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April 13, 2024
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カテゴリ:文化

野うさぎと月のうさぎ

帝京大学文学部教授  濱田 陽

うさぎといえば、数字ではない新年を思う。月にウサギがいるといえば、生きのもがいてこの天空を描く。人新世の現代にこそ、大事な完成だ。その存在は、三十九億年を地球で生き抜いてきた生きとしていけるものを、希望に満ちた時空で象徴している。

野うさぎから、私たちは自然の潜在力を知る。国宝「鳥獣人物戯画」では百三の動物中、四一羽ともっとも描かれ、昔話「かちかち山」では、いくつもの山々に姿を現す。徳川将軍家は、正月、参内した大名、家臣たちの野うさぎ肉の吸い物をふるまった。先祖が信州に落ちのびたとき、かくまってくれた山の主人から雪中、ようやく獲れた一羽をふるまわれたことに因み、その生命力は後の将軍家をも興隆させた。

列島の村々では、野うさぎを山の神の使い、山の神そのものと考えた。鳥と同カテゴリーで一羽、二羽と数えて貴重な食料とする一方、白兎を獲らない、山の神の祭日に入山しないなど禁忌があり、石川、岐阜にまたがる白山地域では一族の氏神とされた。野うさぎも祖先の、ともに輪廻転生し、山の神となって生命の源泉に加わったのだ。

 

古くから山の神ともされる

 

今日、わたしたちは、二種のうさぎを胸に抱いている。『不思議の国のアリス』、ピーターラビット、ミッフィーはヨーロッパ南西部からアフリカ北部をルーツとする穴ウサギがモデルだ。好奇心旺盛な少女を地下世界に導いたり、木の根っこにつくった巣では母や兄弟と暮らしたりする。因幡の白兎、月で餅をつくうさぎは列島固有の野うさぎだ。二つに束ねた長い髪がうさぎの耳のようにひらひら揺れ、長い手足を動かし、いつも元気よく走り、友を大切にし、恋に憧れる普通の生活を守るため奮闘する月野うさぎも、この伝統につながるセーラームーンのヒロインだ。ちなみに、中国では月にはかぐや姫でなく嫦娥がいて、この仙女のためにうさぎは薬草をつき、不老不死の薬をつくっている。

 

自然そのものの豊饒を具現

 

ところで、穴うさぎをルーツとする飼いうさぎは、一六世紀にオランダ人がはじめて日本にもたらした。明治時代、白く赤い目の日本白色種が生み出され、軍事用のコート、帽子、缶詰づくりに農家、小学校で奨励され、一九四〇年頃、性愛一の一二〇万羽が飼育されていたという。現代日本で、飼いうさぎは実験動物としてマウス、ラット、モルモットに次に多く用いられている。医学、産業を陰で支える生き物として考えていくべきか、深いテーマが現代文明の課題であり続ける。

紀元前三世紀頃成立の『ジャータカ物語』では、飢えた老人に食べ物を見つけられず、我が身を炎に投じ、与える野うさぎがブッダの前世として説かれる。老人に身を変えていた帝釈天が讃えて、月にうさぎが描かれたという。玄奘三蔵の『大唐西域記』、平安末の『今昔物語』、江戸後期の良寛の長歌でも語られた。

これは純粋な犠牲ではない。月うさぎを思い描くことができた先人たちは、跳ね、疾走し、単独で、雪についた足跡を戻って消すほどに賢い野うさぎの生態を熟知していた。その存在が自然そのものの豊饒の現れであることも理解していた。大地と月が見えない力によってつながっていることすら、感心したのだ。

月うさぎは、民間ロケットと月開発競争の今世紀に、私たちが必要とする感性の宝庫である。

(はまだ・よう)

 

 

【文化】公明新聞2023.1.6






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Last updated  April 13, 2024 05:39:48 AM
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