|
カテゴリ:文化
隠れた奈良の魅力を発信 ―写真家・井上博道記念館―
撮影地を訪ねるツアーも 「かつて奈良県南部の吉野地域は「南山」、東部の長谷や大宇陀の地域は「奥」と呼ばれていました。今回は、〝知られざる奈良〟野中でも『南山」がテーマです」と同館の西村寿美雄館長が語る。 35歳で新聞社のカメラマンからフリーに転身した井上博道は、その後、大学で教え、退職後は現在の記念館である自宅を拠点に、奈良の各地を撮影し続けた。 中でも、井上が気に入って、通い詰めていたのが吉野山地。この一帯だけで1万点に及ぶ作品を残した。 井上のアシスタントとして、各地に同行したこともある妻の千鶴さん。フィルムを整理する中、井上が撮影してきた風景の数々に改めて感嘆したという。 大きな岩山や雄大な山並みはもとより、道中に咲いた川辺の小さな花が美しい。天然のワサビやヤマアジサイ、こけむした岩に咲くヒメレンゲなどが、フィルムには見事に残されている。 「奈良は文化財の宝庫で寺院や仏像の印象が強いと思います。でも、奈良には古代からの美しい魅力があるということを、井上の作品を通して伝えていきたい」と千鶴さんは語る。 写真は、芸術としての表現や、記録としての役割、土地や社会の記憶を残すなど、さまざまな価値を持つ。今回の企画展では、吉野の歴史と、美しい自然が織り成す〝日本の原風景〟に重きを置いた。 「吉野を歩く――井上博道が撮影した土地をたずねて」と題するツアー企画も予定している。井上が作品に残した当時から、今に至る時代の通貨も体感してほしい試みだ。
住居を改装し作品展示 新たな写真文化の胎動
インテリアとしての提案 晩年もデジタルカメラを使わず、作品はすべてフィルムで撮り続けた井上。その総数は、約17万点、じっと持ち構えるというより、次々とシャッターを切った。カメラを何台も抱えていき、カラーだけでなく、必ずモノクロでも撮った。 千鶴さんは8年を費やして、その一つ一つを確認、整理し保存した。 「同じようなアングルのカットが何枚もあるんですが、すべて微妙は違いがあって、自然は刻一刻と変化しますから、見つけた美しいものを一つも逃すまい、という姿勢が伝わってきます」 目的地に着くまでに、寄り道も多かったという。地元の写真愛好家と仲良くなって撮影したことも。その中には、農作業の風景など土地の人々の営みの写真もある。 また井上はシノゴ(4×5㌢)といわれる大判カメラ用のフィルムを好んで使った。 「そうしたこだわりで使い続けたフィルムには、厖大な情報が詰まっているんです」 今、技術の発達で、色が見事に再現できるように。デジタル化で6K映像にして楽しむことも可能だ。とくにインクジェットプリントの技術向上は顕著で、まるで絵画のような精密な印刷ができる。カラーをモノクロにする場合も素晴らしい濃淡を出せる。記念館内のカメラフェススペースに掲げられた作品は、そうした工程を経て生まれた。 写真はプリントする際、サイズの拡縮が自在にできることから「インテリアとして、季節の変化やそれぞれの好みに合わせて飾ってはどうか」と、つづる山に新たな提案をしている。額装や印刷手法など、バリエーションを変えながら、販売作品も監修する。 にしむら館長は「〝小さな文化の発信地〟との思いで、ここから、皆さんに写真をはじめとした文化の魅力を伝えられていけたら」と語る。
【文化Culture】聖教新聞2022.10.13 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 17, 2024 06:55:23 AM
コメント(0) | コメントを書く
[文化] カテゴリの最新記事
|
|