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April 3, 2024
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カテゴリ:文化

日本の形が美食を生む

ジオリブ研究所所長  巽 好幸

 

4つのプレートがせめぎ合う

ユネスコの「無形文化遺産」にも登録され、四季折々の味覚を楽しむ和食。この食文化が日本列島のダイナミックな資質変動によってもたらされる噴火や地震などの災害に備える大切さを学んでほしいと思い『「美食地質学」入門』(光文社新書)を出しました。

日本は111の活火山が分布している世界一の火山大国です。このような場所を地質学では変動帯と呼びます。地かでは四つのプレートがせめぎ合い、沈み込んでいる「沈み込み帯」と呼ばれる世界でも珍しい地域なのです。

このような場所では地震が多く、急峻な山々が生まれます。しかも、日本付近には寒流と暖流が流れ、海底の地形も多種、海岸線も複雑なため、近海には多様な魚が生息しています。

四つのプレートのうち、フィリピン海プレートが約300万年前に沈み込む方向を変えました。このことで、日本列島には劇的な変化が生じました。一つは、日本海溝の位置が西に移動し、東日本が圧縮され、東北地方の山地が隆起。もう一つは、四国付近に中央構造線(巨大な断層)ができ、その北側に横ずれ断層が発生しました。その結果、四国山地と瀬戸内海の形を作り上げたのです。

 

 

軟水が育んだ出汁文化

急峻な産地は和食の基本ともいうべき、出汁文化を発展させることになります。日本は軟水、ヨーロッパは硬水であるということはよく知られています。

ヨーロッパの川はなだらかで、例えばセーヌ川は、約700㌔かけて400㍍を下ります。また、パリの地下水(伏流水)は数万年もの長期間、滞留しているといいます。そのため、石灰岩のミネラルが溶け込んで、カルシウムやマグネシウムの多い硬水となるのです。

それに対し、日本の川は「滝のよう」と称されるほど急です。日本最長の信濃川は、標高2000㍍を超える源流から、わずか370㌔で河口に達します。ミネラルを溶かし込む暇もなく流れてしまうのです。

硬水は、肉の動物性タンパク質や資質と結びつき、灰汁を作ります。これを丁寧に取り除くことで、うま味成分のイノシン酸が凝縮した、生臭みのないスープになるのです。しかし、軟水で同じような肉のスープをつくるのは至難の業です。

その一方で軟水は、昆布出汁を取るのに適しています。昆布のうま味はグルタミン酸です。これを抽出する時、硬水だと昆布表面のぬめり成分(アルギン酸)とカルシウムが反応し膜を形成するため、上手にうま味成分抽出できません。

おそらく、日本の軟水で獣の肉を煮たら美味しくなく、昆布を煮たら美味しかったのでしょう。そこから出汁文化が始まったのではないでしょうか。

また、関東の水は関西に比べやや硬度の高い中硬水です。だからこそ、鰹節が主役となる。かえしや濃厚なタレ、濃い蕎麦つゆなどの文化が生まれたのでしょう。

 

 

自然の恵みをより美味しく

もう一つ、地質と食文化の関係を紹介しましょう。

瀬戸内海は400種以上の魚介類が生息する、世界一豊かな海として知られています。特に明石の鯛は、急流によって身が締まり、うま味が増すことで有名です。この急流は、多島海である瀬戸内海の島々によって狭くなった瀬戸という地形と、穏やかな海が広がる灘という地形が、交互に繰り返すことで生まれます。この地形によって潮の干満に時間差が生じ、急流となるのです。

どうしてこのような地形ができたのでしょうか。先述したように、フィリピン海プレートの沈み込み方向が斜めに変わったことで、中央構造線の北側にシワ状の断層を生み出しました。これが瀬戸と灘が繰り返す瀬戸内海の地形になったのです。

さらに、捕れた海の幸を、より美味しくするため、活じめや神経じめなどの技術が生まれました。熟成させることでうま味成分が増して美味しくなるのです。

日本人は、豊かな自然を生かして、和食という独自の文化をつくり上げてきました。その一方で、恩恵を与えてくれる地質活動、火山噴火、地震などのリスクと向き合い、畏敬の念をもって見つめてきたのです。

恩恵と危険は表裏の存在です。自然災害が来るのは仕方がないと、無抵抗に諦めるのではなく、対策を講じた上で乗り越えていく。それが大切だと考えています。     =談

 

たつみ・よしゆき 1954年、大阪府生まれ。京都大学教授、東京大学海洋研究所教授、海洋開発機構、神戸大学教授などを経て、現在、ジオリブ研究所所長、神戸大学客員教授。専門はマグマ学。著書に『地球中心で何が起こっているのか』『和食はなぜおいしい』など多数。

 

 

 

【文化Culture】聖教新聞2022.12.22






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Last updated  April 3, 2024 06:40:24 AM
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