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November 30, 2021
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コロナ禍と社会の変容

美馬 達哉

 

これまで人類を何度も脅かしてきた感染症だが、現在、新型コロナウイルスの脅威が世界を覆っている。その影響は医学や生物学の領域を超え、政治や経済など、社会にさまざまな変化を及ぼしている。こうした社会の変容に人文知の果たすべき役割は何か。『感染症社会』(人文書院)の著者で、医療社会学者の美馬達哉・立命館大学教授に聞いた。

 

医学だけでは見通せない事態

新型コロナウイルス感染症(COVID19)をウイルスによって広が苦病気という側面だけで見れば、それは医学の専門分野で、ワクチンや治療薬ができるかどうかの問題という話になります。しかし、医学の専門家だけに、これからの社会の進路もお任せするのかといえば、それは違うのではないでしょうか。

同じウイルスでも、感染者が激増する地域もあれば、そうでない地域もあります。そこには遺伝的な形質の違いだけでなく、感染症に対する意識や清潔習慣、社会習慣も関係しています。従って医学的に見るだけでは、今起きているパンデミック(世界的大流行)の事態は見通せないのです。

また、別の視点から考えましょう。日本で取られているクラスター対策には、県洗車を危険人物とみる管理の発想があります。その結果、手当され保護されるべき存在である感染者が排除の対象になり、感染者自身が検査拒否したり、症状を隠したりすることも生じています。感染症対策は感染者の生活と人権を守らない限りは不可能なのです。これは生物学や医学に偏った考えでは、どうしても抜け落ちがちな点です。

そこで大事になるのが、人文知、つまり生物学や医学ではない学問や経験です。つまり、哲学や歴史学や社会学や人類学の視点を取り入れることの必要性です。

 

服従の巧妙な仕掛け

細菌やウイルスといった病原体が病気の原因であるとみなされたのは19世紀末以降、日本でいえば明治維新の頃です。しかし、大規模な感染症は都市文明とともに始まりましたから、人類は細菌やウイルスの知識、ましてやワクチンのない時代から感染症と付き合ってきました。そこから学ぶべきものがあるのではないでしょうか。

そのとき、私が手掛かりとしたのが、「コンスティチュ―ション」という語です。現在の医学からは忘れられている言葉ですが、医学士の中では重要な概念です。体質や大気組成という訳語が当てられます。

病原体の知識がない過去の時代でも、同じ状態で人々が次々と倒れていくのを見れば、何らかの共通の原因があるはずだと多くの人々は気付きます。それを神の祟りや天罰と考えた人もいましたが、少し合理的に考える人の中には気候や空気のよどみなど、現在でいう社会環境要因に目を向けた人もいました。

そうした様々な要素が、当時はコンスティチュ―ションと呼ばれました。その知恵を現代の人文知とつなげ直すことがいま、大切ではないかと考えています。

次に、コンスティチュ―ションを社会制度や政治の面から見てみましょう。COVID19対策では、外出制限等の公衆衛生的な手法は、なるべく「自粛」であることが日本では目指されました。そこで理想とされるのは、フランスの哲学者ミシェル・フーコーによって「生政治」と名付けられた社会の姿そのものです。

「生政治」とは、生物としての人間の生命に目を向け、人々の健康を増進することを目的に社会の秩序を維持する政治です。従って感染症の予防を目的として政治を行うのも、「生政治」の一つの姿といえます。そのとき、理想とされるのが自発的な服従に基づいて自ら管理する社会です。フーコー自身は、その状態を、監視されているかどうか分からない不安の中で人々が「自発的」に服従させられる巧妙な仕掛けと考えて、監視社会の持つ不自由を批判していました。

現代においては、情報通信基盤の発展によって、監視の社会的広がりは目を見張るほどになっています。中国、台湾、韓国ほどではありませんが、日本のスマートフォン用アプリCOCOAも、スマホ等のモバイル機器を通じた監視によって、自発的に人々を感染予防に服従させる仕組みを作り上げていると見ることができます。

 

基本的な変革の機会に

忘れてはならないのは、「生政治」の上昇は単なる生命としての効率的な管理を人々に押し付ける危険性があることです。それは自律的に生きるのとは違います。その例が難民キャンプです。食事だけは与えられるけれど、自ら何かを決めて行動する自由は極端に制限されます。今形成されつつある緊急事態社会や自粛社会は、それに似たものになりつつあるように思えます。

過去の感染症のパンデミックの歴史を見れば、ペストによる都市封鎖という非常事態が近代の監視の仕組みをつくり、これら対策が現在の都市環境の整備につながっています。COVID19でも社会は大きく変わることでしょう。そのことで社会を根本的に変革するチャンスをいま、私たちは手にしているのではないかとも考えています。

感染症は一国では解決できない問題で、全世界の人類が連帯して向き合う集団的行動が求められています。非常事態の宣言を待ち、それに従う受動的な生き方ではなく、一人一人が当事者となって、市民社会の側から関わっていくことが、コロナ禍の中では必要です。その意味では、新しい生活習慣ではなく、新しい政治参加こそが、グローバルな連帯を通して社会を変え、COVID19対策を実効的にするのです。

 

みま・たつや 1966年、大阪府生まれ。京都大学准教授などを経て現職。医学博士。脳神経内科医。専門は医療社会学、脳科学。著書に『〈病〉のスペクタクル 生権力の政治学』『脳のエシックス』『リスク化される身体』などがある。

 

 

【文化Culture】聖教新聞2020.12.1






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Last updated  December 1, 2021 04:38:59 AM
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