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August 7, 2021
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歴史の視点で見るコロナ禍

「エゴ」や「敵意」の克服が鍵

作家・歴史小説家  安部 龍太郎氏

 

—今回のコロナ禍による危機について、どのように捉えていますか。

 

新型コロナウイルスの発生源は正確には分かっていないものの、エボラウイルスと同様、コウモリが起源ではないかとされています。

人類を脅かすウイルスの多くは、もともと自然の中で静かに存在し、野生動物などと共存していました。それを、人間が活動領域を広げるために自然を破壊し、野生動物を食用化したことなどを通して、人に感染するようになったといわれています。いわば、ウイルスと共存していた「自然の領域」に、人間が踏み込んだことによって、自ら感染症を引き起こしたのです。

こうした背景には何があるのか。私は、人間の〝自分さえよければいい〟という「エゴイズム(利己主義)」が招いた結果だと考えています。

エゴは、自然や他所、あげくは未来からの「収奪」もたらします。今の生活の豊かさを追求するあまり、地球の資源を搾取し、子や孫の代まで負担を押し続ける環境破壊は、自然や未来からの収奪の最たる例でしょう。また人類は、他者からの収奪のために、醜い争いを繰り返してきました。その根底には他者に抱く「敵意」があります。

人狼の最大の弱点は、こうした「エゴ」や「敵意」といった感情を制御できないことにあると、私は長年、主張してきました。だから有史以来、戦争や紛争が絶えず、ついには核兵器の開発・使用にまで行き着いてしまったわけです。こうした感情を克服できなければ、人間自身が滅亡の危機を迎える。

人類がエゴと敵意を克服しなければ、グローバルな時代の感染症越えられない—今回のコロナ禍は、そういった本質的な課題を突き付けているのではないでしょうか。

 

 

—国内ではどんな課題が現れているのでしょうか。

 

一つは、政治・経済・社会の問題が明るみに出たことです。インバウンド(訪日外国人客)や国際的なサプライチェーン(部品の調達・供給網)など、政府も企業も、グローバル経済に頼りすぎた成長戦略が行き詰っています。

また歴史的に見れば、明治維新以降の富国強兵、戦後の高度経済成長を実現させるために、一貫して中央集権体制を強化してきた結果、大都市への人口の一極集中と過密状況が進みました。一方で、地方の過疎化や農林水産業等の衰退が深刻化し、地方消滅とまでいわれています。

その中で近年、必要性が叫ばれながら遅々として進まない「食料自給率の向上」や「地方分権の推進」といった課題に、コロナ禍の今、改めて目を向けざるを得なくなりました。

もう一つは、よって立つ思想・哲学・信仰の脆弱性が露呈したことです。平穏だった日常がかくも簡単に崩れ、社会のリーダーから市民に至るまで、多くの人が右往左往していると感じます。とりわけ今まで、幸せな人生を目指して掲げてきた「生きる目標」が揺らぎ、競争に勝ち抜き、物質的な充足を得ることだけでは、本当の幸福をつかめないことに、人々は気付いたのではないでしょうか。

ただ歴史を振り返れば、「危機の時代」は決して悲観的な側面ばかりではありません。むしろ、既存の価値観を脱し、社会の変化に応じた、より幸福な生き方を築いていく変革のチャンスでもあります。今こそ先人たちの歴史に学び、現代に生きる知恵をくみ上げていくことが求められます。

 

多様なリスクを抱える時こそ

民衆に根差した羅針盤が必要

 

—時代の転換点を生きていくうえで、教訓として活かしていける歴史の場面はアルマスでしょうか。

 

私は、織田信長、豊臣秀吉といった戦国時代を中心に小説を書いてきましたが、現在は、そこから江戸時代を切り開いた徳川家康にも力を注いでいます。時代の転換点という意味では、江戸・幕藩体制の構築に至るまでの過程は大きなものだったのです。

戦国時代、日本は西洋文明を出あい、南蛮貿易の恩恵を受け、経済成長期を迎えました。おこの時、守護領制が崩壊し、強力かつ一元的に地域を支配する信長などの戦国大名が台頭し、覇権を争います。「エゴ」と「敵意」がむき出しの時代と言えます。

信長の遺志を継いだ秀吉も、中央集権・重商主義の政策を強力に推進しました。しかし、明国への侵出を企て、2度の朝鮮半島出兵を行うも失敗。秀吉亡き後の疲弊した日本の復興や再建を、どう進めるのか。そこで、重商主義の利益きょうじゅ者である西日本の大名と、農本主義を主流とする東日本の大名が「関ヶ原の戦い」で激突します。天下分け目の決戦は、日本がどういう国になるべきかという方向性を決める「国家路線の選択の乱」だったわけです。

家康は西軍に勝利。かつて関東移封後、地方分権・農本主義を軸に統治に成功した自らの体験をモデルとして、江戸幕府を開きました。そして、世界史でもまれといわれる、250年以上に及ぶ天下泰平の世の基盤を築きます。

もちろん、家康のモデルを、そのまま現代に当てはめることは難しいかもしれません。しかし、コロナ禍によって、グローバル経済や大都市への一極集中リスクが顕在化し、地方では限界集落といった状況が進む昨今、家康の時代の知見から学べることはあると感じます。

特にAI(人工知能)やビッグデータが活用される近年は、全国の中核都市等を軸に、地域ごとに経済や暮らしを充実させていくコンパクトシティ構想なども検討されています。感染症と共に生きる時代を見据え、過度なグローバル経済への依存や大都市一極集中から方向転換する道を開くことが必要だと思います。

 

 

—「危機の時代」を生きていくために、思想・宗教はどのような役割を果たし得るでしょうか。

 

8世紀前半の奈良時代には、天然痘が猛威を振るいました。諸説ありますが、朝鮮半島や新羅などに赴いた日本の使者が、帰国後、国内にウイルスを持ち込んだとされ、国政を握っていた藤原氏4兄弟は全員、疫病で死去。ある研究では、当時の日本の総人口の約3割が死亡したと推計されるほどです。

国政の中心を担った聖武天皇は、混乱した世の中を治めるために仏教への帰依を一層深め、日本各地に国分寺・国分尼寺の建立を命じ、その中心である東大寺には、総力を結集して大仏造粒を推進。そうして庶民の間に仏教思想を広め、鎮護国家の構築を目指したとされます。

私は仏教思想の一つの特徴は、執着を離れるところにあると考えています。未知の感染症に直面した時、〝自分さえよければいい〟というエゴへの執着をいかに克服するか。そこに、慈悲・寛容の精神が脈打つ仏教思想が支えとなったのではないか。また、仏教的な作法ともいえる距離を取った礼節などの習慣が、長い年月をかけて今日、世界的に見ても感染症予防に適しているといわれる日本人の生活様式を作り上げる基礎になったのではないかと、私は見ています。

さらに日蓮の「立正安国論」にも記されているように、鎌倉時代にも疫病や自然災害、基金等が集中した危機の時代がありました。仏教の視点から見れば、当時は釈迦の教えが効力を失う末法に入ったとされ、「何を信じて生きるべきか」と人々は迷い、不安定な状況が続いていました。

その中で、蔓延する厭世思想を改め、民衆に根差した希望御羅針盤を示した一人が日蓮ではないでしょうか。中でも、人間の内面にある無限の可能性に光を当て、一人一人の精神的自立を後押しする信仰の確立を促した点は注目に値します。

 

行き先が見えないならば

過去から学び史観を磨け

 

日蓮が繰り返し訴えた、法華経に登場する不軽菩薩の万人を尊敬する生き方こそ、エゴや敵意を制御し、自利と利他を一致させていく思想だからです。

今日の地球的な気候変動による自然災害、未知の感染症のパンデミック(世界的大流行)、分断と対立の社会状況など、多様なリスクを抱える時代にあって、自分自身が責任をもって懸命に判断しなくてはならない局面は増していくでしょう。その意味からも、一人一人がよって立つ、正しい思想や信仰が大切になるでしょう。

 

 

—安部さんは、佐藤優氏の対談集『対決! 日本史』(潮出版社)の中で、歴史を学ぶ上での視点を語っています。

 

私は、「歴史的教育」を身に付けるために重要なのは、①歴史についての情報量②歴史と対峙した経験③そこから生まれる発想力—の3本柱だと考えています。

日本の歴史教育は、知識の詰め込みといわれるように、教えられた史実を情報として単に暗記するにとどまっていると思います。また日本史と世界史を二つに分け、選択して学ばせるような教育では、グローバルな思考ができる人材は育ちにくいのです。

私が特に重要だと考えるのは「歴史と対峙する経験」です。歴史上の人物が「なぜそういう行動をとったのか」「それが周りにどんな影響をもたらしたのか」ということを思索し、探求するということです。「温故知新」という言葉がある通り、先人の生き様の集積ともいえる歴史を学び、対峙することで、現代をよりよく生きる「発想力」「知恵」が生まれます。

未知の感染症をはじめ、先行きが見えない危機の時代に立ち向かっていく今、私たちはまさに、過去の歴史と対峙する好機を迎えています。

いつの時代も、歴史から真摯に学び、しっかりとした歴史観をもっていなければ、デマやフェイクニュース、さらには権力者のウソに、簡単にだまされてしまいます。揺るぎない自分を築くためにも、一人一人が「歴史的教養」を磨いていきたいものです。

 

 

 

【危機の時代を生きる】聖教新聞2020.8.19






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Last updated  August 7, 2021 05:56:54 AM
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