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カテゴリ:心理学
漱石文学に色濃く影響した楠緒子 心理療法家「まどか研究所」主宰 原田 広美 ここからは、青春期の漱石のマドンナ(憧れの人)だった、大塚楠緒子(歌人・作家)と、妻・鏡子が、漱石文学に、どのような影響を及ぼしたかを見てゆきたい。まず今回は、楠緒子である。 学生達のマドンナでもあった楠緒子が、漱石の大学院以来の盟友の小屋保治を入婿に迎え、その妻となったことが、やはり『吾輩は猫である』や『坊っちゃん』の、恋の敗者のストーリーを生み出したと言えるのだろう。 だが、楠緒子への想いが、登場人物達の深層心理を含めた心理描写や、関係性の設定に、色濃く影響したと思われるのは『それから』『門』『こころ』、そして絶筆となった『明暗』は、新妻の側から、夫の独身時代の恋人を詮索するストーリーで、楠緒子と、妻・鏡子の両者からの影響が融合し、一大パノラマと化した感がある。『それから』では、代助と三千代は思い合っていたのに、親友の平岡も「三千代を妻に」と求めているのを知ると、代助は三千代を譲ってしまった。漱石も楠緒子も、思いあっていた形跡が、いくつも見られる。だが漱石よりも裕福で、大塚家と経済的に吊り合い、性格的にも楠緒子の母に気に入られた保治が、恋の勝者になった。 『それから』は、思い合っていたのに、結ばれず、その後再開を経て「やはり思い合う」というスタンス(ニュアンス)が、漱石と楠緒子の現実的な関係性と、オーバーラップする作品なのである。『それから』の連載を呼んだ楠緒子の夫の保治が、今度は精神衰弱に陥った。 『門」は逆で、主人公の宗助は、友人の恋人だった御米と思い合い、友人を略奪した形で、駆け落ち結婚をする。しかし、世の常に背いた二人の生活には「罪悪感」の影がさし、子宝に恵まれず、宗助は下層役人に甘んじるしかなく、経済的にも不安定なままだった。 それでも曲がりなりにも、思い合う同志で結ばれたストーリーだった『門』。これを脱稿後に、漱石は胃潰瘍の悪化による30分の仮死を経験。楠緒子は、漱石に依頼された新聞小説を未完のまま、流感から肋膜炎を発症し、35歳で永眠した。
【夏目漱石 夢、トラウマ―26―】公明新聞2022.7.8 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 26, 2023 06:17:38 AM
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