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カテゴリ:文化
夫婦のやり取りに感心した植木屋 落語評論家 広瀬 和生 青 菜 真夏の昼、屋敷の庭の手入れをする植木屋に、縁側から旦那が「ご精が出ますな」と声を掛けた。上方の友人から届いた柳陰という酒を御馳走してくれるという。「ガラスのコップでおあがり」と言われて飲んでみると、関東でいう〝直し〟のことだった。 「よく冷えてますね」「いえ、あなたは暑いところにいたから冷たく感じるのでしょう。鯉の洗いもおあがり」「えっ、これが鯉ですか!」 初めて食べる鯉の洗いに感動して「美味いですね」という植木屋に、檀那は「ごく淡白なもので」と涼しい顔。 「よく冷えてますね」「あ、それは冷えてます。下に氷が敷いてある」「氷! 一つもらっていいですか?」と氷を頬張る植木屋。 「ときに植木屋さん、菜はお好きですか?」「大好きです」「では取り寄せましょう。奥や」と手を称えて奥方を呼んだが、「鞍馬から牛若丸が出でまして、その名を九郎判官」との返事。旦那は「じゃあ義経にしておきなさい」と答えると、植木屋に「菜はもうないそうだ」と詫びた。 謎の会話の意味を植木屋が尋ねると、客に悟られないための〝咄嗟の隠し言葉〟で、菜を食べたから「名を九郎」、よしにしておけということで「義経」なのだという。 「さすがお屋敷は違う」と感心した植木屋は自分もやろうと思い、女房にわけを話して押し入れに隠されると、通りがかった友人に「ご精が出ますな」と声を掛けた。 「ガラスのコップで柳陰をおあがり」「猪口しかねえぞ。それにこれ、当たり前の酒じゃねえか」「鯉の洗いをおあがり」「いわしの塩焼きだよ」「下に氷が敷いてある」「嘘つけ! でも脂が乗って旨いな」「淡白なもので」「脂が乗っているって!」 ちぐはぐな会話にめげず、植木屋は仕上げに取り掛かる。 「ときに植木屋さん」「植木屋さんはお前だろ」「菜はお好きか?」「嫌いだよ」「えっ!? そりゃないよ……食わなくていいから取り寄せさせろ!」「目が血走ってるぞ」 植木屋が「奥や」と手をたたくと、押し入れから汗だくの女房が倒れ込むように現れ、「鞍馬から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官義経」と言い切ってしまった。 「えっ、義経!? ……じゃあ弁慶にしておけ」
【落語を楽しもう▶㉚】公明新聞2021.8.7 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 1, 2022 06:16:41 AM
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