルを持つことが肝要である。

私たちは、脳の働きとは独立に「自己」というものを規定し、「非自己」を排除する免疫系というシステムがある。体内に侵入し、持ちこんだ遺伝子の複製・発言を無理強いするウイルスは、宿命的な「非自己」的存在である。だから免疫系は、さまざまな戦法で「非自己」であるウイルスを排除できるように進化してきた。

最も洗練された戦法は、侵入したウイルスの情報に基づき、これに特化した攻撃を行うもので、抗体の産生はその一環である。これは感染によって得られる抵抗性なので「獲得免疫」と称される。ワクチンは、この力を利用している。

獲得免疫を担う免疫細胞は、その一つ一つの遺伝子の情報をランダムに切り貼りするという驚異的なやり方で、さまざまな「非自己」と戦う膨大な特殊小隊を用意しており、その小隊には、かつて人類を苦しめた天然痘ウイルスを担当するものや、〝いまだに地球上に現れていない病原体〟を担当するものまである。このようにして免疫系は、あらかじめ予測できない「非自己」に対しても、臨機応変に闘えるように備えている。そして、一度ウイルスが侵入したら、これらの小隊が増殖し、大隊となって、「非自己」の撲滅に当たるのだ。

獲得免疫は強力な戦法だが、弱点がある。それは、小隊が十分な戦闘態勢を築くまでに数日以上の時間を要することである。

この弱点を補うのが、「自然免疫」である。自然免疫は相手に応じた作戦を取らず、「非自己」の侵入と見るや直ちに攻撃する。迅速で強いのだが、少々荒っぽい。熱が出たり、腫れたりする炎症は、こうして起る。しかし、これらの症状も、「非自己」の排除を行うためにう有効に作用するものだ。

「自然免疫」系と「獲得免疫」系がバランスよく反応すれば、私たちは「非自己」を排除して「自己」としての調和を回復できる。

それでは、新型コロナウイルスに感染して無症状や軽症ですんだ人、重症化した人では、何が違ったのだろう。過去の感染やワクチン接種によって免疫系が強化されていた可能性、又何らかの理由で免疫系のバランスが乱れていた可能性などが考えられる。

2003年に「重症急性呼吸器症候群(SARS)」が竜子した際、免疫系の暴走によって重症化したと考えられる症例が少なくなかった。「サイトカイン・ストーム」と呼ばれる症状である。

サイトカインは、感染局所に免疫細胞を招集したり、活性化させたりするなど、さまざまな〝メッセージ〟を伝達する物質である。これが過剰に産生されると、「非自己」に向けられるべき攻撃が私たちの身体という「自己」にも向けられ、臓器を破壊してしまうこともある。免疫系は〝諸刃の剣〟となるのだ。ウイルスそのものの毒性ではなく、これを排除する免疫系が、かえって重症化の要因となるのである。ワクチンの開発を含め、〝免疫反応をどうすれば適切にコントロールできるか〟が大きな課題である。

そこで今、あえて大局的に見るならば、大事なのは〝調和〟ということではないかと思う。

私たちの身体は、多くの「生命」の調和的統合で成り立っている。

例えば、私たちのひとつひとつの細胞に含まれるミトコンドリアも、太古には独立生物であった。ミトコンドリアには、酸素を使って生命活動に必要なエネルギーをつくり出す重要な役割がある。

免疫系との関連で言えば、獲得免疫を維持するためにはミトコンドリア機能が活性化することが極めて重要で、反対にミトコンドリアが損傷を受けると、感染がなくなっても自然免疫が発動してしまうことが近年、明らかになっている。ミトコンドリアの機能維持には、適度な運動が有効であることが知られている。

また、町内には、100兆個ともいわれる細菌が共生している。そうした細菌が食物を分解して、さまざまな物質を合成してくれるからこそ、私たちは生命活動が維持できるのである。

免疫細胞のためにも腸内細胞は重要で、腸内細胞なくして免疫系の調和は成立しない。

賢明な食生活で腸内細菌のバランスを整え、食事、運動や睡眠などの生活の基本を大切にすることが、結果として免疫系の「調和」をもたらす鍵なのである。

「調和」は体内だけでなく、人間と環境においても求められる。

森林伐採が急速に進行する地域では、通常は野生生物の間でのみ発生する感染症が、人間にまで広まる例が見られている。自然破壊が進めば、新たな感染症を引き起こす状況をつくり出してしまうと警鐘を鳴らす専門家もいる。

 

求められる共生の哲学

まさに「調和」は、人類的課題のキーワードではないだろうか。

世界の研究者たちが今、新型コロナウイルスのワクチン開発に当たっている。

ワクチン開発の礎となったのは、天然痘が猛威をふるっていた18世紀に、イギリスの記師であるジェンナーが「牛痘」を用いた予防接種を始めたことが起源とされる。しかし、ジェンナーより70年以上も前に、ワクチンの原型となった試みが、メアリー・ウォートリー・モンタギューという一人の女性によって、イギリスに広められていたことは、あまり知られていない。

彼女は、弟を天然痘でなくし、自らも罹患によって、その容貌を傷つけられた。それまで中国やインドなどの東方世界では、天然痘に一度罹患すると、再びは罹患しないことは経験的に知られており、患者の病変部のかさぶたや膿汁をあえて接種し、「獲得免疫」を誘導することが積極的に行われていた。それを知った彼女は周囲の反対を押し切り、愛する息子に、これを試したのである。そして効果を確信すると、王室などに働きかけ、その普及に努めた。

やがてイギリス社会に浸透していくことになるが、それでも世論の賛否は二分していた。効果的な予防法であるのにもかかわらず、「命を奪うもの」「神の御心に背くもの」と、さまざまな悪評が流されたのである。しかし、彼女は、そうした風評に屈しなかった。医師らの前で自分の子どもたちへの接種を行い、正しい効果があることを再び証明してみせた。こうした努力が、より安全性の高いジェンナーの牛痘接種へとつながっていったのである。

彼女は医療の専門家ではなかったが、主体者として立ち向かった。私たちも彼女のように、一人一人が今いできること真剣に考えながら、今回の感染症に立ち向かっていきたいと思う。

一方、ネット上などに無責任とも思われる批判やデマ、感染者に対する差別があふれている。サイトカインというメッセージ物質が暴走して人間を破壊するように、無責任で誤った情報が飛び交えば、社会を分断させ、人類を滅ぼす因となりかねない。正しく価値的な情報に基づきながら、行動することを心掛けたい。

人類は今後も、感染症の挑戦を受けることになるだろう。さらに厳しい試練がないとも言えない。その中にあって、人間と人間、人間と環境を調和へと導く強盛の哲学が、これからの世界にますます求められていくと思う。

 

 

【危機の時代を生きる】聖教新聞2020.4.15






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Last updated  April 22, 2020 12:30:49 PM
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