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January 13, 2021
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広がるコロナウイルス

医療社会史から見た感染症

小俣 和一郎

鬱積感、圧迫感が蔓延

2020年は、思いもかけず新型コロナウイルス感染症騒動で始まった。もっとも、日本ではこの問題が深刻味を増したのは、感染患者が集団発生した大型クルーズ船検疫を巡る対応や国内での感染者が増加した2月以降のことである。

ところで、歴史上このような新しい感染症が現れ、それが広域に伝染して、いわゆるパンデミック(世界的な流行)が出現したとき、人間社会がどのような反応を見せてきたのかを顧みると、そこには驚くほどの共通点が見いだされる。

新しい感染症であるから、それに対する免疫をもつ人はなく、治療法もないという点で、大きな不安と恐怖心を呼び起こす。そうした感情は本来身を守るためのポジティブなものであるが、集団心理となると、社会にとって逆にネガティブなものともなる。

そのもっとも極端な例が感染源と見なされた人々への攻撃であろう。

ヨーロッパ中世におけるペスト大流行に際してのユダヤ人焼き殺し、いわゆる魔女狩りの一部などがその例といえる。さほど極端ではなくとも、今回のコロナ危機における外出制限のエスカレートや買い占め騒動なども、そうした人間の集団心理が深くかかわっている。

そうしたこともあって、「コロナブルー」とか「コロナ疲れ」ともいわれる何とも表現しがたい鬱積感、圧迫感がまん延している。

 

繰り返される集団行動

もっとも、感染者を隔離するという行動は公衆衛生上の基本的な手段であり、検疫という英語のクアランティン(語源はイタリア語のクアランテナ=40)も、町の外の港に船を乗員ごと40日間停泊させ、異常がなければ上陸を許可したことに由来する。その起源は14世紀の都市国家ベネチアといわれる。

この手法は現代の世界でもなお医学的に有効とされるので、冒頭に触れたクルーズ船検疫のような対応は基本的に間違っていない。ヨーロッパ各国のような陸続きの国で国境を封鎖して入国者をとどめ置くというのも、同じ意味で誤った対応とは言えない。

しかしながら、集団心理が昂じてパニックが広がれば、先に述べたような集団虐殺、人種差別、露骨な買い占め騒動などに結びつき、本来何の科学的根拠も持たない行動となって現れる。こうした非科学的な集団行動は、未知の感染症が流行するたびに歴史上、繰り返されてきた。

医学の歴史を専門に研究する分野を「医学史(または医史学)」というが、その周辺には最近になって、さまざまな関連分野が生まれている。感染症と人間社会のかかわりを研究テーマとする領域も「医療社会史」ないしは「医療文化史」などと呼ばれることがある。

ただし、こうした領域の定義や境界はまだ定まっていない。しかし、今回のコロナ危機のように、パンデミックを引き起こし、しかもそれゆえに世界経済にも大打撃を与えつつある事態に対しては、そうした新しい領域の研究者も大いに関心をもたざるを得ないだろう。

 

大戦終結させたスペイン風邪

経済優先の世界見直す作用も

 

自然共生的生き方の拡大

ところで、医療社会史的に分析してみると、これまでパンデミックのような広範な感染症の流行は、一方で上述のような非科学的で非人道的な愚行を繰り返し生むのだが、他方で人間社会全体にとってはむしろよい結果というものをもたらしてきた歴史も見ることもできる。

例えば、1918年に発生した「スペイン風邪」のパンデミックがその一つであろう。この大流行の発生源はいまだによく分かっていないが、その流行がスペインで大きく報じられたことからスペインの名称を冠してこう呼ばれる。また、その正体はインフルエンザウイルスであった。

しかし、当時はなおこのウイルスに免疫がなかったため、またたく間に世界中に感染が広がった。日本でも多くの人が感染し死亡した。世界的には5億人以上が感染、死者も5000万人以上といわれている。この膨大な数の感染死、とりわけ若者の死によって徴兵に支障が出たため、こう着状態にあった第1次大戦が終結(18年)したともされる。

今回の新型コロナウイルスのパンデミックはまだおさまらず、一日も早い終息を祈るばかりだが、各国が検疫目的で移動制限を実施したことで旅行者数が激減したのにともない多数の航空便もストップし、工場の九行で石炭排出ガスなどが減少し、帰って空気が浄化され、パンデミック前までは国連をはじめ多くの学者らが警鐘を鳴らしていた地球温暖化にさえ一時的な歯止めがかかったかもしれない。

つまり、ウイルスという微生物が、人間に対してあたかも「世直し」のように作用しているということである。もとろん、それに伴う多くの犠牲者、経済的影響は見過ごすことはできない。だが、長い目で見れば、バブル経済のような角の株価上昇、地元時移民にとっては迷惑この上ないオーバーツーリズム、地球規模での気候変動などが抑制されるという結果につながるかもしれない。

また、テレワークのような勤務形態の促進、経済最優先の成長主義の見直し、地球環境に配慮した自然共生的生き方の拡大につながる可能性はないだろうか。

ゆくウイルスVS人類のようにあたかも戦争にたとえ、闘争心を煽るが、感染症という病気自体も自然のなせる業である以上、それを真に克服できることにはつながらない――医療社会史がわれわれに教えていることも、そのようなことではないか。

(精神医学史家)

 

おまた・わいちろう 1950年、東京都生まれ。精神科医。著書に『近代精神医学の成立』『異常とは何か』『精神医学史人名事典』、訳書にラング『アイヒマン調書』、グリージンガー『精神病の病理と治療』などがある。

 

 

【文化culture】聖教新聞2020.4.7






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Last updated  January 13, 2021 05:01:08 AM
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