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September 28, 2022
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仏教の〝柔らかな多様性〟が分断を超え「第三の道」開く

インタビュー 一般財団法人日本総合研究所所長 寺島 実郎

GDPの推移

——近著『日本再生の基軸』やTOKYO MAXをはじめとするメディア出演を通して、世界における日本を展望してこられました。コロナ禍をどう見ていますか。

 

私は社会科学の世界で生きた人間ですから、まずは日本の経済をGDP(国内総生産)という視点で捉えると、日本がどれだけ〝埋没〟しているかが分かります。

日本のGDPの世界におけるシェアは、平成が始まる前年の1988年には16%でした。日本を除くASEAN(東南アジア諸国連合)などを会わせても6%ですから、日本はアジアの中で段トツの経済国家として、平成の時代を迎えたわけです。

2000年になっても、日本のGDPは世界14%を占め、その他のアジアは7%でした。それが2010年には、日本が7%まで急速に落ち込み、その他のアジアが17%です。この年は、中国が単独で日本を追い抜いた年でもあります。

そして、コロナ禍の中の2020年のGDPは、日本のシェアが6%、日本の除くアジアは25%です。今後、コロナ禍のトンネルを抜けているであろう2030年には、日本のシェアは4%台に落ち込んでいるというのが、私の見立てです。

「アジアの世紀」といわれる時代が確実に近づく中で、日本は明らかに存在感を失っているといえます。

尺度としてGDPの正当性を問う声もあるでしょうが、GDPは付加価値の総和です。日本国民が額に汗して、知恵を出しながら経済産業活動を展開し、創出した価値の大きさが、世界中でこれほど〝埋没〟していると捉えることは重要だと考えます。この現実を多くの人が自覚できていないことに対して、「健全な危機感」を持つべきであると私は思います。

 

 

——〝健全な〟危機感とは、悲壮感や諦めではなく、現実を直視しつつ、どうすれば打開できるかを模索する前向きさを生むものではないでしょうか。

 

日本が置かれた状況に対して、多くの人が危機感を抱いていないのは、急速な復興と成長を告げた戦後日本の残影を、今も引きずっているからです。産業力で外資を稼ぎ、国を豊かにするという「工業生産力モデル」が、まだ機能しているとの重大な錯覚の中にいます。株価の上昇などで、〝日本はうまくいっている〟との感覚を、日本人が抱いていた側面もあります。

しかし、世界の有識者らと議論をする中でも、日本の〝埋没〟は、すでに常識になりつつあります。まずはその事実に対する認識を、これからの議論の基盤に据えていくことが、〝健全なる危機感〟であると考えます。その上で、GDPを押し上げることはもちろんですが、それに限らず、世界の中で存在感を放ち、重要な役割を果たしうるために、どうすればよいのか。

コロナ禍は、日本がすでに抱え込んでいた問題を、目に見える危機としてあぶり出していると言えるでしょう。

 

 

——これからの世界を、どのような視点で捉えるべきでしょうか。

 

前提として、二つの時代認識を持つことが重要であると考えます。

第一に、現代は、二極化という構図の中で論じられやすい時代であること。そして第二に、日本は「宗教なき時代」を生きているという認識です。

「二極化」を象徴するのが、西洋文明を代表するアメリカと、東洋文明の中核である中国との分断です。〝米中新冷戦の時代〟とまで言われる緊張高まる現代にあって、日本には、その二項対立に引き込まれない「第三の道」を模索する役割が求められます。

次に「宗教なき時代」は今に始まったのではなく、戦後日本にあって、宗教の受け止められ方は希薄であり続けました。もちろん、日本人にまったく宗教心がないわけではなく、神社にお参りに行く、易や占いを信じるといった行動をとる人は一定いますが、「心の基軸」として宗教を持つ人は少ないのが、長年の特徴です。

あえて言うならば、戦後日本人の心の基軸になったのは、松下電器の創業者・松下幸之助さんが提起した「PHPの思想」だったと思います。

Peace and Happiness through Prosperity(豊かさを通じた幸福と平和)」という言葉は、繁栄すなわち経済成長が、幸福と平和をもたらすという、ある種の〝希望〟を国民に与えるものでした。しかし今、豊かになれば幸福と平和が訪れるという方程式は、もはや成り立ちません。加えて「宗教なき時代」です。このままでは日本は、GDP上だけではなく、心まで埋没してしまう——そういう危機感を抱いています。

 

 

日蓮の時代

——日本再生の基軸の一つとして、仏教に着目されています。

 

二項対立に分断されないよう視界を広げ、強い意思をもって「第三の道」を切り開くカギとなるのが、仏教にみられる、人間の苦悩や葛藤に迫りながら、深い精神性を追求する姿勢であると考えるからです。

仏教の特徴は〝柔らかな多様性〟であると思いますが、それを理解するうえで大切なのが「加上」——一つの思想は真価を重ねて、後の世になるほど加えられていくという考え方です。

例えば、釈迦が説いた仏教は、その弟子や後進の求道者によって、多様な解釈と思索が加えられました。そうして発展を遂げた大乗仏教が、日本をはじめ世界に広く受け入れられてきました。全てを固定化するのではなく、進化させ、さらには弟子が師匠をも超えていく。それが仏教の深みであると理解しています。

その中でも、日蓮の時代と生き方を知ることは、現代にも有益だと思います。当時、年表に「飢饉」「疫病」「強訴」「群盗」等の言葉が目につくほどに国は荒れ、さらには蒙古の襲来が日本に迫ってきました。

庶民の間に広まっていた仏教諸派は、鎮護国家(災難を鎮め国家を護ること)の思想でしたが、その内実は絶対的な存在に救済を求める〝他力本願〟であったわけです。それはそれで、〝信じればいいことがある〟と言った原始的な仏教思想のパラダイム(規範)を、庶民のためへと転換した意義はあります。

しかし日蓮は、さらなるパラダイムの転換を図ったわけです。日蓮は、日本の危機は「国難」であると受け止め、法華経への帰依を訴えました。

法華経では、人間の外に人智を超越した存在を置くのではなく、自己の内に仏を見ます。そして日蓮は、鎌倉幕府に対して「立正安国」の重要性を主張していきました。仏教が国や政治に挑むなど、それまではありえなかった状況の中で、日本の危機を語らずにはいられなかった、「法華経の行者」としての日蓮の深い自覚が感じられます。

世の中を変えなければ、人間の幸福もないといった志向は、創価学会にも受け継がれています。日本が世界の二極分断に吸い込まれかねない状況の中、創価学会には、柔らかくとも強靭な多様性をもって、「第三の道」を切り開いていくことを期待します。

二項対立へと誘惑するポピュリズムや国家主義が台頭する現代にあって、これまで日本人が丁寧に培ってきた民主主義を、持ちこたえさせる精神的役割を担っていただきたい。

 

 

全体知への接近

——コロナ禍では、感染者数の推移といった部分的な数値ばかりが目に入りやすい現実があります。そうした「専門知」に対して、「全体知」を持つことの大切さを訴えられています。

 

物事を一部の視点からしか捉えられない「専門知」に埋没してもいけないし、それらを合わせた「総合知」に満足してもいけない。物事の全体像を見渡し、その本質を捉える「全体知」への接近を訴えています。

全体知を理解するには、仏教の「空」の概念が分かりやすいと思います。「空」は「無」とは違います。むしろ、「空」は「ゼロ」に近いものです。インドにおけるゼロの発見が、近代科学の原点となっており、ゼロは無限大につながる概念です。

同じように、あらゆる事物・事象を突き詰めると、その本質は、固定的な実態は存在しない「空」であることの真理が、般若経典などに説かれています。つまり「空」も、無限の広がりを持っているといえる。

私が言う「全体知」もまた、ある一点から立体的、多面的に見極めるような完全なる英知を指します。コロナ禍で求められているのは、この全体知に立った構想力であると思います。戦後日本の成功体験を引きずり、〝何となくうまくいっている〟と錯覚し続けてきた結果、日本人には、目先の価値や損得を求めるのが当たり前になってしまいました。

「イマ・ココ・ワタシ」だけに関心を持ち、クーポンやポイントを集めてばかりいるような、自分だけの〝小さな幸福〟に沈潜しているのではないでしょうか。もっと広い視界から世界と日本を展望し、どうすれば人々に大きな希望と方向性を与えていけるのかを、議論すべきでしょう。

 

 

創価の社会学

——未来への希望を育む上で、宗教が果たすべき役割は何でしょうか。

 

未来を構想する上で基盤となるのは、「イマ・ココ・ワタシ」という価値観を超越する精神性です。そこに教育を通した人材育成の要点がありますし、広い意味で宗教が果たす役割があると思っています。

戦後に経済至上主義が吹き荒れる中、創価学会は、競争にさらされる人々に希望を送りました。社会のなかで困難を極める人たちも、信仰に生き、努力することで、人生が開けるのを経験した。それは「創価学会の社会学」ともいえる現象でした。そうした希望があったから、創価学会は今日まで、大きな組織として生き続けてきたのでしょう。

今、それだけ時代が変わり、目に見えにくい貧困や差別、かくさと言った、社会が抱える問題に向き合い、経穴していくような、エネルギーに満ちた宗教が求められています。経済的な価値の限界が露呈し、何を心のよりどころとしていいか分からない今日にあって、豊かな精神文化を支えるのが宗教です。創価学会に期待するのも、この点です。

そして目先の状況に流されず、絶えながら、二項対立に陥らないという姿勢は、仏教の「中道」(注=相対する両極端のどちらにも執着せず偏らない見識・行動)の生き方に通じます。この生き方を確立するのは容易ではありません。

だからこそ、立体的、多面的な視点から物事の本質を見極める全体知に立ったリーダーの存在が求められます。そんなに有能な野球選手でも、やはり監督がいるダッグアウトを振り返るものです。監督がどういう表情をして、どういう言葉を発するか。それが事態を動かしていくことは多くあります。

そうした真のリーダーシップを発揮できる人を待望しつつ、私たち一人一人ができる行動を起こして、自分の周囲を踏み固めていくことが大切です。

 

てらしま・じつろう 1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。三井物産入社後、ワシントン事務所長、常務執行役員、三井物産戦略研究所書著などを歴任して現在、一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』『シルバー・デモクラシー』(以上、岩波書店)『ジェロントロジー宣言』(NHK出版新書)等がある。TBS系列「サンデーモーニング」、TOKYO MX「寺島実郎の世界を知る力」などメディア出演多数。

 

 

 

【危機の時代を生きる】聖教新聞2021.8.1






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Last updated  September 28, 2022 05:11:05 AM
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