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カテゴリ:新型コロナウイルス
長期化するコロナ禍に立ち向かう 身体の距離は保ちながらも 人とのつながりを斬らない
「緊急事態宣言」の延長を受け、新型コロナウイルスとの戦いは長期化が見込まれる。今回の「危機の時代を生きる」では、千葉大学の近藤克則教授に、社会疫学の観点から、この〝長期戦〟において必要な視点などを語ってもらった。(聞き手=志村清志・村上進)
インタビュー 近藤 克則 教授
――新型コロナウイルス対策の長期化に伴い、今後、どのような視点が大切になってきますか。
今月4日、政府は「緊急事態宣言」の延長を発表。東京や大阪など13の特定警戒都道府県には「人との折衝の8割減」の継続を呼びかける一方で、新規感染者数が限定的になった地域については、社会・経済活動の再開を一部容認しました。 政府の専門家会議は、ウイルス対策の長期化を見すえ、特定警戒都道府県以外の34件を対象に、外出自粛の緩和を可能としつつ「新しい生活様式」を提示。人との距離はできるだけ②目と楼明ける、マスクの着用、帰宅後の手洗い・顔洗いの実践、また「3密」(密閉・密集・密接)の回避やテレワークの励行などの具体例が示されています。 このことは、コロナ禍との戦いが新しいフェーズ(局面)に入りつつあることを意味するでしょう。私たちの生活は、ウイルスとの〝共存〟を想定した段階に移行しつつあるといえます。 今では、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、ともかく外出を控え、人との交流を極力減らす対策がとられてきました。しかし、長期化していくこれからは、「どうすればウイルスに感染しないか」という視点は変わらずに持ちつつも「いかに自分の健康を維持できるか」という視点を持つことが大切になってきます。 私の専門である社会疫学は、病気を生み出す社会的要因を調べ、どのように予防するかを研究する学問です。その観点から、外出や人との交流が制限された状態が続くと、健康に悪影響を及ぼす可能性が高まると分かってきました。中でも、高齢者は注意が必要です。実際、私が代表をつためる日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトの研究によれば、外出や人との交流が少ない高齢者は、そうでない場合に比べ、うつや認知抄、糖尿病など発症する可能性が高いという結果が出ています。 また最近、世界保健機関(WHO)は、感染防止のために人との間隔を執るという意味の「ソーシング・ディスタンシング(社会的距離の確保)」にいいかえるようになりました。ソーシャルは社交などの意味があるため、「他人と疎遠になる」という誤ったイメージを連想させる恐れがあると判断したからです。 ウイルスの感染防止対策が長期化する中で、ストレスや孤独を感じやすくなっている今こそ祖、身体的距離を保ちながらも。人とつながり、健康を維持すること自体が大切になってくるでしょう。
健康維持のために適度な運動を 退屈せずに時間を過ごす工夫を
――私たち一人一人が健康を維持するために、どのような心掛けが大切ですか。
適度な運動や散歩は気分転換や健康維持のために必要です。 「屋外での運動や散歩なども、ともかく自粛、控えるべき」と誤解している人もいるようですが、政府の発表する「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では、「屋外での運動や散歩」は「生活や健康の維持のために必要なもの」とされ、外出の自粛要請の対象にはなっていません。「3密」を避けることや、帰宅してからの手洗い・うがいなど、細心の注意を払いつつ、定期的な屋外での運動などを心掛けてほしいと思います。 また、自宅にいながら熱中できるものを見つけることも大切です。意外に思うかもしれませんが、人間は、仕事が多忙な時や緊張を感じるときだけでなく、「暇」や「退屈」な状況に対してもストレスを感じます。やることが何もないことも、健康によくない影響を与えるのです。 休校が続き、家にいることが多くなったため、精神的に不安定になる子どもが増えているようです。このことも、退屈に感じる時間の増加が原因かもしれません。 いずれにしても、退屈せずに時間を過ごす工夫は必要です。もともと趣味などをお持ちの方は大丈夫かもしれませんが、特に持っていない方は、これを機に探してみてもよいでしょう。
――健康を損なうリスクが高い高齢者のために、関わる側が意識すべきことはありますか。 高齢者と一緒に住んでいる場合、家事などの役割を分担することは有効でしょう。
最近では、行政が高齢者に「役割」を提供する事例も出てきました。 千葉県松戸市では、「松戸プロジェクト」と称して、高齢者の健康寿命を延ばすために、さまざまな地域活動を推進しています。あるグループは、ウイルス感染が流行するようになってから、高齢者にマスクをつくってもらい、それを介護施設や保育園などに寄付しているそうです。こうした作業なら、自宅にいてもできるので感染リスクは低く、取り組みを通して、社会とのつながりを実感できます。このような取組が、各地で推進されていくことを期待しています。 また近隣の方や、遠方に住む親せきなどに〝声掛け〟をすることも大切です。 人との対面交流が難しい状況ではありますが、電話やメール、SNSなどを遣って交流するだけでも、健康促進に寄与します。JAGESプロジェクトの調査によれば、月に1回でも笑う機会があると、主観的健康感(自身の健康に対する自己評価)が高まるという結果が出ています。 これといった幼児が無くても、コミュニケーションを取ってほしいと思います。その中から困っていることや悩みを打ち明けてくれる場合もあるでしょう。
――社会疫学の観点では、人の健康は、その人の努力だけではなく、生まれ育った環境や地域、仕事や所得などの社会的環境によっても左右される側面が強いとされます。頃中の長期化は、そうした「健康格差」に、どのように影響を与えるのでしょう。
現在の日本社会では、低所得の人が増えています。その状況は、健康格差の拡大にもつながっています。感染流行が長期化すると、景気が冷え込み、その格差はさらに広がるでしょう。 特に社会的に弱い立場に置かれている人ほど、失業などの経済的なリスクが高まります。その結果、生活の見通しが立たない不安から、うつや自死に追い込まれる人や、健康障害がさらに悪化することによって健康を損なう人が増えてしまうのではないかと懸念しています。
交流や助け合いの蓄積が 困難を乗り越える「鍵」に
――近藤教授が編集・著述された『ソーシャル・キャピタルと健康・福祉』の中では、健康格差を是正するために「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)の役割について言及されています。
社会疫学では、人と人との交流や社会参加、助け合いの規模の度合いを「ソーシャル・キャピタル」と定義しています。人と人とのつながりや結束を社会史源と知る考え方です。 コロナ禍における健康格差の問題は深刻ですが、こうした危機的な事態だからこそ、地域のソーシャル・キャピタルの力が問われてくるのではないでしょうか。 2011年に東日本大震災が起こった際、被災地では「助け合い」の精神が育まれ、ソーシャル・キャピタルが豊かになったと言われています、今回の感染拡大も同様に、私たち一人一人が、が励まし合い、協力し合うことでソーシャル・キャピタルの力を発揮して、困難を乗り越えることができると思います。日本社会には、その〝ポテンシャル(潜在能力)〟があると信じています。
こんどう・かつのり 1983年、千葉大学医学部卒。2014年から千葉大学予防医学センター教授に。一般社団法人日本老年学的評価研究機構で代表理事も務める。国立長寿医療研究センター部長を兼務。主な著書に『健康各社社会への処方箋』『長生きできる町』など。
【危機の時代を生きる】聖教新聞2020.5.13 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 13, 2020 12:31:21 PM
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